自分のカケラ
カイがリュックから取り出した服は、真っ白な清潔感のあるワンピースだった。
透明感があってとても夏らしい。
「わぁ!これいいな!
着てみたい!」
一目見てわかった。この服は僕の好みの服だと。
「気に入ってくれたなら何よりだ。後、これもあげるよ。」
次にカイが取り出したのは麦わら帽子だった。可愛らしい青色のリボンがつけられていて、女性向けの物のようだ。カイはその帽子を何故か逆さまに渡してきた。
「ありがとう!」
僕はカイに素直にお礼を言うと笑顔でそれを受け取った。
カイはなんだか照れ臭そうだった。
「き、気に入ったなら何よりだよ。ほ、ほら。早く着てみな。ついでに帽子の中に下着も入れといた。俺の見立てじゃミチのスリーサイズは上から72、52、76ってとこかな。多分ぴったりだからさ。」
そう誤魔化すように早口で言ってカイは笑った。なんだか照れ隠ししているみたいだ。
「カイはそれが無ければ良いのになー。センパーイ。セクハラはやめてください。」
「せ、セクハラ?」
どうやらカイにセクハラの自覚は無かったらしい。少し安心した。意図的にやってるわけじゃ無ければ改善の余地はあるだろうから。
「わ、悪い。そんなつもりじゃなかったんだけど…。」
「わかったならいいよ!
じゃ!僕は着替えるから。待っててねカイ。」
そう言って僕は上機嫌で試着室のカーテンを閉めた。
「ゴメンな。ミチ。」
カイが妙に反省したような暗い声で僕に伝える。あれ?思ったより反省してる?
「うん。わかった。」
僕はそう言うと、僕は今着ている服をすぐに脱いだ。ようやくこのヒリヒリから解放される。このジーンズの生地は僕には合わない。
そのままの勢いで、上に着ている服も全て脱いでしまった。
まさに生まれたままの姿。僕は鏡の前で裸になった。
改めて見る自分の姿。どこから見ても女だと言える。まぁ、少し成長不足な気がしなくもないけど。
カイは僕のこと大人しそうな顔って言ってたな…。
自分の顔をまじまじと見る。…うん。よくわからない。別にブサイクでは無いと思うけど。どうなんだろう。
自分の顔って割と評価し辛いな。まぁ、見せる相手も一人しか居ないし、別にどうでもいいか。
とりあえず帽子の中からカイが用意したらしい下着を取り出す。
水色の水玉模様のパンツと、胸元に小さな可愛らしいリボンのついたブラジャーだった。カイはこんなのが好きなのかな?
パンツはすぐに履けたが、ブラジャーの装着に以外と手間取った。見えない所でホックを掛けるのは意外と難しい。
感覚としてはなんだか始めて付けたみたいだった。やっぱり昔の僕は下着が嫌いだったのだろうか…。そんな一抹の不安を抱きながら着替えを続ける。
僕はカイが見つけてくれた透明感のあるワンピースに手をかけた。
◆
「こ、これが僕?」
服を着替えた僕はなんだか不思議な感覚を感じていた。
まるで、生まれ変わったような感覚。まだ、存在しなかった僕の一部が骨組みから組み立てられていくような不思議な感覚。
何となく僕は自分の事が少しわかったような気がした。
スカートを少し持ってヒラヒラとさせてみる。
ズボンじゃ無くなったので下半身が少し心許ないが、涼しくていい感じだ。
最後に麦わら帽子をかぶってみる。
鏡の中の僕は嬉しそうに笑った。
勢いよくカーテンを開ける。
「カイ!着替え終わったよ!」
試着室の前のカイは何故かまだ俯いていた。
「もー。いつまで落ち込んでるの?僕はもう気にして無いって!」
「ああ。…」
カイは顔を上げ、僕を見た瞬間固まった。
「カイ?」
「…」
「見てないで何か言ってよ…。」
「かわいい。」
「えっ!」
「ミチ。かわいいよ!凄く可愛い!」
「急になんなんだよ!」
急にべた褒めしてくるカイ。なんだか怖い。
「あ、ゴメン。考えたんだけど、俺ちょっと距離感を掴むのが苦手みたいだ。嫌だったら言ってくれよ。なるべく直すから。」
「…別に嫌じゃ無いけど…。僕だって女の子だし、可愛いって言われたらそりゃあ嬉しいよ。
でも、ちょっと勢いがありすぎてびっくりしただけ。」
「そっか。それなら良かったよ。やっぱりミチには透明感のある服が似合うな。そのサンダルも履いてみなよ。」
カイが足元を指差すと、そこには今着ている服装にぴったりなサンダルが置いてあった。
「わぁ!ありがとう!カイってエロ大魔神だけど服のセンスはいいんだね!」
「大魔神はやめてくれよ。でも、気に入ってくれたなら良かったよ。」
しばらく間が空く。
「…それで、どっちの服にする?」
カイは急にニヤリと笑った。
「え?」
突然の質問に頭がフリーズした。
…そうだった。僕たちは勝負をしてたんだ。勝負の内容は僕が気に入る服を探すこと。気に入った服を決めるのは僕だ。
どちらの服を気に入ったか、それは言うまでも無い。でも、負けた側は勝った側の言うことを何でも一つ聞かなくてはならない。
でも、自分に嘘をつくのは嫌だ。僕はそう思った。
「そうだね。もちろんカイが見つけてくれた服の方が気に入ったよ。」
僕はお礼の意味も込めて満面の笑みでカイに告げた。
「そ、そっか。良かったよ。」
カイは僕をみて少し照れ臭そうに頭を掻くと、視線を逸らした。
「この勝負はカイの勝ちだね。さすが先輩。恐れ入りました。」
「お、おう。」
「…でも、あんまりエッチな命令はやめてよ!」
「わ、わかってるって。どんなことをお願いするかはまた考えとくよ。」
少し焦ったような感じでカイは言った。
結果的にカイの僕に対するセクハラは少なくなった。
本当に彼は反省しているようだ。僕は少し安心した。
しかし…。
チラチラとこちらを見てくるカイ。
「カイ?何か用でもあるの?」
「な、何でも無いよ!」
なんだかカイの口数が少し減った気がする。気安さも少し減った。それは正直少し寂しく感じた。
「ねーカイー!もっとはっきりしてよ!最初に言ったけど、僕は、はっきりしない人は嫌いなんだ。」
「わ、わかったよ。気をつける。」
僕はとても上機嫌でカイを見つめた。
「あ、あんまり見つめるなよ。」
「え?なんで?」
「なんでって…。」
「まぁ、いいや、カイ。この服見つけてくれてありがとね!とっても気に入ったよ!」
僕はカチカチと点灯しては消える蛍光灯のスポットライトの下でくるりと回って、ポーズをとった。
「うん。そっか。そりゃあ良かった。」
カイは何故か安心したように小さく笑った。




