第2話 大人の力は絶大でもない?
いきなり突き付けられたタブレットを食い入るように瑛士とルナが見ると、顔をかしげながら声を上げる。
「うーん、いまいち何が問題なのかまったくわからんのだが?」
「キュー?」
揃って疑問の声を上げる様子を見て、ルリが声を荒げながら話しかける。
「何を言っておるのじゃ! 『企業とタッグを組む新戦略配信者いーちゃんのすごさ』とかいう特集が、ヤプーニュースのトレンドを飾っておるのじゃぞ!」
顔を真っ赤にして、地団駄を踏んで悔しがるルリ。そんな彼女の姿を見て、瑛士が呆れたように声をかける。
「はあ……そんなもんなのか? まあでも、ヤツの場合は自社ブランドで話題の餌まきをしたようなもんだからな」
「そんなことはわかっておるのじゃ! カリスマ配信者であるわらわをではないというのは、由々しき事態なのじゃ!」
「とはいってもな……向こうは大人の力を最大限利用しているわけだろ? 個人勢のお前がいくら頑張ったところで、勝てない部分はしょうがないというか……ん?」
瑛士が諭すように話し始めると、黙って聞いていた音羽が右肩に手を置いて制止する。そして、そのまま悔しがっているルリに話しかける。
「ルリちゃん、たしかに悔しいわよね……実力じゃなくて、お金の暴力でトレンド入りされるなんて」
「そうなのじゃ! 実力でわらわが負けるわけがないのじゃが、汚いやり方でのし上がるのは許せないのじゃ!」
「気持ちはすごくわかるわ……でも、一回くらいトレンドに乗ったとしても、実力が伴ってなかったらすぐ落ちていくだけよ」
「うんうん、音羽の言うとおりだな」
腕を組みながら話を聞いていた瑛士だが、この直後に音羽の口から飛び出した言葉に耳を疑う。
「それに、知名度とトレンドランク入りではルリちゃんと瑛士くんには遠く及ばないでしょ?」
「うんう……ん? トレンドランキングになんで俺の名前が出てくるんだ?」
突然飛び出した自分の名前を聞いて、思わず聞き返す瑛士。すると音羽とルリが豆鉄砲を食った鳩のような顔をして声を上げる。
「何を言っておるのじゃ? ご主人がトレンド入りするのは当然じゃろ」
「そうよ。いまさら何を言っているの? あれだけトレンドランキングを荒らしておいて、まさか知らなかったとか言わないわよね?」
さも当然のように語り始める二人に対し、何のことかわからず顔をかしげながら瑛士が聞き返す。
「何のことだかさっぱりわからんのだが? ルリがランキングを駆け上がるのはわかるが、俺は配信者でもないぞ。そんなトレンドに載るような有名人じゃあるまいし……」
「は? 何を言っているの? この間もリスナーとバトルをしていた人がトレンド入りしないわけないじゃない。ほら、これ見てみなさいよ」
ルリからタブレットを借りると、慣れた手つきで操作する音羽。そして、ある画面を開くと瑛士の前に突き出す。それを見て素っ頓狂な声が通路内に響き渡る。
「はあぁぁぁぁ! なんで俺がランキングに載っているんだよ! しかも二位って……」
「あれ? 本当に知らなかったの? そりゃ一位に輝くルリちゃんの配信にがっつり出ていれば、いやでも目立つに決まっているでしょ」
「いやいやいやいや、ありえないだろうが!」
タブレットを両手で握りしめると食い入るように画面を見る瑛士。いまだに信じられないのか、何度も目を擦って瞬きをしながら声を上げる。その姿を見た音羽が大きなため息を吐きながら話しかける。
「はぁ……ちょっと考えたらわかるでしょ。リスナーにかみつき、ルナちゃんとじゃれ合って、オネエ軍団に気に入られているんだから。特にオネエの結束力というか発信力は半端じゃないわよ」
「俺は気に入られたくてやっているんじゃねーよ! むしろ被害者だっての! それになんだよ、この『ご主人は夜の二刀流疑惑? オネエ軍団が熱い視線を送る』って……俺、どうなっちゃうのよ!」
瑛士の絶叫が再び響き渡ると、音羽が感心したような顔でタブレットを覗き込む。
「あら、よかったじゃない。オネエを味方につけるなんてそうそうできないわよ」
「よくねえよ! だいたいなんだよ、このまとめ記事は! 『オネエ軍団の代表曰く、本妻はミルキー様しかいないけど……教育係は私たち任せなさい。立派なオトコに仕上げてあ・げ・る』って! 身の危険を感じるわ!」
「ふふふ、さすがオネエ様たちね。よくわかっているじゃない」
「感心するところじゃねーだろうが!」
あまりのショックに瑛士がタブレットを持ったまま、その場にしゃがみ込んでしまう。そんな彼の様子を気にすることなく、タブレットを取り上げると笑みを浮かべてルリの元に戻る音羽。
「ちょっとやりすぎちゃったかしらね」
「まあいいんじゃなかろうか。しかし、よくできておるのう。本物のランキング画面とそっくりなページを作るなんて、すごいのじゃ!」
「まあこの程度はコツさえつかめば、楽勝だしね。いーちゃん側の情報を錯乱させる目的が主だし」
言い終えるとタブレットをタップして、本来のトレンドランキングを表示させる音羽。もちろん第一位にはルリが君臨しているが、それ以外のランキングはニュースやバズったタグなどが並んでいた。当然、瑛士の名前はおろかいーちゃんの名前も載っていない。
「さてと、これで瑛士くんも少しは冷静になるでしょうし。あ、そういえばルナちゃんはここにいるけど、翠ちゃんってどこに行ったんだろ?」
「言われてみれば姿が見えないのじゃ。それに近くにいるような気配もないのう」
ルリと音羽が姿の見えない翠の存在に気が付いて辺りを見渡す。すると、気まずそうな顔をしながら視線を外すルナの姿が視界に入る。
「ルナ、お主……何か知っておるのじゃな?」
圧力の乗ったルリの言葉がルナの両肩に重くのしかかる。
一緒に行動していたはずの翠はどこへ消えたのか?
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