閑話㉒ー1 動き始める飯島の思惑
瑛士たちが二階層で攻略配信を始めた時、各種モニターが並ぶ室内で不敵な笑みを浮かべて見つめる人物がいた。
「ようやく始まったよう……って、瑛士くんってここまで厨二病をこじらせていたっけ?」
画面の向こう側で大騒ぎする様子を見ながら、顔をかしげている飯島。まさか見られていると知らない瑛士は、どんどん黒歴史を暴露され始めていた。
「うわ……なんのことかよくわからないけど、ウサギさんをひっ捕まえて俺の眷属にとか、寛大な心を持つ私でもドン引きだわ……まあ、男の子って漫画やアニメの影響を受けやすいけど、ネット配信で暴露するのは……ねぇ」
慌てふためく瑛士の様子を見て、呆れたように呟く飯島。すると急に立ち上がり、誰もいない空間に向かって声を上げる。
「は? 博士も同じですよってどういう意味よ! ……って、あれ?」
鬼の形相で振り返りながら声の主を睨みつける飯島。もちろん紀元どころか誰もいない室内に彼女の声が虚しく響き渡る。
「あれ? おかしいわね……今たしかに紀元の声が聞こえたと思ったんだけど?」
改めて周囲を見渡すと、必死に現場で部下に指示を飛ばして対応に追われる紀元の様子がモニターに映っていた。
「……そうよね、まだ現場の対応中だったわ。でもなんで空耳なんか?」
顔をかしげながら考えていると、何かを思いついたように手を叩いて声を上げる飯島。
「きっと疲れているのね。空耳が聞こえたってことは、原因は間違いなく紀元ね。どう責任を取らせようかしら……そうだ! 私の美貌を保つことは会社……いや、世界にとって重大な使命なのよ!」
とんでもない斜め上の答えに行き着き、飯島の叫びはとどまることを知らない。
「私は神に選ばれし存在なんだから、常に最高の美しさと頭脳を維持しなくてはいけないの。だから高級エステを会社の経費で落とすのは仕方ないことなのよ!」
言い終えた瞬間、モニターの向こうで指示を飛ばしていた紀元がまるで聞こえていたかのように口を動かして何かを叫ぶ。その様子が視界に入った飯島は、不敵な笑みを浮かべて声を上げる。
「あら? 紀元がこちらを見て何か叫んでいるわ。そう、私の考えに賛同してくれているので間違いないわね」
腕を組んで大きく頷いていると、紀元が身振り手振りを交えながら何かを訴えていた。
「ふふふ、何だか知らないけどすごく喜んでいるのが伝わるわ。紀元もうれしいってことが分かったからには早速予約しないとね!」
意気揚々とスマホを取り出し、エステの検索を始める飯島。画面の向こうで必死に訴えかける紀元のことなど気にする様子はなかった。
「ふう、どこのお店も施術メニューが豊富すぎて迷うわね……ん?」
しばらくスマホとにらめっこをしていた飯島が顔を上げると、ある画面に映し出された光景に目が釘付けになる。
「あれ? なんでこんなにたくさんモンスターが集まっているのかしら?」
映し出されていたのは二階層の入り口に集結しているホーンラビットの群れだった。本来であれば集団行動を好まないモンスターのはずだが、なぜか一点を見つめて続々と集まり始めていた。
「おかしいわね……私は何もしていないし、二階層は観光客も入るから下手なことできないのよね」
眉間にしわを寄せた飯島がモニターを見つめながら呟くと、一人の影が入り口に現れる。
「あら? 誰か来たみたいね……」
モニターを見つめる目が鋭くなり、画面に映った人物を見て不敵な笑みを浮かべて呟く。
「へえ、瑛士くん一人で立ち向かうとは面白いじゃない。どんな立ち回りをするのかしっかり見せてもらおうかしら……そうだ、あいつらにも指示を飛ばしておかないとね」
スマホを手に取ると、手早く操作をしてどこかに電話をし始める飯島。
「もしもし、私よ。迷宮配信のチェックはしているかしら? そう、二階層に例の人物が現れたの、しかも生配信のおまけ付きで」
電話口の相手から返答が返ってくると、口元を吊り上げながら声を上げる。
「ふふふ、わかっているじゃない。そう、今まで通りリスナーの一人として紛れ込んでコメントもよろしくね。あと、解析班にも映像の提供を忘れないでよ。今後のデータに生かしたいから……頼んだわよ」
通話を終えると、小さく息を吐いてモニターを再び見つめる飯島。
「さて、どんな面白いことが待っているのか楽しみね。まあ、二階層程度のモンスターじゃ話にならないけど……お楽しみはこの後に待っているわ」
飯島の不敵な笑い声がモニタールームに響き渡る。
この時までは彼女の思惑通りに物事が進んでいたはずだった……この直後、予想しなかった事態が襲い掛かることになるとは――誰一人知らなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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感想やレビューもお待ちしております。
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