閑話㉑ー3 ノリとツッコミはバッチリ
不敵に笑う飯島を見て、紀元の額から一筋の汗が流れ落ちる。
(な、なんで笑っているんだ? 博士は何か知っているかもしれない……のか)
二人の間に流れる空気が一変し、一気に張り詰めた雰囲気が漂い始める。笑みを浮かべたまま何も言わない飯島の様子を見て、紀元の緊張が最大になった時だった。
「あら? そんな驚いたような顔をしてどうしたのかしら?」
「い、いえ……博士こそ、ずいぶん楽しそうに見えますよ」
「そうかしら? じゃあ、なんで笑っているのか当ててみたらどうかしら?」
真剣な表情で問いかける紀元に対し、笑みを浮かべたまま意味深な返答をする飯島。
(いったい博士は何を考えているんだ……さっぱりわからん。でも答えないと後々面倒くさいことになるし……)
紀元が考えを必死に巡らせていると、飯島が笑い声を上げながら話しかけてきた。
「ふふふ、私がさっき言っていた謎の清掃員について、何か知っているんじゃないかと思っているんじゃない?」
「……な、なぜそう思ったのですか?」
「だって、顔に書いてあるもん。冷静沈着で博識な博士は何か知っているに違いないって」
腕を組みながら自信たっぷりに答える飯島に対し、豆鉄砲を喰らった鳩のような顔になる紀元。そして、絞り出すように呟く。
「……いや、そこまでは思ってませんが……」
「あ? 何か言ったかしら?」
「キノセイジャナイデショウカー」
「なんか引っ掛かるわね……まあ、いいわ。私が博識で尊敬される存在というのは間違ってないんだから」
「……」
あまりにも堂々と言い放つ飯島の姿を見て、紀元は何も言えずその場に立ち尽くしてしまう。そんな彼の様子を見て、満足げに言葉を続ける。
「感動して固まってしまったのね。ほんと私と直に話せるなんてどれほどの価値があるのか……自分で言うのはアレだけど、ものすごく貴重だと思うのよね」
「ソウデスネー」
「そうそう、リスナーも含めてもっと私を崇めるべきなのよ! こんなカリスマ性を持ったナイスバディな人格者なんて世界を探してもどこにもいないわ」
飯島の話を聞き流していた紀元だが、ある単語だけはさすがに聞き流せずにツッコんでしまう。
「いや、ナイスバディはないですよ」
彼のツッコミを聞くと同時に、笑顔で話していた飯島の表情が一変する。
「今なんて言ったのかしら?」
「いえ、ナイスバディはないでしょって言っただけですよ。あ、もしかして聞こえてました?」
「あったりまえでしょうが! 誰が中学生の時から背が伸びてなくて、体型も変わってないお子ちゃまですって!」
「そこまで言ってないでしょうが!」
「いいえ、そう思っているのに違いないわ! 一部の大きなお友達に大人気とか言いたいんでしょ? こんな頭脳明解で仕事もできる女なのに!」
「いえ、だから自分で言わないでくださいよ……あとで、ソフトクリームを買ってあげますから」
「きー! 子ども扱いするんじゃないわよ!」
紀元の言葉を聞いて、一気にヒートアップする飯島。地団駄を踏みながら金切り声を上げる様子を見て、大きなため息を吐いた時だった。
「全く仕方ないな……今人気急上昇中の配信者である飯島博士にお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
ヒステリックに叫び続ける飯島に対し、紀元がわざとらしく持ち上げて問いかける。すると、人気急上昇という単語に反応した彼女が、満面の笑みで食い付く。
「人気急上昇中で話題の配信者である私に聞きたいことがあるの? いいわ、何でも答えてあげるから聞きなさい」
「……ほんと単純なんだからな……」
「あ? 何か言ったかしら?」
「いえ、何でもありませんよ。博士、先ほどもお聞きしましたが、迷宮の中で不審な清掃業者を見かけてませんか?」
紀元が真剣な顔で問いかけると、含みを持たせた笑みを浮かべて飯島が口を開く。
「ふふふ、実は……」
「じ、実は?」
笑みを浮かべて飯島が一瞬黙り込み、何とも言えない空気が支配し始める。自らの心音が早くなるのを感じながら、彼女の返答を待っていた時だった。突然、真剣な表情になると紀元に向かって口を開く。
「結論から言うわ……アンタが言う怪しい人物は……」
「あ、怪しい人物は……?」
「いなかったわ!」
「そうですか……て、なるか!」
飯島の返答を聞いて思わず大声で叫ぶ紀元。そして、その勢いのまま鬼の形相で詰め寄っていく。
「なんで期待させるような間を持たせるんだよ!」
「ちょっとなんでそんなに怒ってるのよ? ちょっと溜めを作った方がドキドキ感が上がるじゃない」
「時と場合を考えろって言ってるんだ! 人が真剣に聞いているのに!」
「だから聞き方ってもんがあるでしょ? そもそも、関係者用の通路はアンタが仕掛けたセキュリティのおかげで、猫であろうとパスを持たない人間は即座に引っかかるでしょうが」
「……あ、そうでした……」
告げられた事実を聞いて、急に冷静になる紀元。そのまま地面に膝から崩れ落ちると、頭を抱えて呻き始める。その様子を見て、呆れたように小さく息を吐く飯島。
「まったく、コイツは優秀なんだけどどこか抜けてるのよね……」
そのまま顔を上げて振り返ると、迷宮を見上げながら呟く。
「どんな手を使ったのか知らないけど、センサーを回避して動く怪しい影が複数あったのは事実なのよね……面白いことをしてくれるじゃない」
再び不敵な笑みを浮かべて、意味深な言葉をつぶやく飯島。
はたして、彼女が複数の怪しい影の正体とは――いったい何なのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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