閑話⑳-2 ルナと翠の作戦会議⑦
瑛士たちが関係者用の応接室に入っていった頃、近くの木陰から様子を伺っていた二つの影があった。
「ふぅ……なんとか上手くいったみたいだな」
「ほんとにこれで良かったのかな? ルナさんが言うように偽装結界を張って、変なやつを閉じ込められたけど……音羽お姉ちゃんにあっさり見破られたよ?」
「いや、これでいいんだ。呪われた子供たちは、手負いの状態とは言え俺たちでは太刀打ちできないからな……」
木陰から姿を現したルナは、瑛士たちが消えていった迷宮の方向を眺めながら小さく息を吐く。その様子を隣で見ていた翠が不思議そうな顔で問いかける。
「ねえ、ルナさん。呪われた子供たちとかいう人さ、別に手に負えないって感じじゃなかったように思うよ」
「何も知らないお前なら仕方ないか……アイツらはベースは人間だが、ピンチになると考えられないような力を発揮するんだよ。それにどうやって連絡を取っているのか知らないが、いつの間にか仲間が集まってきたりするし……」
「ふーん、そうなんだ」
ルナの説明を聞いていた翠は、口を丸くしたまま固まっている。
(翠のやつでもこんな顔するんだな。まあ、未知の相手とわかれば無茶なことは言わないだろう)
翠の姿を見たルナが納得したような顔で小さく頷いていると、目を輝かせた翠が話しかけてきた。
「ルナさんって物知りだね! 知らないことをたくさん知っていてすごいよ!」
「そうだろ。まあ、研究所にいた時に人の目を盗んでいろんな話を聞いていたからな」
「そうなんだ! そう言えばさっき言っていた呪われた子供たちの話で思いついたことがあるんだ!」
鼻息荒く興奮した様子で話しかける翠を見て、ルナは少し呆れたように息を吐く。
(やれやれ……何を思いついたのか知らないが、話くらい聞いてやるか)
「そうか、翠も一生懸命考えたんだな。話してみろよ」
小馬鹿にしたように薄ら笑いを浮かべながら翠に話しかけると、胸を張って声を上げる。
「さっき、ルナさんがピンチになると仲間を呼ぶって言っていたでしょ?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、仲間を呼ばせないように結界の中に閉じ込めてしまえばいいんじゃない?」
翠の提案を聞いたルナは、少し呆れた様子で答える。
「お前な……結界の中に閉じ込めるっていったって、そんな簡単にできるわけないだろ? アイツらは得体の知れない魔法を使うんだぞ」
「ふふふ……わかってないな~ルナさんらしくないよ」
返答を聞いた翠が鼻で笑うように声を上げると、少し苛立ったルナが強めに言い返す。
「何がわかってないだ? だいたいご主人たちでも対処に困る相手だぞ?」
「だーかーら、面と向かって戦おうとするからでしょ? 最初から何十も掛けた結界の中に誘い込んじゃえば、相手はピンチかどうかもわからないじゃん」
「お前な……そんな簡単に引っかかるような……ん? 待てよ?」
できるわけないと話を聞いていたルナだが、何かに気がついたような表情になる。すると翠が得意げな表情で話し始める。
「ようやく気がついたみたいだね。この空間は迷宮の影響もあって、結構特殊な感じなんだよね。結界と外の境界線が曖昧な所があるっていうのかな。わかりやすく言うとこの場所に見覚えない?」
「やっとわかった……この場所はあの大穴みたいなものがあったところだろ!」
「御名答! すっごく魔法の調子が良くなるんだよね。だから何十にも結界を張っておいたんだ、少しずつ視点がブレるように」
意気揚々と話す翠の言葉を聞いて、開いた口が塞がらなくなるルナ。
「散歩していたら怪しい人がいたから閉じ込めておいたんだよね。そうしたらなぜかご主人さんたちも迷い込んじゃって……一時はどうなるかと思ったけど、上手くいったからいいんじゃない?」
「……お前ってやつは……そうなると、さっき助けた男性はどこにいったんだよ?」
「ああ、それなら大丈夫だよ。結界の外を通るように逃がしておいたから。今ごろ観光エリアの辺にいるんじゃない?」
あっけらかんと話す翠を見て、項垂れながら大きなため息を吐くルナ。
「やっぱりお前は何を考えてるかわからん……まあ、無事ならいいんだが……ってことは、ご主人たちと一緒にいるのは……」
「まあ、そういうこと。でも大丈夫だと思うよ。ちょっとムカついたから、ある仕掛けをしておいたし……」
「今度は何をやったんだ?」
恐る恐るルナが問いかけると、いたずらっぽい笑みを浮かべた翠が答える。
「そのうち分かるよ。きっと面白いことになると思うし……それよりもあっちの公園で遊んで待ってようよ!」
「何がわかる……って、まだ話は終わってないだろ! こらっ、勝手に走り出すな!」
ルナの静止を振り切って、公園の方に向かって駆け出していく翠。二匹が走り去る様子を物陰から見ている人物が一人……
「一体何が起こったんだ……あの二匹、どこかで見覚えがあるな。ちょっと調べてみるか」
誰もいなくなった空間を見つめながら呟く人物。
点と点でしかなかった出来事が徐々に線でつながり始めた瞬間だった……
最後に――【神崎からのお願い】
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