第7話 瑛士の天然は相変わらず……
険しい顔のまま出口を見つめるルリに対し、魔力が戻り始めた瑛士が声をかける。
「やけに険しい顔をしているが、どうしたんだ?」
「ご主人は何も感じないのじゃろうか、やけに静かすぎるということに」
「そりゃ静かだろ。これだけ派手にぶっ壊されてほぼ更地になっているんだし……」
ルリの返答を聞いた瑛士が周囲を見渡し、呆れたように話しかける。すると、彼女がわざとらしく大きなため息を吐き、声を上げる。
「はぁ……ここまで鈍感じゃとは思わなかったぞ」
「誰が鈍感だって? そりゃここまで破壊されていることは異常だけどさ!」
ルリに対して瑛士が食ってかかろうとした時、黙ってみていた音羽が間に割って入る。
「はいはい、瑛士くんもあんまりムキにならないの」
「ムッ……仕方ないだろ、言っている意味がまるでわからないんだよ」
「それにしても聞き方ってものがあるでしょうが、歳上なんだし、少しは冷静になりなさい」
音羽に一喝されて何も言えず、黙り込む瑛士。すると今度はルリの方に向き直ると、優しく声を掛ける。
「ルリちゃん、さっきのエイジくんに対する言い方はちょっと言葉足らずだと思うの」
「そんなことは無いと思うのじゃが……」
頬を膨らませて小声でつぶやくルリを見て、小さく息を吐くと諭すように話す。
「ルリちゃん、今まで瑛士くんは魔力を封じた状態で戦っていたの。いきなり封印を解除して、同じように感じろっていうのはちょっと無理があるかなと思うの」
「むう……でも、そんなに長い時間じゃなかったと思うのじゃ。それにご主人クラスであればすぐに対応できても……」
「言いたいことは分かるわ。それは通常時であればだけどね……ニ階層のホーンラビットを一蹴した後、ルナちゃんとじゃれ合っていたわけだし。完全に魔力の流れが安定するまでは少し時間がかかるわ」
「……」
説明を聞いて何も言えず、俯いてしまうルリ。そんな彼女の様子を見て、頭に優しく手を置くとゆっくり語り始める音羽。
「そんなに落ち込むことはないわよ。瑛士くんはまだわかっていないけど、私はずっと感じているから……ルリちゃんの言っている違和感の正体を」
ルリの頭を優しく撫で、音羽は目を閉じて柄に手を添える。呼吸を整えるように静かに息を吐くと、彼女を中心に張り詰めた空気が周囲を支配し始める。その姿に圧倒された瑛士とルリが思わず息を呑んだ時、空中に十文字の光の線が走る。次の瞬間、その切れ目が上下左右にズレ始めた様子を見ると、音羽が目を開いて声を発する。
「なかなか手の込んだ真似をしてくれるじゃない……でも、今回は相手が悪かったわね」
刀を鞘にしまう金属音が響くと、目の前の空間にヒビが入る。そして、ガラスの砕けるような音が響き渡り、途絶えていた音が一気に聞こえてくる。
「な……音羽、これはいったいどういうことなんだよ!」
「そ、そうじゃぞ! たしかに違和感はあったのじゃが……」
驚いた瑛士とルリが次々と声を上げると、音羽が小さく息を吐いて答える。
「ええ、三階層程度のモンスターができる芸当じゃないわ。この結界を張ったのは別にいる……」
「ま、まさか飯島女史の関係者がということじゃなかろうか?」
返答を聞いたルリが焦ったような口調で問いかけるが、音羽は苦笑いを浮かべると口を開く。
「いい線いっているわ……と言いたいとこおだけど、大外れよ。ヤツラ……呪われた子供たちを擁しているとは言え、ここまでの芸当はできないわ。だって……人間業じゃないもの、複合結界をフロア全体に張るなんて」
音羽から明かされた事実を聞いて、口を丸くしたまま固まってしまうルリ。すると、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした瑛士が話しかけてくる。
「よくわからないんだが、そんなにすごいことなのか?」
「……あのね、気配遮断の結界を張るだけでも膨大な魔力を必要とするの」
「そういうものなのか。二重に結界を張ることくらい誰でもできると思っていたからな」
「は?」
とんでもないことを言い出す瑛士に対し、今度は音羽が口を開けて固まってしまう。そんな彼女の姿を見て、驚いたように声を上げる。
「おい、どうしたんだ? 音羽らしくないぞ、そんな驚くなんて」
「あ、あ、ありえないでしょうが! 結界がそんなぽんぽんとできるわけ無いでしょ!」
「なんで怒っているんだ? そんな大変なものじゃないだろ」
まったく話の噛み合わない瑛士と音羽の様子を見ていたルリが、大きなため息を吐きながら止めに入る。
「ご主人、自分がどれほど規格外か認識したほうが良いぞ……」
「は? 何を言っているんだ? 俺は至ってノーマルだっての」
「あーうん、わかったのじゃ。これは口で説明するよりも実際に体験させたほうが早いじゃろうし……まあ、ご主人だけではなく音羽お姉ちゃんもじゃな」
「え? 私もってどういうこと?」
ルリの言っている意味がわからず、目を丸くして聞き返す音羽。そんな二人の様子を見て、呆れたような顔でルナに話しかける。
「のう、ルナ……この二人はどうしたらわかってもらえると思うかのう?」
「キュー……」
揃って項垂れながら大きなため息を吐くルリとルナ。
「まあ……さっさと五階層まで行ったほうが良さそうじゃな……さすがにエリアボスは大丈夫じゃろうし」
未だに何か騒いでいる二人を横目に遠い目をしながらため息を吐くルリ。
エリアボスなら大丈夫という彼女の真意はどこにあるのか?
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