作戦開始
「――はっ」
目が覚めると、屋根裏部屋のほこりが日に当たってキラキラと輝いているのが見える。
(夢……よかった。)
「――っそうだ!」
私は早速、自分の魔力が増えたかどうかを確かめてみることにした。
貝殻を手に取り、魔力を注ぐ。そして、「あ!」とだけ声を発してみた。
貝殻を叩くとそこから自分の声が返ってきて、口角がどんどん緩んでいく。
(やった……!成功だ!)
それから会長のが録音してくれた貝殻を手に取り、「大丈夫、君ならできるよ。」という声をもう一度聞き、両手でそれを包んで「ありがとうございます」と呟いた。
家を出る前、リリー様は「覚悟はできてるわ、私、今日のために演技の授業をしたのよ。」と真剣な顔で言う。
「うん、私も……絶対成功させるよ!」
腕を付き合わせ、私たちは別々に登校した。
……
「ひどいわー!こんなのあんまりよ!わたしの従者ったら、ペンに奇妙なガラスの粒を貼り付けてゴテゴテのキラキラにしちゃったの!ゴツゴツしててかきにくいわ!ノートも暗い所で光るペンやラメの入った封蝋で装飾されて……!なんの為にそんなことをー!」
教師に入ると、廊下からリリー様の声が響く。教室の中にいた生徒たちは一斉に私を見た。
(よしよし、いいぞ!)
「いや違うし!リリー様が私のスカート丈勝手に伸ばしたから仕返ししただけ!酷いのはあっちでしょ!」
誰にも聞かれていない中、私が必死に反論する。クラスメイトたちはこちらを怪訝見つめながらヒソヒソと何かを話し込んでいた。
――放課後、私はチグリジアのメンバーを見つけ声をかける。
「ねえ、ちょっといい?私……あなたたちの仲間になりたいんだけど!」
最初はかなり警戒されたが、リリーと喧嘩しているらしいという情報を仕入れたメンバーの垂れ込みにより、なんとか話を聞いてもらえることになった。
私は旧校舎に誘導され、以前ハサミで脅してきたリーダー格らしき女と再会する。
「こんにちは、また会ったわね……何しに来たの?スパイ?」
不敵に笑いかける女。私は首を横に振り「主人に……騙されてたの、私。闇の魔力のことを知らず従者としてこき使われてたんだ。」と答えた。
「あなた……この世界にいて闇の魔力を知らないなんて有り得るの?確かに知らなそうではあったけれど。」
「私、自分が何だったとかそんな記憶全然ないんだ。身寄りがないっていうか、身分がわからないの。それを、利用されて――」
腕を抱く私を見て一瞬、女は眉を下げる。
「確かに……闇の魔力について知っていたら触ろうとなんか、しないわよね……あの時点であなたが私たちに取り入るため動く理由は薄い。」
しばらく顎に手を当てた後、女は「私の監視下であれば、入れてあげなくもないわ。リリーの従者なら情報を抜きやすいし。」と口にした。
「ほんと!?やったー!」
抱きつこうとする私を押さえ、女は「ただし!今、ここで!リリーの重要な情報を私のが条件よ!」と取引を持ちかける。
「どういうのがいい?私が知ってる1番重要そうな情報は……リリーがどうして恋したがらないかくらいなんだけど。」
「……!十分よ、教えなさい。」
女が食いつくので、私は「リリーは男性が怖いみたいなの、少しトラウマがあるみたい。」と嘘でもないが本当でもない情報を渡す。
「トラウマ?」
「なんでも、何度かお付き合いをしたけど、その度不幸な目に遭ったとか、なんとか……それ以上はわからない。不足?」
「いいえ、十分よ。」女はそう言うと、私に腕章を差し出してきた。
「あの……私、これを付けない方がいいと思うんだ。リリーには仲間のふりをしておいた方がいい。」
「別に、必ず付けなくていいわ。実際、鞄に隠してる子も多いしね。」
