第12話 突然の幕切れと迫る闇
姿を見せぬ襲撃者に警戒しながら、投げた短剣の回収を試みる瑛士。一瞬、背中を向けるようなそぶりを見せると、呼応するかのような不気味な鳴き声が響き渡る。
「ギュオォォォォ!」
「チッ、しっかり見てやがるとは……まあいいだろう、どんな奴でも倒すまでだ!」
瑛士が先ほど投げた短剣とは別の物を取り出し、草むらに向かって構えを取る。すると、今まで感じたことのないような闘気が放たれる。
「相手にとって不足なし……さあ、どこからでもかかってこい!」
向けられた闘気を感じ取ると思わず頬が緩み、笑みがこぼれる瑛士。その様子を見て、配信のコメント欄も加速していく。
《チャットコメント》
『おお! ご主人がヤル気マンマンだぜ!』
『ホーンラビットの大群を瞬殺させるご主人の背後を取るとは……できるヤツだ』
『どんなモンスターが潜んでいるんだ?』
『あれ? ここって二階層だよね……こんな強力なモンスターっていたっけ?』
リスナーが盛り上がる中、違和感に気が付いた人物が現れる。タブレットで配信の様子を見ていたルリが感心したように声を上げる。
「ほう、下僕どもの中に気が付いたやつがおるようじゃのう」
ルリと一緒にリスナーのコメントを見ていた音羽も、同調するように話しかける。
「そうみたいね。まあ、いつかは気が付く人が出るとは思っていたけど……思ったより早いわね」
「うむ、まだ正体には言及しておらんのじゃ。まあ、戦っている当のご主人も気が付いていないようじゃし」
顔を上げると、笑みを浮かべたまま草むらを睨む瑛士の姿が視界に入る。その様子を見て、大きくため息を吐きながら呟く。
「もうぼちぼち気が付いてくれてもいいのじゃが……ご主人も」
「うん、まあ……普通は気が付くと思うんだけどね」
「やれやれじゃのう……」
二人は顔を見合わせると、大きなため息を吐きながら肩を落とす。しかし、二人がそんな会話をしていることなど知らず、瑛士は襲撃者が潜んでいると思われる草むらと徐々に距離を詰め始める。
「うまく姿は隠しても、にじみ出る気配は隠しきれていないようだな」
煽るように瑛士が声を上げるが、草むらの中から先ほどのような反応は返ってこない。
「そうか……あくまでも煽りにはのらないか……じゃあ、こちらから仕掛けさせてもらうぜ!」
言い終えると同時に瑛士の姿が揺らぎ、草むらの中から金属がぶつかり合うような音が響き渡る。そして、火花のような光があちこちで上がり、姿を目やカメラで追うことはできなかった。
「ふむ……いい勝負と言いたいところじゃが、若干ご主人が不利かのう」
「そうね。草むらのおかげでお互い身を隠せているけど、動きが慣れていない分だけ瑛士くんが不利ね」
ところどころ光る閃光を目で追いながら、感心したように話すルリと音羽。その様子が画面に映し出されると、リスナーのコメントが次々と書き込まれる。
《チャットコメント》
『ルリ様とミルキー様は戦いが見えているだと……』
『頑張って再生速度を遅くしても、光っているのしか映らないんだけど……』
『人間の動体視力を越えてくるだと? やはりカリスマは違うのか……』
『やはりルリ様は至高の存在……』
『……みんな人間やめてない? でも、ホーンラビットってここまで早くなかったはずなんだけど』
次々と流れるコメントを見ていた二人が、急に顔をしかめながら声を上げる。
「音羽……ミルキー先輩、ちょっと相談してもよいかのう?」
「ルリちゃん、私もちょうど話したかったの」
顔を見合わせると、無言で頷く二人。すると、ルリが先陣を切るように話しかける。
「ちょっとマズいことが起きているかもしれん……早めに止めた方が良いかのう?」
「そうね。奥の手がばれる前に配信をやめるか、止めさせるかをした方がいいわね」
「うむ。ご主人には悪いが……一度身を引いてもらうのじゃ」
お互いに顔を見合わせると無言で頷くと、目を閉じて柄を握り、姿勢を低くする音羽。その後ろで目を閉じ、両手を広げてルリが何かを唱え始める。
「……ミルキー先輩、準備のほうはできたのじゃ」
「オッケー。それじゃあ、瑛士くんたちが目の前を通過したら発動してもらえるかしら?」
「わかったのじゃ」
音羽の言葉を聞いてルリが頷いた時だった。一筋の光が二人の前を通過する。
「ルリちゃん、今よ!」
「わかったのじゃ! 大地の理よ、ここに顕現せよ――重圧魔法」
ルリが詠唱を言い終わると、フロア全体に上から押し付けるような圧力がかかる。
「さすがルリちゃん……桁外れの魔法だわ。でも、おかげで狙いやすくなったからね」
意識を集中させた音羽が目を開き、刀を引き抜くと鈍い音が響き渡る。そして、目の前を通過しようとした瑛士が悲鳴のような声を上げて地面に倒れ込む。
「がはっ……な、なんで水を差す……」
「ごめんね。ちょっと悠長なことを言っていられる事態じゃなくなったの」
「な、なんだ……よ……って、俺を襲撃したのは……お前だった……」
音羽の一撃を喰らって薄れゆく意識の中、視界に映った襲撃者の正体に目を見開く瑛士。そして、必死に声を上げようとしたが、そのまま草むらに倒れ込むと動かなくなる。
「さてと……瑛士くんが倒れちゃったから今日の配信はここまでよ。じゃあまた三階層でお会いしましょうね」
音羽がリスナーに向かって声を上げると同時に、強制的に配信を終了させる。そして、完全に通信が切れたことを確認すると、お面をずらして大きく息を吐くとルリに声をかける。
「ふう、ルリちゃん。もう魔法は解いて大丈夫よ」
「お疲れ様なのじゃ。配信まで切ってもらって助かったのじゃ……」
「いいのよ。早めに手を打ててよかったし、被害を最小限にできたからね……それに、ルナちゃんたちもいい運動になったと思うし」
フロアに広がる草むらに視線を向け、目を細めながら呟く音羽。すると、険しい顔をしたルリが話しかけてくる。
「音羽お姉ちゃん、先ほど気になるコメントを投稿した下僕を調べたのじゃが……存在しないアカウントとなっておるのじゃ」
「やっぱりね……全くそこまでしてこちらの動きを監視するなんて、何を考えているのかしら」
呆れたように小さく息を吐くと、地面に倒れたままの瑛士を見つめながら声を上げる。
「頼りにしているからね、瑛士くん。私じゃ太刀打ちできないかもしれないから……」
気を失っている瑛士に彼女の言葉が、届いたかは定かではない。
着実に忍び寄る敵の影に対抗する術は――あるのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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