第2話 警戒するに越したことはない?
瑛士たちが一階層の入り口に降り立った瞬間、目の前に現れた人物が声をかけてきた。
「ずいぶん遅い到着だったわね。ほんと待ちくたびれたわよ」
「お前こそ早すぎるんじゃないか? 予定ではもう少しかかるって言っていただろ」
苛立った様子で話しかけてきた人物に対し、呆れたように声をかける瑛士。その隣にいたルリは目を見開いたまま驚きの声を上げる。
「な、なんでここにいるのじゃ? 音羽お姉ちゃん!」
瑛士たちに声をかけてきたのは、狐のお面を顔につけた音羽だった。驚いて固まっているルリを見て、少し困ったような表情で話しかける。
「あーうん、ビックリするよね……?」
「そりゃそうなのじゃ! 音羽お姉ちゃんは忘れ物を取りに行ったはずじゃし、迷宮の入り口で探索者はわらわたちが一番じゃと聞いたのじゃ!」
興奮した様子で詰め寄るルリに対し、右手で頬を掻くと音羽が言葉に詰まりながら答える。
「えっと、まあ、なんというか……裏口みたいなところからこそっと入ってきたというか……」
「裏口じゃと? そんなところがあるのは知らなかったのじゃ! それは……もごもご」
「えーっと、ルリちゃん。ちょっと声のトーンを落とそうか」
驚いたルリの声に周囲の人々の注目が集まり始めると、音羽は彼女の口を慌てて塞ぐ。そして、周囲に聞こえないように耳元で囁く。
「ルリちゃん、ちょっと声が大きいって……」
「むぐーむぐー!」
「バレるといろいろマズいことがあるから……ルリちゃん、喉が乾いたでしょ? あっちで飲み物でも飲みましょうね。瑛士くんも」
「ああ、そうだな」
「むぐー!」
手足をバタバタさせながら必死に抵抗するルリを引きずりながら、自動販売機のあるコーナーへ向かって歩き始める三人。その間も周囲の注目を集めていたのだが……
「ぷはっー! いきなり口をふさぐとはひどいのじゃ!」
自動販売機コーナーに着いて周囲に人の気配がないことを確認し、音羽がルリを解放すると声を上げる。
「ごめんね。悪気があったわけじゃないのよ」
「そんなことはわかっておるのじゃ。でも、口をふさぐ前に理由くらい教えてほしいのじゃ」
頬を膨らませながらルリが抗議すると、お面をずらした音羽が苦笑いをしながら話しかける。
「いや~ルリちゃんの声が大きくて、周りの人が一斉にこっちを見ていたのよね。怪訝そうな顔をした人もいて、もしかしたら飯島女史の関係者もいるかもって警戒したの」
「そうじゃったか……それは申し訳ないのじゃ……」
話を聞いて申し訳なさそうに俯くルリを見て、音羽が優しく声をかける。
「大丈夫よ。何とかうまく逃げられたみたいだし、捕まったらそれはその時だしね」
横目で視線を向ける音羽に気が付いた瑛士が、怪訝そうな表情で話しかける。
「お前、またよからぬことを考えているんじゃないだろうな?」
「え? 何のことかしら?」
「どうせ関係者が近づいてきたら、俺に擦り付けて逃げようって魂胆だろ……」
呆れたように瑛士が呟くと、音羽がわざとらしく視線を逸らす。そして、すっとぼけたように声を上げる。
「そ、そんなこと考えてないわよ。ちょっと不思議なことを呟きながら、ルリちゃんに迫ってきていたって言うだけじゃない」
「どう見ても不審者にしか見えないだろうが! それ社会的にも終わるやつだろ!」
「えー? 大丈夫でしょ? 迷宮の中は治外法権って言うじゃない」
「それとこれは違うってーの! どうせお前らのことだから……配信しながら実況とかするだろうが!」
核心を突かれた音羽の顔が一瞬引きつるが、すぐに小さく息を吐くと口を開く。
「そこまで分かっているなら話が早いじゃない。こんなおいしい題材を見過ごして、配信者とは言えないわ!」
「ドアホ! 明らかに悪意しかないだろうが!」
「何を言っているのかしら? ちゃんと見ているリスナーはわかってくれると、私は信じているわ!」
「面白がっておもちゃにされる結末しか見えねーんだよ!」
話を聞いていた瑛士が思わず絶叫すると、黙って話を聞いていたルリが手を叩きながら割って入る。
「話は聞かせてもらったのじゃ。ご主人……ちょっとは落ち着いたらどうなんじゃ?」
「今の状況でどう落ち着けというんだ?」
「少し冷静に考えるのじゃ。おもちゃにされる結末ということは、ありえないと思うのじゃよ」
腕を組み、深く頷きながら話すルリ。あまりに自信たっぷりに話す彼女の姿に、思わず怯んでしまう瑛士。
「お、おう……お前が自信たっぷりに言うのには、何か裏付けがありそうだな……」
「うむ。もちろんなのじゃ。そもそも……もうすでに下僕どものおもちゃになっておるから、問題ないのじゃ!」
「それが問題なんだよ! すでにおもちゃ認定されているってどういうことだよ!」
大声で叫ぶと頭を抱えてその場でしゃがみ込んでしまう瑛士。
「はて? ご主人はどうしてしまったんじゃろうか?」
そんな彼の様子を見たルリは、顔を傾げながら声を上げる。すると、ゆっくり近づいてきた音羽が右肩に手を置きながら、優しく声をかける。
「ルリちゃん、大丈夫よ。きっと悩みの多いお年頃なの」
「そうなんじゃな。わらわにはよくわからんが、大変じゃのう」
話を聞いて納得したような顔で呟くルリ。すると、何かを思い出したように手を叩いて、音羽に話しかける。
「おお、そうじゃった! 音羽お姉ちゃんも合流したことじゃし、受付カウンターに行かねばならぬ」
「受付カウンター? 登録は終わっているし、なにかあったかしら?」
話を聞いて首をかしげる音羽を見て、ルリがタブレットを取り出して操作しはじめる。そして、ある画面を表示させると彼女に見せながら話しかける。
「これじゃよ。なんかきな臭い匂いはするのじゃがな……」
突きつけてきた画面を見て、音羽が無言になると目を細めながら食い入るように見つめる。
ルリが見せてきた画面には、いったい何が表示されていたのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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