第4話 攻略情報は罠?
タブレットを見つめたまま大笑いするルリを見て、睨み合っていた瑛士と音羽が不思議そうな顔で近づいてきた。
「ルリ、そんな大笑いしてどうしたんだ?」
「そうよ。ルリちゃん……もしかして壊れちゃったとか?」
「誰が壊れたのじゃ! それよりも、これを見てみるのじゃ」
言葉を聞いてあきれたルリが、二人に向かってタブレットを突き出す。そのまま画面をのぞき込んだ二人が、揃って眉間にしわを寄せる。
「なあ、この運営ってバカなのか?」
「そうみたいね……って言うか、そうとしか思えないでしょ」
画面を睨みつけながら囁く二人を見て、ルリが笑いながら声をかける。
「ははは! わらわが思った通りの反応で安心したのじゃ」
「いや、笑い事じゃないだろ……なんでわざわざ罠を仕掛けた場所をメールしてくるんだよ!」
タブレットを指さしながら瑛士が声を上げる。彼の言う通り、映し出されていたメールには事細かく罠の設置場所が書かれていたのだ。何階層の西側に罠があり、回避ルートは東側を通るとか、モンスターを凶悪化させる装置の起動方法。そして、各エリアボスの弱点と対処法など、迷宮攻略者にしてみれば、喉から手が出るほど欲しい情報が事細かに書かれていた。
「ははは! 迷宮運営もずいぶん親切なことをしてくれるもんじゃのう!」
「笑い事じゃねーだろ! どう考えても誤爆メールだろ!」
大笑いするルリを見て、瑛士が大声で叫ぶ。すると、顎に手を当ててしかめっ面をしていた音羽が、静かに声を上げる。
「うーん、でもこれは誤爆メールじゃなさそうよ。だって『配信者としてご活躍のルリ様へ』って書いてあるし」
音羽が指を差したメールの冒頭には、明らかにルリに宛てたように書かれていた。それを見た瑛士は肩を落とし、呆れたように話しかける。
「はぁ? そんなわけ……あったわ……運営というか担当者大丈夫か? こんなお宝情報をバラまくなんて首を飛ばされても知らねーぞ……」
「普通に考えれば致命的なのよね。だけど、運営会社のトップは飯島女史だから……何か裏があるとしか思えないのよ」
「た、たしかに……」
音羽の話を聞くと、眉間にしわを寄せて腕を組みながら黙り込む瑛士。すると、二人の様子を見ていたルリが声を上げる。
「何を二人とも難しいことを考えておるのじゃ? 貰えるものは貰っておけばよいのじゃ! ほれ、よく言うではないか、敵に砂糖を送ると!」
「……お前な、それを言うなら『敵に塩を送る』だろうが……」
言葉を聞いた瑛士が大きなため息を吐くと呆れたように呟く。すると、顔を真っ赤にしたルリが大声で反論する!
「そ、それくらいわらわでも知っておるのじゃ! 砂糖だろうが塩だろうがどっちでも良いのじゃ! 細かいことを気にするのではない!」
「いや、事実として俺は伝えただけだが?」
「ムキ―! わらわは塩よりも砂糖を貰った方が嬉しいから、砂糖でいいのじゃ!」
「そういう問題じゃないんだが……」
ヒステリックに叫びながら顔を背けるルリに対し、額に手を当てて苦笑いを浮かべる瑛士。すると、小さく息を吐いた音羽が二人の間に割って入る。
「はいはい、瑛士くんも細かいことをいちいち指摘しないの」
「何が細かいんだよ……俺は事実を伝えたまでだぞ」
「ほんと大人げないんだから……昔は塩かもしれないけど、この先は何が起こるかわからないでしょ? 今や砂糖は生活必需品なんだし」
「それはそうだが……」
しぶしぶ納得したような表情をする瑛士を無視し、今度は目に涙を浮かべてそっぽを向いているルリに話しかける。
「ルリちゃんは何でも知っているんだもんね?」
「そうじゃ! 場を和ませようとわざと間違えただけなのじゃ!」
「うんうん、とっても大事なことだとは思うわ。それに、今の発言が後に名言になるかもしれないもんね」
「なぬ? わらわの発言が名言として残るじゃと?」
顔を背けたまま話を聞いていたルリが、名言として残ると聞いて目を見開いて喰い付く。
「そうよ。ルリちゃんはカリスマ配信者として、絶大な人気を持っているんでしょ? ということは、数々の名言を生み出しているかもしれないわ」
「そ、そうなのかのう? わらわには全然わからんのじゃが」
「名言って自分ではわからないものだからね。リスナーや視聴者さんが見つけていると思うわ」
「な、なるほど! ふふふ、わらわが歴史に名を刻む日が来ておったのじゃな」
先ほどまで不貞腐れていた態度とは打って変わり、上機嫌で大きく頷くルリ。彼女の変貌ぶりを見た瑛士が、音羽に近づくと耳元で囁いた。
「なあ、ルリの場合は名言じゃなくて迷言じゃないのか?」
「さあ、どうでしょうね? でも時間が経つにつれて変わる事なんて山ほどあるから」
「そういうもんなのか……」
話を聞いて無理やり納得しようとした瑛士だが、音羽の次の一言で現実に引き戻される。
「……それよりも、あのメールを見てどう思う?」
「どうって……怪しさしかないだろ。ルリは気が付いてないが、ある階層だけ情報が抜けているというか……あからさますぎないか?」
「やっぱり瑛士くんも気が付いていたのね。まあ、真実はわからないけど……ヤツの思惑に乗ってあげるのも面白いかもしれないわ」
ご機嫌で笑い続けるルリの持つタブレットに鋭い視線を送る二人。
瑛士と音羽が言う怪しい情報とは――いったい何を意味しているのか?
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