エピローグ これからの決意
「そういえばさ、土曜日にテロ騒ぎがあったじゃない」
「うんうん。あったよね。街中に非常放送が流れて、何か凄いことになってたよ」
「アレってさ、噂では夜束駅の前に、黒い狼の怪物が現れて、暴れてたんだって」
「知ってる! 悪魔のヒーローが駆けつけて、小学生の女の子とイチャイチャしてたっていうアレだよね」
「えっ!? 小学生と? 話が飛躍し過ぎて意味が分からないんだけど……っていうか、悪魔のヒーローって変態だったの?」
ブラドを倒してから翌週の月曜日。マキナが登校すると、教室の中では朝からこんな話題で持ちきりだった。
一応は御影たち神魔管理教会の職員が手を回して、情報操作や街の復旧を行なってくれているみたいだが、人の噂というモノは広まるのが早い。もともと注目されるつもりはないが、悪魔のヒーロー変態説が浮上している今となっては、人前であまり変身しない方が良いかもしれない。っていうか、絶対に正体をバラしたくない。
何となく肩身の狭い思いをしながら、マキナが机で突っ伏していると、クラスメイトの竹部与一が、土曜日の事件のことで話しかけてきたので、寝たフリをして竹部の話を無視。
授業中には後ろの席の如月が、「有名人は大変だねぇ」と茶化してきたので、涙目になりつつ睨んでおいた。
そんなこんなで、精神をガリガリ削られながら1日の授業が終わった放課後。校舎の昇降口から出たマキナが校庭を歩いていると、人波のように生徒たちが出ていく校門の前で美羽が待っていた。
「先輩! おつかれさまです」
「美羽ちゃんもお疲れ様」
土曜日にブラドを倒してから、家に帰ったマキナは、まずは妹のシャルに美羽とパートナーの関係を結ぶことを告げた。すると、シャルは「わかった」とだけ言ってテレビゲームを始めたので、マキナは、そのまま魔界にいる母親に電話をした。
ブラドを処刑した経過と一緒に美羽のことを話して、今後のことについて自分の意志を伝えたマキナが電話を切ると、すぐに母親は魔王と掛け合ってくれたみたいで、折り返し掛かってきた母親からの電話の答えは、「魔王様は、別に構わないって言ってたわよー」だった。
マキナとしては、何ていうか、もっとこう、魔界側の意見として退魔師と組むことは認められん! みたいなのを懸念していたのだが、あっさりと認められてしまい肩透かしを喰らった気分だ。まあ、それだけ自分が重要な立場に居ないということなのかもしれないが。
そのおかげで、美羽とパートナーの関係になることが出来た。これでヨシ! としよう。
「はい! 先輩……それで、その……御影先生でしたっけ……? あの黒い服を着ていた人が言っていたように、この街の魔族たちが悪いことをしないようパトロールをしたいのですが……」
「うーん。そうだなぁ……」
おずおずと訊ねてきた美羽の言葉にマキナは思案する。
天啓学園の教師で神魔管理協会の職員でもある御影に、夜束市の魔族たちがバカなことをしないように管理を頼まれてはいるが、ブラドとの戦いで全てを出し切ったせいか、昨日は疲れ過ぎて家から1歩も出ていない。美羽も同じような状態だったのだろう。昨日は訪ねて来なかった。
だから、今日はマキナとしても、魔族たちの動向を見て回りたいと思っていたのだが。
人間界には逢魔が時という言葉があるように、魔族や人外の動きが活発になり始めるのは、基本的には夕方を過ぎてから。
「パトロールをするには、まだ早いと思うんだけど。どうする? 一旦ウチに帰って、時間が来たら迎えに行こうか?」
その方が効率良く魔族たちの動向を見回ることが出来る。
マキナがそう思って訊ねると、美羽は頬を朱色に染めつつ、遠慮がちにこんな言葉を返してきた。
「えっと、その……どうせなら、先輩のおウチにお邪魔できたらなぁ……なんて、思ってみたり……」
胸の前で両手の人差し指をくっつけながら、こちらを見上げてくる美羽の頭をそっと撫でつつ、マキナは優しく微笑む。
実際のところ、小学生に寄り道をさせるのは、どうかと思わなくもないが、このまま美羽がマキナの家に来てくれた方が、2人で見回りのルートを決めれるので都合が良い。人見知りのシャルも、美羽のことを嫌ってはいないみたいなので、問題ないだろう。
「美羽ちゃんがそうしたいなら、俺はべつに構わないよ」
「ホントですか! ありがとうございます」
パァッ! と満面の笑みを浮かべた美羽に、マキナは、「じゃあ、早速ウチで作戦会議だ」そう言って彼女の頭から手を離すと、そのままゆっくりと歩いて校門を通り抜けた。すると、「はい!」と返事をした美羽が、嬉しそうに並んで歩いてくる。
最初に美羽と校門で出会って、「わたしとパートーナーになってください」と言われた時に、マキナはとんでもない勘違いをしてしまい、彼女を振り切ろうとして逃げるように歩き去った。それが、色々あって現在はマキナのパートナーとして隣を歩いてくれている。煮え切らない態度のマキナを、それでも、美羽が信じて全力でぶつかってくれたおかげだ。
これから先、彼女の力が必要になる時が、何度も来るだろう。
御影が掛け合ってくれてはいるが、神魔管理協会がどういった答えを出すのかも気になる。
だからこそ、自分の隣にいる小さな退魔師と一緒に、この街の平和を守り、魔族や人外を含めたみんなの居場所を守っていこう。そのためにも、魔族や人外たちが人間に迷惑をかけないように、しっかり管理しないと。
帰宅する生徒たちの波に混じって、住宅街の道を神代美羽と一緒に並んで歩きつつ、久遠マキナは、心の中でそう決意を固めた。




