第8話 瑛士は地雷を踏み抜くのがお好きです
瑛士が二階層の入り口に差し掛かろうとしたところで、後ろを振り向くとルリたちに声をかける。
「そんなところでボーっとしてどうしたんだ? 早く二階層へ行こうぜ」
「ああ、そうじゃな。すぐ行くから待ってくれなのじゃ」
瑛士に声をかけられ、困ったような表情で隣にいた音羽に話しかける。
「音羽お姉ちゃん……どうしたらいいのかのう?」
「あーうん、まあいいんじゃない? 黙っていたほうがいろいろと面白いし」
「そういうもんじゃろうか?」
話を聞いて不思議そうな顔をしてルリが聞き返すと、肩に優しく手を置きながら音羽が話しかける。
「大丈夫よ。勝敗は最初からわかりきっているし、そのあたりはうまくやってくれると思うわ。そのために瑛士くんの魔法を封じたんでしょ?」
「うむ。万が一のことがあってからでは遅いからのう。まあ、魔法を使ったところで結果は変わらんと思うのじゃがな」
意味深な会話をするルリと音羽。話し込む二人の様子を見て、疑問に思った瑛士が声をかける。
「二人とも何の話をしているんだ? ここからは全然聞こえないんだが」
「瑛士くんは気にしなくても大丈夫よ」
ルリたちの元へ戻ろうとする瑛士を見て、音羽が声を上げながら制止する。
「ほらほら、早く攻略しないと後が大変でしょ? もう配信は始まっているんだし」
「は? もう配信開始しているのか?」
「そうよ。もうすぐコメントの通知が届くんじゃない?」
音羽が言い終えると同時に瑛士のスマホが通知音を鳴らす。そして、ポケットから取り出して画面を見ると、すでにコメント欄が盛り上がり始めていた。
《チャットコメント》
『お! いよいよ攻略開始か~』
『ご主人だけで二階層攻略とはちょっと熱いかも』
『見せてもらおうか、ご主人の実力とやらを』
『あら? 瑛士くんの活躍が配信されるの? オネエ仲間に連絡しないと』
コメントを見ていた瑛士の顔が笑顔から引きつったものへ変わっていく。その様子を見たルリが、怪しげな笑みを浮かべながら話しかける。
「ご主人、どうしたんじゃ? ずいぶん顔色が悪くなっておるぞ」
「な、なあ……なんか変なコメントが混ざっている気がするんだが?」
「あーいつもの事じゃろ? ご主人にも熱狂的な下僕ができてわらわは嬉しいぞ」
「なんか身の危険を感じるのは気のせいだろうか?」
瑛士が呟いた直後、新たなコメントが書き込まれる。
《チャットコメント》
『瑛士くん、頑張ってね! オネエ仲間の何人かが迷宮に並んでいるって。頑張ったら見つけて可愛がってあげるそうよ』
『ワロタwwwご主人、頑張れwww』
『ご主人の可愛がられる様子を配信もお願いしますw』
『もう専用チャンネル立ててもいいんじゃねwww』
次々と書き込まれるコメントを見て、瑛士が発狂したように声を上げる。
「ふざけんな! なんだよ、専用チャンネルって! 俺にはそんな趣味は無いっての!」
瑛士の叫びを聞いた音羽が両手を口元に当て、驚いたように話しかける。
「え? 瑛士くんは違ったの? 女性は私以外興味がないのは知っていたけど、男性はオールオッケーだと思っていたのに……」
「ちょっと待て! なんだよ、その歪んだ認識は! そもそも私以外に興味がないってところもだけど、なんで両刀使いになってんだ!」
顔を真っ赤にして今にも掴みかかろうとする勢いで、抗議の声を上げる瑛士。すると、コメント欄はさらに盛り上がり始める。
《チャットコメント》
『衝撃の事実判明! ご主人は両刀使いだったのか!』
『なんたることだ……ルリ様も危ないのではないのか?』
『なぬ? 男色だけでなくロリコン疑惑まで浮上するとは……見損なったぞ……』
『あら? オネエの魅力を叩きこむ必要があるわね……ここは本気を見せるところかしら?』
言いたい放題書き込まれるコメントを見て、顔が赤くなったり青くなったりと忙しく変わる瑛士。スマホを握る手が震えだし、さらに大きな声で叫びだす。
「なんでロリコン認定までされるんだよ! それはルリに熱を上げているお前らだろうが! そして本気出さなくていいから!」
彼の叫びを聞いたルリは、悲しげな表情になって声を上げる。
「な、なんじゃと……ご主人はわらわのことが嫌いじゃったのか?」
「なんでそうなる? そんなこと一言も言ってないだろうが!」
「こんなにご主人のことを心配しているのに……何とも思われていなかったのじゃ……」
ルリが顔を伏せて肩を震わせ始めると、今度はコメント欄が瑛士を非難する言葉で埋め尽くされ始める。
《チャットコメント》
『ルリ様が悲しんでおる……ご主人、人として終わっているわ』
『なんということだ……同志だと思っていたのに……』
『ルリ様を泣かすなど、生かしておけぬ!』
『我らの敵はモンスターではない……ルリ様を悲しませるご主人だ!』
『ふふふ……生きて迷宮から出られると思うなよ』
次々と書き込まれる過激なコメントを見て、真っ青な顔になった瑛士が弁明を始める。
「だー! ちょっと落ち着け! ルリは家族みたいなもんでお前らとは違うから!」
「へえ、ルリちゃんは家族なんだ。でも私は違うとでも言いたげな言葉ね?」
スマホの画面に訴えかける瑛士を見て、静かに聞いていた音羽が低い声で問いかける。
「え、いや、音羽さん? 何をおっしゃっているのでしょうか?」
「そっか、将来の約束をした私は赤の他人ってことでいいのかしら? あの時の言葉は嘘だったのね……」
俯きながら柄に手を伸ばす音羽を見て、瑛士の額から滝のように汗が流れ始める。
「音羽さん、ちょっと落ち着きませんか? 話せばわかるからな」
「問答無用! やっぱり決着をつける必要があったわ」
刀を引き抜いた音羽が跳びかかるが、瑛士が紙一重のところで躱す。
「ちっ……次は外さないわよ」
「ちょっと待て! ガチで死ぬっての!」
二人の痴話げんかの様子はしっかりと配信されており、コメント欄も大盛り上がりになる。
その叫び声は二階層まで響いており、何事かと思ったホーンラビットが一斉に集まり始めていたなど――知る由もなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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