第8話 異変は四階層でも起こっている?
ルリがため息を吐きながら見つめた先にいたのは、未だに言い争いをしておる瑛士と音羽だった。
「だーかーら、瑛士くんは普通じゃないって言っているでしょ? 昔から監視……じゃなくて見ていた幼馴染のいうことを信じられないの?」
「幼馴染だからって全部知っているわけ……って、監視って言ってなかったか?」
音羽の言葉に引っかかりを覚えた瑛士が聞き返すと、露骨に目をそらす。音羽は慌てた様子でとんでもない暴露を始める。
「き、気のせいよ! 誰よりも瑛士くんのことを知っているんだからね! 寝言の記録とか好きなアニメの技を練習していたりとか、ヒロインにガチ恋しかけたり……」
二度と思い出したくない黒歴史をどんどん暴露され、大慌てで口を塞ごうと試みる瑛士。しかし、そんな動きを予測していたかのように華麗に避け、口撃をやめない音羽。
「ふふふ、私を甘く見ないことね。瑛士くんの秘密はすべてまるっとお見通しなのよ!」
「……盗撮と盗聴していただけだろ……」
自信たっぷりに胸を張って答える音羽を見て、額に手を当てて呟く瑛士。呆れてものが言えなくなったタイミングで、呆れた顔をしたルリが話しかけてくる。
「もう良いかのう……いつもの夫婦げんかはもう見飽きたんじゃが」
「え? 夫婦だなんて……ルリちゃんに認められたということは、もうアレよね」
ルリの言葉を聞いた音羽が頬を赤らめ、両手で顔を覆い隠すと体をよじらせながら声を上げる。そんな彼女の様子を見た瑛士が、大きく息を吐きながら話しかける。
「誰が夫婦なんだよ……そもそも、音羽も変なとこだけ切り取って解釈するんじゃねーよ……」
「ご主人、諦めるのじゃ。本人には聞こえておらんぞ」
呆れたようにルリが視線を向けると、顔を真っ赤にしながら何かを呟き続ける音羽の姿があった。その姿を見た瑛士は大きく口を開けたまま固まってしまう。
「……ダメだこりゃ」
「まあ、諦めることじゃな。さて……そんなことよりも、そろそろご主人も体が慣れてきた頃じゃなかろうか?」
笑みを浮かべたルリが問いかけると、何かに気がついたような顔になる瑛士。
「そう言われたら……なあ、奇妙な魔力を感じるんだが、お前たちが言っていたのはこのことか?」
「ようやくわかってくれたんじゃな」
険しい顔で問いかける瑛士を見て、ルリが満足げな表情で答えた時だった。彼の口から思いもよらない言葉が飛び出す。
「ああ、時間は掛かったけどな……しかし、このフロアだけじゃないぞ。もっと上の階層、四階層からも流れ込んできている。ものすごく嫌な予感がする」
突如険しい顔で話し始める瑛士の変化に驚いたルリが、思わず声を上げる。
「は? ご主人、それは本当か?」
信じられないと言った表情で聞き返すルリ。しかし、瑛士は彼女の様子を気にかけることなく、淡々と話を続ける。
「ああ。感覚が戻ったばかりで過敏に反応しているのかも知れないが、明らかに出口から妙な魔力が流れてきているんだ。どこかで感じたことがあるような気もするが……一刻も早く次の階層に向かったほうがいいのかも知れない」
「う、うむ……それは一理あるのじゃ」
思いもよらない言葉を聞いて、瑛士を見つめたままその場に立ち尽くすルリ。
(次の階層まで感じ取れるとはどういうことなんじゃ? 規格外なのは間違いないのじゃが……)
「ん? ルリどうしたんだ? 俺の顔になにかついているか?」
「あ、いや、なんでもないのじゃ」
視線に気がついた瑛士が問いかけると、慌てて身振り手振りを交えてごまかすルリ。そんな彼女の様子を見て、怪訝そうな表情でさらに話しかけようとした時だった。
「瑛士くん、ルリちゃん、どうしたの? なんか難しそうな顔をしているけど」
「音羽お姉ちゃん! 助かったのじゃ!」
不思議そうな顔をして二人に問いかける音羽が近づいてきた。その姿を見て、目に涙を浮かべて駆け寄っていくルリ。
「え、ル、ルリちゃん? どうしたの?」
いきなり飛びついてきたルリに驚いて、困惑する音羽。そんな彼女のことなどお構いなしに、ルリは話し始める。
「どうもこうもないのじゃ。わらわは……もう考えがまとまらなくて……どうして良いのか」
「一体何があったの? ちゃんと説明してくれないと……」
「説明しようにもどう話していいのかわからないのじゃ!」
「ええ……」
まったく話が通じないルリに困惑していると、呆れたような顔をした瑛士が話しかけてくる。
「さっきからルリの様子がおかしいんだよな。なんか変なもんでも食べたのかもしれん」
「いや、何も食べてないでしょ……それよりも瑛士くん、だいぶ顔色が良くなってない?」
「ああ、感覚が戻ってきたからな。それよりも、早く四階層に向かったほうがいいかもしれん……すごく嫌な予感がするんだ」
笑顔で話していた瑛士が急に険しい顔になり、何かを感じ取った音羽が目を細めながら呟く。
「へぇ、そこまで分かるんだ……」
「ん? なにか言ったか?」
「なんでもないわ。それじゃあ早く向かいましょうか、四階層に」
不思議そうな顔をする瑛士を無視し、抱きついていたルリの頭を優しく撫でる音羽。
「ルリちゃん。混乱しているところ申し訳ないけど、四階層に向かいましょうか」
「わかったのじゃ。わらわも確認したいことがあるのじゃ」
顔を上げたルリが力強く頷いたのを見て、笑顔を浮かべる音羽。そして、そのまま鋭い視線を出口の方へ向ける。
(明らかに何かおかしなことが起きている……姿の見えない翠ちゃんが無事ならいいんだけど……)
未だ影も形も見えない翠を心配する音羽。
この時、彼女たちはまだ知らなかった、一連の出来事が翠と深く関係していることを……
最後に――【神崎からのお願い】
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