閑話㉒-6 翠の大冒険①
ルナが二階層で瑛士たちを迎え撃つ準備を進めていた頃。三階層へ続く通路を堂々と歩く翠の姿があった。
「うーん、やっぱり二階層のモンスターじゃ遊び相手にもならないんだよね。ぜんぜん構ってくれないし、じゃれ合おうと思ってもすごい勢いで逃げちゃうし」
頬を膨らませながらふてくされた顔で呟く翠。この場にルナがいたら『お前な、自分の出しているオーラを考えろ』と突っ込まれるのは間違いない。しかし、当の本人はまったく気が付いていなかった。
「ルナさんもルナさんだよ。同じうさぎなんだから、ちゃんと話してほしいよね。ちょっと角があるか無いかの違いだけなんだし」
ルナが聞いたら発狂しそうになるようなことを愚痴りながら、通路を歩き続ける翠。すると途中で急に立ち止まり、じっと壁を見上げる。
「たしかこの辺りに休憩所みたいなのがあったような気がするんだけど……」
壁を見つめたまま、短く鳴き声を上げる翠。しかし、通路に虚しく響くだけで、なにかが起こる気配はまったくなかった。
「あれ? おかしいな? 前にご主人様と来た時、左右に動いて休憩できるスペースがあったと思ったんだけど……何か間違っていたっけ?」
顔を傾げて不思議そうに呟くが、翠は大きな勘違いをしていた。瑛士と一緒に訪れたシャワールーム兼休憩スペースは三階層と四階層の通路にあり、今いる通路には設置されていなかったのだ。しかし、同じような景色が続いているため、そんな事を知るよしもなかった。
「むー! せっかくお昼寝ができると思ったのに! なんで開かないの?」
ただの壁に向かって前足を床に打ち付けながら、怒りを露わにする翠。目の前にある岩を引っ掻いたり、鳴き声を上げたりとしばらく奮闘していた。すると、急に興味が失せたように大人しくなると、前を向いて歩き始める。
「何をやっても開かないし、もういいや。三階層は岩ばっかりだったから……四階層の草原でゆっくりお昼寝しようっと」
納得したような表情で呟きながら歩いていくと、三階層の入口から光が差し込んでいるのが見えた。
「やっと見えた! ほんと面倒くさい作りをしているよね、迷宮って」
今度は迷宮本体に文句を言い始める翠。そして、三階層の入口をくぐると、目の前に岩が積み上がったような景色が広がる。
「あれ? こんなに岩が積み上がっていたっけ? 前来たときはもう少し通路とか分かりやすかったような気がするんだけど……」
記憶にある景色と様変わりした様子に戸惑う翠。しばらく立ち止まって考えていると、近くにあった岩が僅かに動く。
「ん? 岩が少し動いたような気がするけど……そう言えば、岩の形をしたモンスターが居るとかご主人様が言っていたような気が……」
顔を傾げて考え事をしていると、すぐ近くにあった岩が次々と動き始める。空間内に岩石が軋むような音が響き始めるが、翠は気にする様子を見せない。徐々にモンスターが姿を現し、ゆっくり翠へ向かって近づき始めると、急に何かを思いついたように声を上げる。
「このフロアって岩が多くて進みにくいから……全部作り変えちゃえばいいんだよね?」
怪しげな笑みを浮かべた翠を見て、近づいてきたモンスターたちに戦慄が走って動きが止まる。
「あれ? さっきと岩の位置が変わっているような?」
モンスターたちが動いたことにより、景色が変わったことに気がついた翠が不思議そうな顔であたりを見渡す。
「さすが迷宮だね。遊びやすいように岩場を作り変えてくれるなんて! でも……遊びやすさと進みやすさは別だから、全部壊しちゃお!」
満面の笑みを浮かべてとんでもない言葉を聞き、モンスターたちが一斉に逃げ出す。すると、翠の頭に砂が当たり始めると、両前足を器用に動かしながら払いのける。そして、頬を膨らませて不機嫌そうに声を上げる。
「もー急に動き出したから頭に砂とか落ちてきたじゃない! 動くならちゃんと言ってほしいよね……」
苛立った翠が大きな鳴き声を上げると、空間内の空に稲妻を纏った黒い雲が立ち込め始める。
「もういいや、面倒くさいから……消えちゃえ!」
声を上げると同時に空から無数の雷が降り注ぎ、爆発音とともにモンスター共々砕け散り始める。そして辺り一帯が煙に包まれ、視界がゼロになると我に返った翠が気まずそうな顔で呟いた。
「あ、あれ? ちょっとやりすぎちゃったかな……」
翠はまだ知らなかった――この爆発が後に瑛士たちを巻き込んだ大騒動を引き起こすきっかけになることを……
最後に――【神崎からのお願い】
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