第3話 運営からのメール
「へえ、前に聞いた時は冗談かと思っていたけど……ガチだったんだね」
「うむ……しかもわらわが迷宮に入場手続きをしたら、すぐに通知が飛んできたからのう。無視して進もうか迷っておるのじゃ」
タブレットを見つめながら険しい顔をしているルリと音羽。画面には運営から届いたメールが表示されており、内容は次のように書かれていた。
『拝啓 ルリ・サラサ御一行様。いつも大変お世話になっております。運営より、迷宮攻略に役立つアイテムをご用意させて頂きました。エリアボス撃破の特典と合わせ、ぜひともお役立ちになればと思います。再オープンに際しまして、登録情報の更新もお願いしております。忘れずに迷宮一階層総合受付までお越しいただくようお願い申し上げます。 迷宮管理チーム』
睨みつけるように画面を見ていた音羽が、小さく息を吐くと腕を組んで声を上げる。
「メールアドレスもちゃんと管理団体公式のものだし、内容も前にお知らせされたものと一緒だから間違いないと思うけど……ルリちゃんが入口を通過すると同時ってのが、引っ掛かるのよね」
「そうなんじゃ。探索者用の入り口にゲートのような機械があったのは見たのじゃが、まだ運用はされておらんかったしのう」
「ゲートのような機械? そんなものがあったの?」
話を聞いていた音羽が驚いたように聞き返すと、不思議そうにルリが話しかける。
「あれ? 音羽お姉ちゃんはなんで知らないのじゃ?」
「あーそっちから入ってないからね。裏口にはそんな機械なかったし……」
「そうじゃった! なんか言っておったのは、いずれアプリで認証するとか言っておったのじゃ。観光客がズルして紛れ込まないようにする対策らしいのじゃ」
「なるほどね……」
目を細めながら画面を音羽が見つめていると、黙って話を聞いていた瑛士が声をかけてくる。
「その機械なら俺も見たし、説明を受けたぞ。今まで迷宮探索をしていたのであれば、新規登録は不要だそうだ。後日ログイン用のIDとパスワードが各個人のメールに届くって言っていたぞ」
「ふーん……それはちょっと厄介な話かもね」
瑛士の言葉を聞いた音羽の表情がますます険しくなる。彼女の変わりようを見ていたルリが、不思議そうに声をかける。
「音羽お姉ちゃん、ずいぶん険しい顔をしておるがどうしたんじゃ? 便利になるなら喜ぶべきじゃなかろうか」
「まあ、いろいろ楽にはなるんだけどね……個人情報が飯島女史に筒抜けかもしれないと思うと、ちょっと嫌なのよね……」
「た、たしかになのじゃ……」
音羽の返答を聞いて、一気に凍り付いた表情になるルリ。すると、笑みを浮かべた瑛士が話しかけてきた。
「ルリ、心配する必要なんかないぞ。ヤツに個人情報をすっぱ抜かれることはないからな」
「どうしてなのじゃ? 迷宮に登録する時に住所も何もかも書いて提出したじゃろ」
「ああ、たしかに書いたな。ただし、今住んでいる自宅の住所じゃないけどな」
得意げに話す瑛士に対し、豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をして固まっているルリ。
「いいか? 飯島女史の情報網はどこまで張り巡らされているかわかったもんじゃない。だから、失踪する前に親父が借りていた作業部屋……という名の空き家の住所を拝借したんだ。まあ、そっちはもう何年も手入れすらしていないから、どうなってるかわからないんだけどな」
悪い笑みを浮かべて話す瑛士に対し、目を見開いて驚きの声を上げるルリ。
「さ、策士なのじゃ……まさかご主人がここまで頭が回るとは予想外なのじゃ」
「おい! 頭が回るってどういう意味だ?」
「いや、ご主人の事じゃからバカ正直に書いていたと思っただけじゃ。こういったことは音羽お姉ちゃんのほうがうまいからのう」
「あ? ケンカ売ってるのか?」
聞き捨てならないルリの言葉を聞き、苛立ったように声のトーンを落として話しかける瑛士。すると、やりとりを聞いていた音羽が口を挟む。
「私もルリちゃんの言葉に同意だわ。瑛士くん……いつの間にそんな立派になったのかしら、お姉さんは嬉しいよ」
「いつから姉になったんだよ! そもそも誕生日はお前のほうが遅いだろうが!」
「何を言ってるの? ほんの数週間早く生まれたからって、先輩風を吹かせないでくれる?」
「いつ誰が先輩風を吹かしているんだ? そのセリフそのままそっくりお返しするぞ」
「あ? 何よ? ケンカ売ってるの?」
「なんだ? やる気か?」
どんどんヒートアップしていき、お互いに睨み合いながら火花を散らし始める瑛士と音羽。そんな二人の様子を見ていたルリは、呆れたように呟く。
「ほんとにこの二人は大丈夫なのじゃろうか……なんか頭が痛くなってきたのう」
一歩も引かず、言い争いを始めた二人を見て大きなため息を吐いた時だった。タブレットに新たな通知が届く。
「ん? なんじゃ? また迷宮運営からメールが届いたのじゃが……」
通知から内容を確認したルリの口元が吊り上がり、怪しげな笑みを浮かべ始める。
「ほう、なかなか面白い試みを考えたもんじゃのう。そういうことであれば、受けて立とうではないか!」
画面を見つめたまま、笑いが止まらなくなるルリ。
はたして、彼女に届いたメールには何が書かれていたのだろうか?
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