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光の巫女

「あ、もしかして企業秘密的な?」


殿下が絵画のような壮美な顔面はそのままに、やけに軽い口調で尋ねてくるものだから困惑してしまう。


「えと……買ってないです、これ。手作りで……クロヒゲソウの実から毛だけ取り出して、細かく切ってから芯に貼り付けてます……」


圧倒されつつ解説すると、殿下は「マ!?めっちゃ手間かけてんじゃんやば!」と言いながら目を見開いた。


(これは……一体?)


「でも僕まつ毛白いからクロヒゲソウから作ってんなら色浮くね。まつ毛盛れんのまじ裏山〜てか爪は!?樹脂!?」


動揺している間にも殿下の質問は止まらない。


「そう樹脂……魔物の歯に樹脂塗ってネイルチップに……してる。」


「何それ、賢すぎ!えー今度僕にもチップ作ってよ、報酬出すしー。ほら見て、王宮謎に商人いっぱい来るからパーツに使えそうなの集めてみたんよ。」


ポケットからピルケースのようなものを取り出すと、キラキラと輝く小さな石や金装飾を見せてくる殿下。


「やば!このサイズ感まじ求めてたやつ!この世界金属の加工技術まだ発達してないから今まで粘土とか貼り付けてたんだけど。」


「わかるー、小さいの見つからんよね……ていうかさ。」


殿下はゆっくりピルケースを閉じて間を開けた後「転生した?」と尋ねてきた。


「した!」


「まじ!?僕もーー!」


……


「びっくりしたー……!私以外に転生者がいると思わなかったんだけど!」


私は学園の裏庭のベンチで殿下にもらったマカロンを食べながらそう口にする。


「僕はあの子まじ現代ギャルすぎん?って思ったからあんま驚かなかったわ!」


「いやそれはそうすぎる、私転生者丸出しだしね。殿下は前世女の子だったん?」


「そろそろその殿下っていうのやめてよ!僕はノア・ライネス。ノアって呼んで!……前世でも男だったよ、しかも今の姿に劣らぬイケメン!ファンレター貰ったこともあるし。」


「ノアか、把握!ファンレターはスゴすぎるわ。ネイル好きは趣味?」


尋ねると、ノアは1度「うん、僕可愛いもの大好きだからさ。」と答えてから少し間を置き、「あ……男なのにきしょいよね、そういうの。」と言って俯いた。


(……?何だ急に。)


「なんで?キショくないよ、イケてる。」


そう答えると、ノアは目を見開いてから安堵したように微笑む。

その様子を奇妙に思っていた時、「ここにいたの!?」と裏庭に澄んだ声が響いた。


私は息を切らしながらこちらに駆け寄る少女の顔を見て、勢いよく立ち上がる。


「リリー様!す、すみませんそうだった、合流する約束だったのに……!」


「ユーリ様から『爪の尖った制服のスカートが短い女子生徒が謎の集団に連行されたらしい』と聞いて探してたのよ、そんなのあなたしかいないもの!」


(あ……王子、私と察して走ってきてくれるとか愛じゃん♡とか思ってたけど思ってたより私だな、それは……)


「大丈夫!?何があったのか話して!」


私の肩を掴み問いただそうとするリリー様を見て、ノアは私との間に1人分の空間を開けてから「まあ、座ってください。」と微笑んだ。


「殿下!?どうしてここに……し、失礼します。」


リリー様が座ったのを確認すると、ノアはゆっくり口を開き「……『チグリジア』。最近学園で暴れている迷惑な派閥については……君も知っているね?」と彼女に切り出す。


(チグリジア……もしかして、あの花の腕章の人たち?)


