追求、開始。
翌日、授業が終わってすぐに、私は生徒会長を探した。
「会長!」
よく目立つピンクブラウンの髪を目にして、声をかける。会長は振り向き、私の顔を見てから「うお!?」と声を上げた。
痣が見えたのかと思い確認したが、かなり念入りに固めたので横髪はヨレていない。
「……なんか、忙しかった……?そしたらまた改めるけど……」
気分が落ちてしまい、無愛想に言い放つ。会長は焦ったように「すまない……かなり雰囲気が変わっていたからその……か……」と言って、固まる。
「……?」
「か……髪型!?変えたんだね!ははは!あれだろ?成分分析の結果を聞きに来たんだよね……おいで、生徒会室に結果がある。」
言いながら会長は生徒会室へと歩き出した。
なぜかは分からないがその時、私の脳裏に一昨日のノアの顔が過ぎる。
驚くほど優しくて、切なげな瞳で「可愛いよ」とだけ言われた、あの瞬間。
心臓のあたりがぎゅっと掴まれたような感じがした。
(どうしてノアの時だけ、変な反応ばかり起きるのか……)
そんなことを考えていた時、力強く誰かに肩を掴まれる。
「いっ……たい……!」
潰れそうなほど強く握られ、「やっと見つけたよ、アキコ。」と低い声で囁かれた。
振り向くと、ミュラーが獲物を見つけた蛇のようにこちらを睨んでいる。
背後には、何人かのチグリジアメンバーが立っていた。
廊下にいた生徒たちがざわつきはじめ、異変に気付いた会長が引き返してくる。
「失礼、ミュラー先生……その生徒に何かご用ですか?少々手に力が入りすぎているようだ、話があるなら俺も同席しますよ。」
会長はそう言って、ミュラー先生の手をほどいた。私は怖くなり、すぐさま会長の後ろに隠れる。
「……ふん、ユーリ君、その生徒をあまり庇わない方がいい。彼女は個人的に俺を付け回し、プライベートに干渉してきたストーカーだ。」
「……サイトーが……?」
ミュラーは私の腕を掴み、思い切り引っ張った。その時、シュシュで隠れていた腕の痣が露わになる。
「やはりね、昨日の少女にあった痣……見覚えがあると思ったがやはり君だったんだね?昨日護衛してくれていた生徒に聞けばわかる。……どうだい?」
ミュラーの背後にいた女子生徒たちは、「この子です!ミュラー先生に抱きついた女!」と糾弾した。
「ち、ちがう……誤解なんです会長!」
生徒会長は考えるような素振りを見せた後に「もし、そうだとして。こんな公の場で女子生徒の痣を露わにするのは感心しませんね。離してください、これは彼女への侮辱だ。」と再びミュラーの手を払う。
(会長……!)
「なんだ、やけにその子の肩を持つじゃないか。彼女は僕のプライベートに干渉し、個人的なことを裏で調べているかもしれない人間なんだ。これは僕とアキコの問題、君は首を突っ込むべきではない。」
「何を根拠にそんなことを……」
「別人に変装して周りを嗅ぎ回られたんだぞ、警戒しない方がおかしい!」
――まずいな、この調子だとミュラーの言っていることの方が正しく聞こえてしまうかもしれない。
事実、廊下に集まってきた野次馬たちは、私を怪訝な目で見つめていた。
「……分かりました。確かに複数人の目撃者がいるのなら一考の余地があります。変装までして個人的な情報を探るなんて許されないことだ。今からサイトーの処分を決めますので、ミュラー先生と証言者の方は生徒会室に来てください。……サイトー、勿論君もだ。」
会長は再び歩き出す。私が「違うんです!」と説明しようとしても、彼は耳を貸してくれなかった。
思案しているうちに生徒会室についてしまい、生徒会長はドアを開け「入りなさい」と促す。
そこには何名かの生徒会役員らしき生徒と、なぜかノアが座っていた。
「随分と沢山お客様を連れてきましたね、ユーリ。」
ノアはそう言って微笑んでから立ち上がり、私たちの後ろに回り込んでから鍵を閉める。
「で、殿下!?どうしてこんな所に……」
ミュラーは焦った様子でノアの方に振り返るも、ノアは落ち着いた様子で「僕のことは気にしないでください。」と言うのみだった。
ノアにビクつきながら、「では、アキコの処分についてだが……」と切り出すミュラー。
会長は机から何かを取り出すと「サイトーの処分……?一体何の話だろうか。」と呟く。
「は!?いや、君は先程……!」
取り乱すミュラーの前に、会長は取り出した書類を突き出した。
「処分されるべきは、あなただ。」
そう言い放つ会長を、ミュラーは唖然とした様子で見つめている。
「ミュラー先生、この化粧品に見覚えは?」
会長がファンデーションを掲げると、ミュラーは引きつった顔で「最近問題になってる化粧品だね、それが何か?」ととぼけてみせた。
「失礼ながら、休日のうちにチグリジアのメンバーへの面談を行わせてもらいました。学校でやるといつもあなたが介入して調べられませんので……そうしたら、全員口を揃えて言いましたよ。ファンデーションはチグリジアの人間が配ってるものだ、とね。」
会長がそう詰め寄ると、ミュラーは「チグリジアの生徒たちが勝手にやったことさ。僕には何の関係もない。それとも、僕がそれを作った証拠でもあるのかい?」と言って笑う。
実質ミュラーに裏切られてしまったチグリジアのメンバーたちは、ミュラーの後ろで複雑そうに顔を見合わせていた。
私はミュラーを逃がしてはいけないと思い、鞄から小さな箱を取り出し「あります、証拠!」と声を上げる。
その箱を叩くと、中から「今問題になっている化粧品は、ミュラー先生が作った物よ。」と語るブレンダの声が聞こえてきた。




