第6話 罠を仕掛けるのは敵だけじゃなかった
指摘を受けたルリが口を開けて手を叩くと、額に手を当てた音羽が大きなため息を吐く。
「やっぱり……なんとなくそんな気はしていたんだけどね」
「あははなのじゃ。まあ、なんとかなるじゃろうし……どうせすぐに分かることじゃ」
「まあ、ルリちゃんがそう言うなら別にいいけど。問題はルナちゃんたちの方よね」
未だにスマホの画面に向かって怒鳴り続けている瑛士に視線を送り、呆れたように話す音羽。
「だーかーら、おれは全然ビビってないって言ってるだろうが!」
鬼の形相をした瑛士が怒鳴り散らすごとに、コメント欄はどんどん盛り上がっていく。
《チャットコメント》
『はいはい。その言葉は実力で証明してクレメンス』
『ムキになるご主人かわいいw』
『この画面スクショにして魔除けにでも使おうかなw』
『ルリ様の一万分の一くらいの期待はしておいてやろうwww』
次々と流れるコメントを見て、怒りのボルテージがどんどん上がっていく瑛士。
「お前ら……いいだろう! 俺がルリよりも活躍してるとこを見せてやるわ! 絶対後悔させて……イテッ!」
完全に理性を失った瑛士がリスナーに向かって叫ぼうとした時、後頭部を思いっきり叩かれた。そして頭を擦りながら振り返ると、腕を組んで仁王立ちしたルリが睨んでいた。
「ご主人! ヒートアップするのは構わんが、わらわのチャンネルで炎上まがいなことをするのは止めるのじゃ! 運営からバンされたらどうするのじゃ!」
「この程度でバンなんかされないだろうが。そもそも煽ってきたのは、アイツラの方だぞ?」
「はぁ……これだから素人は困るのじゃ」
右手を額に当て、わざとらしく大きなため息を吐きながら呆れるルリ。そして、瑛士に対して諭すような口調で話し始める。
「いくら配信のコメントで煽られたからと言って、安易に言い返すのは一番やってはいけない悪手なのじゃ。なぜなら音声と映像という記録が残るのじゃよ。悪意を持って面白おかしく切り取られて拡散されたら……どうなるか分かるじゃろ?」
「……それは、まあ……」
「その現場を見ている人間がいたとしてもじゃ。善意の第三者がその切り抜きを見れば『なんて配信者だ!』と拡散するかもしれん。そうなればわらわたちは打つ手がないのじゃ」
「……」
正論を突きつけられ、何も言えず黙り込む瑛士。その様子はバッチリ配信されており、コメント欄も盛り上がっていた。
《チャットコメント》
『さすがルリ様だ! ご主人、乙w』
『さっきまでの勢いがなくなっちゃったw』
『やはりルリ様は至高の存在……』
対応を称賛するコメントが書き込まれる様子を見て、ルリが体の向きを変えると今度はリスナーに対して声を上げる。
「下僕どももじゃぞ。お前たちのコメントもしっかり記録が残っておるのじゃ。何かトラブルに巻き込まれた時、スクショを取られて晒されるっていうことが起こるかもしれんぞ? 最近見かけんが、迷惑系配信者のようなヤツが開示請求を乱用するという話も聞くしのう。ま、お互いに気をつけるに越したことはないのじゃ」
ルリが語りかけると、一気にコメント欄が静まり返る。先程まで面白がって書き込んでいた勢いはいったいどこに消えたのか……その様子を見たルリが画面を指差しながら、リスナーに向かって宣言した。
「まあ、わらわのチャンネルは好きにやって良いぞ! 万が一トラブルに巻き込まれた時は、妾に相談するのじゃ。カリスマ配信者が助けになってやるぞ!」
ルリが力強く声を上げると、静まり返っていたコメント欄が一気に爆発する。
《チャットコメント》
『ああ、やはり神は存在したんだ……一生ついていきます!』
『こんなにリスナーを大切にする配信者がいただろうか……』
『ルリ様、かっこよすぎるぜ……チャンネル登録していて良かった……』
『生きていてよかった……私、もう少し頑張れそうです!』
次々と書き込まれる賞賛のコメントを見て、満足げな表情を浮かべるルリ。
「ははは! わらわはカリスマ配信者じゃからのう! 遠慮することなぞ無いのじゃ!」
コメントを見て満足げに笑うルリを見て、瑛士が固まっていると、後ろから近づいてきた音羽が声をかける。
「さすがルリちゃんね。一瞬でみんなの心を掴んだわ」
「ああ……アイツは本当にカリスマなんだな。まさかここまでとは思わなかったぞ」
「まあね。ルリちゃんにしかできない芸当よね。ところで、そろそろ攻略の方を進めたいんだけど……ほら、人が多くなってきたし」
「ほんとだな。それじゃあルリに声を掛けて、出発するか」
徐々に賑わい始めた様子を見て、瑛士が小さく息を吐くと、ドヤ顔で配信を続けるルリに話しかける。
「ルリ。そろそろ人も増えてきたし、攻略を進めていかないか? また大騒動になると大変だし」
「おお、そうじゃのう。一旦配信を終わらせて、向かうとするか。それでは下僕ども、またなのじゃ!」
ルリが笑顔で手を振りながら配信を終えると、瑛士と一緒に音羽のもとに駆け寄っていく。
「お待たせなのじゃ。それでは攻略に向かうのじゃ!」
「そうね。今日は久しぶりだから二階層から順に攻略していきましょうか」
「それもそうだな。徐々に体を慣らしていくか」
音羽の提案を聞き、納得したような顔で頷く瑛士。そして、二階層の入口へ向かって歩き始めた時、お面を付け直した音羽が意味深な言葉を呟く。
「瑛士くん……慣らすなんて呑気なこと言っていられるかしら?」
「ん? どういうことなのじゃ?」
つぶやきを聞いたルリが顔を傾げていると、音羽が耳元で囁く。
「ふふふ、これは面白い撮れ高が期待できるのじゃ」
不敵な笑みを浮かべて、瑛士の背中を見つめるルリ。
この二人はいったい何を仕掛けているのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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