「も、勿論知っています……私がいなければ生まれなかったものですから。」


暗い面持ちで語るリリー様の拳は、固く握られていた。


「アキコ嬢はチグリジアに目をつけられたみたいだ。心配なのでよく見ておいてあげてください。」


ノアの言葉を聞いた瞬間、リリー様の体が微かに震える。


「わた……私……ごめんなさい……!こんなこと、予測できたはずなのに……」


そう口にするリリー様を奇妙に思い、私は「えっと……チグリジアっていうのは一体何なの?」とノアに尋ねた。

彼はそれに答えず、目を伏せてから「それは君の主人が説明した方がいいことかもね。」と呟く。


「……話すわ、危険なことに巻き込んでしまったんだもの。……アキコ、『光の巫女』の役割はね。闇の魔力を浄化し癒すことなのよ。」


リリーは本当に辛そうに、震えた声で語り出した。


「闇の……魔力……」


なぜか、それがどんなものか聞かなくても腑に落ちた。私を襲った女子生徒の手にあった黒いあざ、あれと関係があるに違いない。


「そうなの!?すごいじゃん!皆から尊敬されるわけだ!」


私は震えるリリー様の手を握り、朗らかに笑う。しかし彼女の震えは強くなる一方で、目は潤んで今にも涙が溢れそうだ。


「私……まだ、力が覚醒していないの。その為には……『真実の愛』を見つけなきゃいけないから。」


掠れた声でなんとか説明するリリー様の肩を撫で「も、もういいよ!辛かったねリリー様。」と声をかける。


「……じゃあ、要約だけ僕がしようか。リリー嬢の浄化能力は『真実の愛』とやらを見つけなきゃ目覚めない。だから闇の魔力に蝕まれている人たちは焦っているのさ、『リリーがもし、誰とも結ばれなかったら?』ってね。」


「その……真実の愛っ……て、どんなの?さっきの人たちは殿方と関わらないとか、どうとか言ってたけど。」


ノアに尋ねるも、彼は肩をすくめ「ここが残酷なんだけどね、よく分かってないんだよ。もしかしたら額面通り運命の王子様を見つけることかもしれないし、推しを見つけたら即終了♡なのかもしれないし。」と言った。


「殿下……オシ、とは?」


先程まで泣いていたリリー様が、余程引っかかったのかきょとんとした顔で質問する。

ノアは「やべ」と小さく呟いた後「『推し』とは、アキコ嬢の故郷の言葉で『崇拝対象』という意味があるんですよ!」と無理のある言い訳をしていた。


(今までよく疑われずに王子できてたな、この人。)


だが、リリー様の事情はわかった。彼女はずっと『真実の愛』なんてフワッとした使命に振り回され、「早く好きな人を見つけて、私たちを救え」と常に圧をかけられていたんだ。


(なんか……酷い話。)


どこか悔しくなってしまい、私はリリー様に「なんかそれ、ムカつく話。好きで光の巫女になったんじゃないんだし?リリー様の人生なんだからさ、ゆっくり自分の愛を見つけていいんだよ。」と発言した。


すると、リリー様の震えは止まり、彼女の固く結ばれた口元が緩む。


……しかし、少し間を置いたようにハッとしたような顔をするリリー様。そしてまた悔しそうに震えると、私の手を振り払うみたいに突然立ち上がる。


「ふざ……けないで!これは私だけの問題ではないのよ!この世界に、どれだけ光の巫女の救いを待っている人間がいると思ってるの!」


顔を真っ赤にして、涙を流しながら訴える彼女を見て……何も言えずに言葉を詰まらせた。


動揺している間にリリー様は「……今日はあなたとは帰れないわ、夜までに一人で戻ってきなさい!」と言い捨て走り去ってしまう。


「……」


「……考え自体は好きだけど、伝えるタイミングは良くなかったかな?」


硬直しながらぽかんと口を開ける私の隣でノアが呟いた。


(私……なんてことを……!そうだよね、リリー様があの人たちのことについて心を痛めてないわけないのに。)


「……ま、これで分かったでしょ?君がこの世界にどれくらい詳しいのか知らないけど、ここは乙女ゲームの中の世界で……リリーちゃんは、その主人公だ。」

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