第1話 ようやく迷宮内部へ
「え? 今の爆発音ってなに?」
「大丈夫なの? かなり大きかったけど……」
「これってヤバいのかな?」
突然起きた爆発騒動によって、並んでいた人々が騒ぎ始めた時になった時だった。瑛士たちはその混乱に乗じて、迷宮内へスムーズに入場することに成功した。
「ふー一時はどうなるかと思ったけど、早めに迷宮内に入場できてよかったな」
「ほんとなのじゃ。観光者用と探索者用と入り口が分かれておるのなら、先に教えて欲しかったのじゃ」
頬を膨らませたルリが文句を言っていると、少し呆れた顔をした瑛士が話しかける。
「仕方ないと思うぞ。受付の人も言っていたが、想定以上の人が集まっていたんだ。後手後手になるのは仕方ないだろ」
「それはわかるのじゃが……もう少しわかりやすくしておいてほしいのじゃ。たまたま近くまで行ったからわかったのじゃから」
ルリが指摘するように、迷宮の入り口に探索者と観光客用を明記した看板が掲げてあった。しかし、人が多すぎたため、探索者用の入り口が初見では封鎖されているようにしか見えなかったのだ。その光景を見た瑛士が職員に声をかけると、慌てながらも無事に中へ進むことができた。
「まあ、中に入れたのだからいいだろ? こっちの入り口は前と変わってないみたいだしな」
「むう……整備されたと聞いていたから、楽しみにしておったのに……」
不貞腐れながら松明が並ぶ薄暗い廊下を一階層へ向けて歩き始める二人。すると、ルリがあることを思い出して、瑛士に問いかける。
「そういえば音羽お姉ちゃんを置いてきてしまったのじゃが、大丈夫じゃろうか? あの長い列に並んでいたらいつまでたっても合流できないのじゃ」
「あーその心配ならいらんと思うぞ」
心配そうに問いかけるルリに対し、前を向いたまま淡々と答える瑛士。その様子を見て、少し苛立ったように声を上げる。
「いくら何でもちょっと冷たいのじゃなかろうか? 先に進むとも連絡しておらんし、万が一のことがあってからでは……」
「音羽に万が一か……相手のほうを心配したほうがよさそうだな」
「それは一理あるのじゃ……」
言葉を聞いたルリが腕を組み、深く頷きながら立ち止まる。そんな彼女のことなど気にする様子もなく、そのまま歩みを止めない瑛士。そして前を向いたまま、立ち止まっている彼女に声をかける。
「ルリ、いつまで立ち止まってるんだ? 先に行くぞ」
「あ! 待つのじゃ! わらわを置いていくのではないのじゃ!」
少し距離が離れたことに気が付いたルリが、急いで駆け寄ってくる。そして、廊下の奥にある出入り口から光が差し込むのが見えると、嬉しそうに声を上げる。
「ふふふ! わらわはついに迷宮へ帰ってきたのじゃ! 再び伝説の幕開けといこうではないか……のう、ご主人?」
「お前な……どこからツッコめばいいのやら……」
あまりの切り替えの早さに、右手を額に当てて大きなため息を吐く瑛士。彼の姿を見てルリが勝ち誇ったように胸を張り、笑い声をあげる。
「ははは! カリスマ配信者たるもの、このくらいの切り替えの早さは持ち合わせておらねばな! たまにわいてくるアンチどもの相手をするのに、いちいち凹んでおれんのじゃ」
「お前にもアンチがいるのか?」
「ん? アンチくらいはいるのじゃぞ。ヤツラは台所の黒い悪魔と同じくらいしぶといからのう」
「あーその例えはわかりやすいわ」
歩みを止めた瑛士が深く頷きながら答えると、ルリが得意げに話を続ける。
「鬱陶しいのは間違いないのじゃが、ちゃんと相手をしてやるのがわらわの流儀なのじゃ。とはいっても、途中から話を聞く側に回ってるがのう」
「は? アンチの話を聞くだと? なんでそうなる?」
言っている意味が分からず思わず聞き返すと、ルリが苦笑いを浮かべて困ったように答える。
「最初のうちはわりと言い返したりしておったのじゃよ。それがいつの間にか『ルリ様に話を聞いていただけて救われました!』とか言い出すんじゃ。なぜだかわからんのじゃが」
「……何をどうしたらそうなるんだ?」
「うーむ、わらわが反論し始めると、下僕どもも黙っておらんからじゃろうか? この間は開示請求がどうたらとか下僕が騒いでおったしのう」
「……」
不思議そうに顔を傾げながら話すルリに対し、口を開けたまま何も言えなくなる瑛士。
「まあ、下僕どもも楽しんでおるから結果オーライじゃろう。ん? ご主人、どうしたんじゃ?」
「いや、うん、まあ……お前のリスナーたちを敵に回すとどうなるか、改めて思い知ったわ……」
「ん? 何を言っておるのじゃ?」
「お前は何も知らなくていいぞ……その方がみんな幸せになれる……」
遠い目をしながら呟く瑛士を見たルリが、眉間にしわを寄せて考え込む。すると、その流れを断ち切るかのように彼が声を上げた。
「こんなところで立ち止まっていても仕方ない。さっさと特別イベントとかの説明を受けて、攻略を再開しようぜ!」
「そ、そうなのじゃ! わらわたちが来た目的は、全階層制覇なのじゃ!」
「いや……全階層ってどんだけあるんだよ……」
呆れた様子で呟く瑛士を無視して、ルリは一階層の入り口に向かって歩き始める。
「ほれほれ、ご主人! 早くしないと置いていくのじゃ」
「はいはい、って、ちょっと待てよ!」
数メートル先に進んだルリを見て、瑛士が慌てて追いかける。そして、一階層のフロアに降り立った瞬間、二人に近づいてくる人物がいた。
彼らの到着を待ちわびていた人物とは――いったい誰だったのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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