第7話 ルリの目論見と厨二病
瑛士たちが二階層へ続く通路に足を踏み入れた時、今までとは違った光景を目の当たりにする。
「あ……れ? こんなに通路って綺麗だったか? なんというかもっと暗いというか、威厳があったような気がするんだが……」
あまりの変わりように戸惑いを隠せない瑛士。以前のような松明の灯りが揺らめく薄暗い感じではなく、外とさほど変わりない明るさが確保されて圧倒的に見やすくなっていた。さらに、以前は岩肌がむき出しでところどころ危ない部分もあった壁も整備され、怪我をしないような配慮もなされていた。
「ほんとね。ずいぶん明るくきれいになってるわ。迷宮の観光ツアーに合わせて整備でもしたんじゃない?」
狐のお面を付けた音羽が感心したような声を上げると、少し困ったように瑛士が言葉を返す。
「そういうことか……なんというかやりにくいな。以前のような雰囲気のほうが迷宮にきたって感じがして、テンションが上がったんだけど」
「まあ、男の子ってそういう所あるわよね。秘密基地とか好きだし……」
呆れたように音羽が話しかけると、顔を赤らめて瑛士が反論する。
「べ、別にいいだろうが! 男にとって冒険はロマンなんだよ!」
「はいはい、そういうことにしておくわね」
「なんかその言い方がムカつくな……」
相手にしたくない気持ちを全面に出して話を打ち切る音羽を見て、少し苛立ったように瑛士が呟く。すると、黙って聞いていたルリが声を上げた。
「ご主人、わらわにはその気持ちはわかるのじゃよ」
「おお! さすがルリだな! わかってくれて嬉しいぞ」
腕を組んで大きく頷くルリを見て、一気に表情が明るくなる瑛士。
「うむうむ、よく下僕どもがいっておるからのう。どんなピンチがきても『ふっ、俺の実力はこんなもんじゃないんだぜ』とかドヤ顔をしたいということじゃろ? わらわはわかっておるぞ」
「ん? ルリさん?」
だんだん雲行きが怪しくなる言葉に瑛士が聞き返すが、全く意に介さずルリは話を続ける。
「大丈夫じゃぞ、ご主人。たとえどんな理由であろうとも、ヒーローになりたい気持ちは変わらないのじゃ。そう、一生懸命ゲームの技を練習したりしているのをわらわは見守っておったのじゃから」
「……ルリさん? もうそろそろやめてもらえませんかね?」
「胸を張ってよいのじゃぞ? ルナに負けないように鍛錬を積んでいるのを応援しておるのじゃ! まあ、世間では厨二病というらしいのじゃが……」
「もうやめてくれ! 別にルナに勝つためじゃないんだ!」
「え? そうだったのか? いつも『あのクソウサギ! 絶対わからせて俺の眷属に!』って叫んでおるではないか」
悶え苦しむ瑛士に対し、不思議そうな顔をしながら止めを刺しにいくルリ。その様子を見ていた音羽は、耐えきれなくなり思わず吹き出してしまう。
「あはは! まさか瑛士くんが、そこまでルナちゃんをライバル視していたとは知らなかったわ」 「お、音羽……これは違うんだ……」
「まあまあ、隠さなくても大丈夫なのよ。読書魔法が使えるくせに、波◯拳の練習に明け暮れていただなんて誰にも言わないから」
「なんで知ってるんだよ! お前、その時期は海外にいたよな? 誰にもバレてないと思ったのに!」
「え? そんなの……全部記録に残っているわよ。瑛士くんの一挙手一投足はすべて把握していないとね……ハァハァ」
お面の奥から血走ったような目が見え、一気に血の気が引いていく瑛士。そして、どんどん息が荒くなりながら少しずつ迫る音羽。
「大丈夫、怖くないよ……迷宮は治外法権だし、何しても許される空間なの……」
「お、音羽さん? なんかすごく怖いんですが……」
「逃げなくても大丈夫なのよ? 私が瑛士くんを厨二病から救ってあげるだけなんだから……ほら、ヒロインは強くないといけないって言うじゃない?」
「そんな設定聞いたことないわ!」
謎の攻防戦が始まろうとした時、二人の様子を見ていたルリが手を叩いて声を上げる。
「はいはい、二人ともそのくらいにしておくのじゃ! わらわたちは迷宮の攻略にきたのであって、ご主人の根性を叩き直そうというわけじゃないのじゃ」
「ちっ……ルリちゃんに言われたら仕方ないわね」
「おい……なんだよ今の舌打ちは!」
「え? 気のせいよ……まあ、時間はたっぷりあるわけだし……ね」
意味深な言葉を残す音羽に対し、一気に血の気が引いていく瑛士。すると、ため息を吐いたルリが思わぬ提案を持ち出す。
「まったくこの二人は仕方がないのう……そうじゃ、ご主人よ。二階層を一人で攻略してみないかのう?」
「へ? 一人で攻略だと? 別に構わんが……ホーンラビットどもは俺を見ると逃げ出すんじゃないのか?」
ルリの提案に顔を傾げ、疑問を投げつける瑛士。以前、とある出来事からホーンラビットを壊滅させたことにより、彼の顔を見るだけで逃げ出すようになったことがあったからだった。
「あーうん、まあ大丈夫じゃろ。時間も経っておるし……まあ、念のため魔力は封印させてもらうぞ」
言い終えると同時にタブレットを出現させ、素早く操作を始める。すると、瑛士の全身が淡い黄色の光に包み始める。
「何をしたんだ? 特にこれといって変わりはないが……」
「ああ、魔力を封印した上で擬態の魔法を掛けただけじゃ。モンスターどもにご主人と認識させないようにな」
「そうなのか。まあヤツラ程度なら魔法を使うまでもないな。さあ、再び叩きのめしてやろうじゃないか」
軽く腕を回し、やる気をみなぎらせる瑛士。その様子を見て、誰にも聞こえないような声でつぶやくルリ。
「ちょっとモンスターが興奮するような副作用があるのじゃが……言わなくてもよいか」
「ん? どうした? なんかやる気が湧いてきたから先に行くぞ!」
「おお、頑張るのじゃぞ! あ、伝え忘れたことがあったのじゃが……まあいいかのう」
何も知らない瑛士が二階層の入口に向かって駆け出していく。
この後、二階層の最後に因縁の相手が待ち受けているなど――知るよしもなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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