(じゃあ、見えてる数よりメンバーが多いのか……)
「……そうだ、名乗ってなかったわね。私は3年のブレンダ・ジョーンズ。あなたは名乗らなくていいわ、有名すぎる。」
ブレンダはそう言うと、痣があった右手ではなく、左手を差し出してくる。
私は彼女の右手を掴み、大きく振った。
「よろしく、ブレンダねえさま!」
そう呼ぶとブレンダは顔を真っ赤にして「何勝手に……!ジョーンズ先輩とかでいいでしょうが!」と声を荒らげ、
少し間を置いてから「……そうか、あなた身寄りがないのよね……いいわ。呼び方については許可を出す。でも二度と右手には触れないで。」と私の手を振り払う。
(なんか……この人。)
少し心にひっかかるものがある。意外にもこのブレンダという女には、人に対する慈悲や共感力があるように見えた。
「しばらく、あなたの任務はリリーの情報提供になる。このリストにある情報をリリーから集めてきなさい!1日でも情報が滞れば私たちはあなたを切る、分かったわね。」
「はい!」
そんなやり取りを行った後、すぐに着替えてすっぴん状態で再び面接を受ける。
学生証に関してはノアがこっそり偽物を手配してくれ、私は少しもアキコだとバレることなくチグリジアのメンバーとして歓迎された。
チグリジアの求めているものはもう分かってる。人を集めて私たちを助けてという声を大きくしていきたいのだ。
だからこそ、アキコじゃなければ基本簡単に入会できるらしい。
私はリストを持ち帰り、屋敷の客間で待つリリー様とノアに見せる。
「まあ、なんか項目が……お見合いみたいだわ。趣味だとか、好きな殿方の傾向だとか。」
リストに目を通しながら呟くリリー様。
「もしかしたら最終的に、リリー嬢の理想に近い殿方を偽造して巡り合わせる気なのかもしれません。」
ノアも自分の考えを口にした。
「チグリジアって女の人がめちゃくちゃ多いよね?潜伏してるだけで男の人もいるのかな?」
私が尋ねると、ノアは少し天井を見上げてから「ユーリがぼやいてたんだけど……最近生徒に妙な化粧品を売っている人間がいて、その化粧品を使用した人間から体調不良を訴えるクレームが入って困り果てているそうですよ。そろそろ荷物検査まで視野に入れている、と……」そう呟く。
「……!それ!かなりいいね!チグリジアに潜伏してる人を炙り出せるかも!」
机を軽く叩きながら言う私に、リリーは心配そうな表情で「でも平気?近いタイミングで荷物検査なんてしたら、アキコが疑われちゃうんじゃ……」懸念した。
「ギリギリ……疑われない方法があるよ。」
「疑われない方法?」
リリーはぱちぱちと目を瞬かせる。
「私も荷物検査に引っかかるの。……リリー様の情報を、何個か手渡した上でね。」
……
私は1週間ほど、ブレンダへ素直に情報を渡す。そして来たる荷物検査の日、鞄にチグリジアの腕章を忍ばせ何食わぬ顔で校門を通ろうとした。
風紀委員たちが生徒に声をかける中、私だけがユーリ生徒会長に呼び止められる。
「サイトー。お前化粧品とか大好きだろ?鞄を拝見しても?」
(げっ……なんで私だけ会長なのよ!)
「乙女の鞄覗きたがるとか、サイテー……まあ、見たけりゃ見ればいいじゃん。」
想定していた相手ではなかったため少し見せるのを躊躇ったが、余計なやりとりを挟みたくもないので素直に鞄を差し出した。
会長は「失礼」と断ったあと、私の鞄の中身を調べていく。そして途中で手を止めてから、目を大きく見開いた。
「……ちょっと来て。」
会長は突然私の手を引き歩き始める。
そして生徒会室まで連れてくると、想定していた通り「これは何?」と言いながらチグリジアの腕章を突き出してきた。




