第3話 素直なルナは誤魔化せませんでした
三人の視線が一斉に向けられるが、ルナ本人は明後日の方向を向いたまま鳴き声を上げる。
「キュー?」
一切目を合わせずに顔を背けていると、今まで聞いたことの無いような低い声でルリが問いかける。
「ルナ、わらわは何も言っておらんのじゃが……何か知っておるのじゃろ?」
「キュー、キュキュキュー!」
「ふむ……『何のことかさっぱりわからない、翠がどこにいるかなんて知らないんだもん』と言いたいのじゃな」
「キュー、キュキュ」
ルリの言葉を聞いて顔を上下に激しく動かして頷くルナ。その姿を見た音羽が何かを手に持って、わざとらしく声を上げる。
「あれー? こんなところにおやつ用のチュールがいっぱい出てきちゃったな。しかもウサギ用の」
「キュー? キューキュキュキュ」
チュールという言葉を聞き、勢いよく振り返るルナ。視線の先には右手に大量のチュールを持ち、笑みを浮かべていた。
「あーせっかくたくさんのおやつがあるんだけど……誰もいらないわよね」
「キュー! キュキュキュー!」
「そうよね~私が持っていてもしょうがないし、ホーンラビットたちにあげてもいいかしら?」
二階層の出口を向いた音羽がわざとらしく声を上げると、ルナが勢いよく彼女の前に飛び出して鳴き声を上げる。
「キュー! キュキュ!」
「あら? ルナちゃんどうしたのかしら?」
「キュー、キュキュキュー!」
「なになに? それは自分のおやつだから役に立たないモンスターにあげないでほしいって?」
「キュー!」
後ろ足を地面に打ち付けながら猛抗議するルナを見て、口角が吊り上がる音羽。
(ふふふ、引っ掛かってくれたわ。どこまで耐えられるのか見せてもらおうかしら)
怪しげな笑みを浮かべると、両膝を突いてルナと視線を合わせて語り掛ける音羽。
「ルナちゃんの大好物の一つだもんね?」
「キュー!」
「うんうん、ホーンラビットなんかと比較したら失礼だもんね、ルナちゃんみたいなカッコよくてキュートなうさぎさんと」
「キュー! キューキュキュキュ!」
音羽の言葉を聞いて誇らしげに胸を張り、声を上げるルナ。そんなやり取りを見ていた瑛士が思わず本音を漏らす。
「キュートでカッコイイね……コイツのどこにそんな要素が……グフッ」
顎に手を当てながら言葉を発した瞬間、一筋の光が瑛士のみぞおちに向かって突き刺さる。彼は最後まで言い終える間もなく、白目をむいて後ろに倒れてしまう。その直後ルナが小さく息を吐くと、怒りに満ちた咆哮を上げる。
「ギュー!」
「瑛士くん、いい加減に学習しなさいよ……ルナちゃんが普通のウサギじゃないことくらいわかっているでしょ?」
「……」
白目をむいて微動だにしない瑛士に向け、呆れた顔で語りかける音羽。しかし、彼から返事が返ってくることはなかった。
「ギューギュギュギュ!」
未だ怒りの収まらないルナが後ろ足を床に叩きつけながら、抗議の鳴き声を上げる。そして、その勢いのまま瑛士に向かって跳びかかろうとした時、後ろから音羽が声をかける。
「ルナちゃん。そんな死体蹴りみたいなことはせずに、こちらに来てチュールでも食べない?」
「キュー!」
全身の毛を逆立てて怒りを露わにしていたルナだが、チュールを差し出されて一気に機嫌がよくなる。そして、音羽の元へ勢いよく駆け出して、夢中で一本目のおやつを食べていた時だった。突然後ろから体を抑え込まれ、身動きが取れなくなる。
「キュー、キュキュキュー!」
「ふふふ、ようやく捕まえたのじゃ……さて、おやつも食べた事じゃし、ちゃんと質問に答えてもらうのじゃ!」
「キューキュキュキュ、キューキュ!」
必死に身を捩りながら逃げ出そうとするルナだったが、ルリに背後から抱き上げられてしまう。
「さて、知っていることを洗いざらい吐いてもらおうかのう? 正直に答えてくれたら好きなだけチュールをあげても良いのじゃが……どうするのじゃ?」
「キュ……」
ルリの言葉を聞いて苦悶の表情を浮かべるルナ。顔を上下左右に動かして悩んでいると、急に観念したように項垂れて鳴き声を上げる。
「キュー、キュキュキュ」
「うむうむ、ようやく観念したのじゃな。では、翠はどこに行ったのか教えてもらおうじゃないかのう」
勝ち誇った顔になったルリが腕の中にいるルナに問いかける。すると顔を上げて声を上げる。
「キュー、キュキューキュ」
「ふむふむ。二階層で一緒に遊んでおったが、少し冒険してくると言って急にいなくなったと」
ルリの言葉を聞いて大きく頷いて答えるルナ。そしてそのまま鳴き声を上げて話を続ける。
「キュー。キュキュキュ、キュー」
「勝手な行動をするなと止めようとしたのじゃが、ものすごいスピードでいなくなってしまったと。そうこうしているうちにご主人たちが来て、とりあえず合流することを選んだのじゃな」
「キュー」
ルリの腕の中で大きく頷くルナを見て、話を聞いていた音羽が口を開く。
「なんとなく話は理解したわ。まあ、翠ちゃんも子猫だし……いろんなことに興味を持つ年頃だもんね。でもいったいどこに行ったのかしら? 二階層にはいる気配がしなかったけれど……」
音羽が疑問を口にした時だった。地響きに似た揺れと爆発音のような音が通路内に響き渡る。
「な、なに? 今の爆発音?」
「な、何が起こったのじゃ? 三階層のほうから聞こえたのじゃ! まさか、翠が巻き込まれてしまったのではなかろうか?」
「うそ……は、早く助けに向かわないと!」
ルリと音羽の脳裏に最悪の事態がよぎり、一気に血の気が引いていく。
はたして、謎の爆発音は翠に何か関係しているのだろうか?
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