第5話 ご主人はチキン野郎?
「ご主人、お待たせしたのじゃ」
ご機嫌な様子で瑛士に声をかけてきたのは、迷宮総合案内へ手続きをするために音羽と出かけていたルリだった。
なぜ、彼は一緒に行かなかったのか? その理由は罠かもしれないと考え、万が一二人に何か起こった時に対処できるように控えていたのだ。
「もう終わったのか? 意外と早かったな」
「ええ、エリアボス撃破者の特典説明って言っても大したことなかったわ。それで、これを身につけておくようにって渡されたわ」
音羽が差し出してきたのは、シリコンでできたリストバンドだった。表面には液晶のようなものが埋め込まれ、簡易的なスマートウオッチのようにも見える。
「なんだこれ? なんか安っぽいスマートウオッチみたいだな……」
「これを持っていると、クリアしたフロアへワープできるみたいよ。このボタンを押して画面を切り替えると、認証コードが出るんだって」
「へえ~ずいぶん凝ったものを作ったんだな」
左手首につけたスマートウオッチをまじまじと見つめる瑛士。言われたとおりにボタンを押すと、QRコードが現れる。それを見て、彼の頭にある疑問が浮かぶ。
「コードはわかったんだが、どこに認証の機械とかあるんだ? この間までそんなもの見たことなかったと思うんだが」
「説明によると、各階層の入り口にある壁に埋め込まれているらしいわ。この機械を持っている人だけしか反応しないとか言っていたけど……ホントかしらね?」
瑛士の問いかけに怪訝そうな表情で答える音羽。その様子を見ていたルリが、二人の会話に割って入る。
「何を難しそうな顔をしておるのじゃ? そんなものがなくとも全部蹴散らしていけばよいのじゃ!」
腕を組んだまま胸を張って答えるルリを見て、大きくため息を吐きながら話しかける瑛士。
「お前な……どこにどんな罠が潜んでいるかもわからんし、ましてやモンスターどもの相手をしているのも時間の無駄だろうが」
「ん? なんじゃ? もしかしてご主人はビビっておるのか?」
「あ? 俺がビビっているだと?」
ルリの言葉を聞いて、眉間にしわを寄せて苛立ったような声を上げる。その様子を見て、口元を吊り上げながらさらに煽り始める。
「そうじゃろ? わらわはそんなズルをしなくとも余裕じゃからのう。むしろ罠があるのであれば、全部蹴散らしてやればよいだけじゃ」
「ほんと何も考えてないんだな。どんな罠かもわからんのに、どうやって蹴散らすんだよ」
「ふっ、そんなのどうにでもなるじゃろうが。のう、お前らもそう思うじゃろ?」
「は? 誰に聞いてるんだ?」
突然ルリが誰かに問いかけるように声を上げると、怪訝そうな顔で聞き返す瑛士。すると、彼のスマホが続々と通知を告げる。
「……この感じは、スゲー嫌な予感がするぞ……」
ポケットからスマホを取り出し、画面を見た瑛士がその場で固まってしまう。表示されていたのはドアップで映る自分の顔と、見慣れたコメントの嵐だった。
《チャットコメント》
『久しぶりにご主人の顔見たな』
『あれれ? 乗り気じゃないってどうしちゃったんだろw』
『ルリ様が神々しい……ご主人のアップはいらね! ルリ様を映せ!』
『前の勢いはどこ行ったんだよw』
固まっていた瑛士が我に返ると、肩を震わせながら声を上げる。
「こ、コイツ等……人が黙っていれば好き勝手言いやがって」
「どうしたんじゃ? 何か都合の悪いことでも言われたのかのう?」
スマホを睨みつける瑛士を見て、不敵な笑みを浮かべて話しかけるルリ。すると、スマホを握りしめたまま大声を上げる。
「お前……いつから配信していたんだよ! それになんでコイツ等に好き勝手言われなきゃいけないんだ?」
「いつからじゃったかのう? まあ、そんなことはどうでもいいじゃろ? ほれほれ、早く撤回しないとチキン野郎として定着してしまうぞ?」
「あ? 誰がチキン野郎だ! そこまで言うなら見せてやろうじゃねーか!」
《チャットコメント》
『ご主人の宣言キタ――(゜∀゜)――!!』
『見せてもらおうか、ご主人の最速という物を』
『上のヤツ、誰目線だよwww久々にご主人の本気が見れるのか!』
『ご主人、頑張れ。ルリ様の撮れ高のために全力を尽くせ』
ヒートアップしていく瑛士の様子を見て、笑いが止まらないルリ。すると、笑顔を浮かべて見守っていた音羽が話しかける。
「ほんと瑛士くんって単純ね。まあ楽しそうだからいいけど」
「うむうむ、下僕どもと仲良くなるのは良いことじゃ!」
腕を組み、大きく頷くルリ。その様子を見て、小さく息を吐いた音羽が小声で呟く。
「そうね……ところで、ルリちゃん。瑛士くんにあの事は言わなくてよかったの?」
「あ! 忘れておったのじゃ」
音羽の言葉を聞いて、口を大きく開けながら手を叩くルリ。
彼女のいうあの事とは――何を指しているのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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