本音
まずい……!このままではいけないと思って飛び出したはいいものの、ここからどう切り抜けたらいいのだろう。
「君は……ユキ君だったか。こんな所で何をしている。」
こちらを冷たく睨みながら吐き捨てるミュラー。私は彼を睨み返し、どうしたらこの男が納得する言い訳ができるかを考えていた。
ミュラーはどんな人間?狡猾で、卑怯で、気持ち悪くて……
――そうだ!女子の扱いに対する自信が強い!
私は、勢いよくミュラーに抱きついた。想定していなかった行動だったのか、彼は珍しく動揺している。
「ミュラー先生……!私、もう耐えられません!こんな小娘じゃなくて私を選んでください!」
「……えー!?」
先程まで声を出せていないようだったリリー様が、そこでようやく声を上げた。
「君……!僕とリリー君のデートを邪魔するためにつけていたのか!?」
ミュラーの質問に、私は「そう……です。ミュラー先生に薬をいただいてから、ずっとお慕いしておりました。だから私、ミュラー先生がリリーを好きなのが許せなくて……!」と、涙声で答えてみせる。
「……仕方のない子だ。でも、プライベートなことに干渉してくる女の子は僕のタイプじゃない。……この意味、わかるね?」
私の頭を撫でながら窘めるように言うミュラーの反応を見て、確信した。
この男は自分の魅力が引き金になって起こったトラブルならば、「起こりうること」として納得するらしい。
「……わかりました……ミュラー先生、邪魔してごめんなさい。どうか嫌いにならないで……」
そう懇願する私に、ミュラーは「ああ、嫌ったりしないさ。早くお家に帰りなさい。」と優しく促す。
去り際、私はリリー様に目配せした。彼女は何かを察したように頷き、私が去った後で「ミュラー先生、あんな奇行をする方にも慈悲深く対応されていて素敵です!」とミュラーをおだてる。
「そうかい?君もああいうのには気をつけて、必要なら僕を頼ってくれ。」
ミュラーは初めて手応えを感じた様子で微笑むと、「そろそろ帰らなきゃ」と言うリリーに連絡先を渡して去っていった。
庭園を回り込みノアの元に戻ると、彼は私に「ミュラー、帰ったよ。」と無表情に言い放つ。
あれだけ止めてくれたのに勝手に行動したのだ、不機嫌になるのも無理はない。
「ごめん……勝手なことして。まだリスト、8割くらいしか埋まってないのに。」
「8割埋まってたら十分じゃない?……それよりさ、除菌魔法かけてあげるよ。怖いやつじゃないよ?日本でいうとこのフェブリーザだから。」
ノアは低い声で言いながら杖を取り出し、私に何度も……何度も魔法をかける。
「ノア!?ノア、もう大丈夫!ストップ、ストップ!」
必死に止めると、ノアは震えた声で「ごめん俺……お気に入りの花に害虫が付いたら徹底的に駆除するタイプで……耐えきれなくて……!」と口にしてから抱きついてきた。
(が、がいちゅう……ノアってときどき、変。)
「変なとこ触られなかった!?アキちゃん……!もうあんなのに触っちゃだめ、そういうのは俺が全部やってあげるから……!」
ノアがここまで取り乱すのが珍しくて、私は言葉に迷う。動揺しつつ「ご、ごめんね、勝手なことして……リリー様にも謝らなきゃ、だし……一旦帰ろ?ね?」と促す。
涙目になりながら離れるノアを見て、(私、男の子の友達あんまりいなかったけど……それが正常な距離感なのかな。)なんて考えていた。
……
屋敷に帰ると、先に帰っていたリリーが薔薇の花束を持って立ち尽くしている。
私はリリー様の名を呼び、駆け寄ってから抱きしめた。
「あ……アキコ、あの……」
狼狽えるリリー様に、「ごめん。痣のこと隠してて……全部話します、聞いてくれるなら、ですけど……」と言う。
リリー様は少し考えてから「……聞かせて。今度は、全て正直に。」と口にした。
私とノア、リリー様は客間に入ると、椅子にかけてからお互いを見つめる。
1分ほどの沈黙を破り、私はリリー様に全てのことを話した。闇の魔力を吸収する能力があること、リリー様に心配をかけたくなくて黙っていたこと――
リリー様は初め、静かに聞いていたが……話の途中で泣き出してしまった。
「ごめんなさい……初めから話しておけば良かったのに、こんな……余計傷つけるようなことをして。」
そう言って頭を下げる私に、リリー様は「そういう問題じゃないのよ!顔に痣ができたなんて……アキコは女の子なのに!私のせいだわ!」と言って大声で泣き出してしまう。
「ち、違うんです!私が考えなしに能力を使ったせいで……!」
しばらく自分の責任を主張するラリーが続いた後、ノアが「もうやめよう、誰が悪いとかじゃないでしょ。リリーちゃんだってきっと、アキちゃんと同じ能力を持ってて身内が苦しんでたら能力を使ってた。違う?」と言って場を収めようとした。
リリー様は言い返せず、俯く。そして「だって、そんな場所に痣ができてしまったら、アキコの人生は……」と呟いた。
「大丈夫!ユーリは痣がある程度で女子を見限る人じゃないし、あの程度なら髪で隠れるよ。……そうだ!アキちゃん、屋根裏部屋に僕のこと連れてってくれない?リリーちゃんも一緒に来て!」
ノアに促されるまま、私は彼を屋根裏部屋に連れていく。
そしてリリー様から借りたハサミやらコームやらを持ってくると、鏡台の前に座らせた。
私のウィッグを取り、髪に何かの魔法をかけてから、ノアは「髪、切ってもいい?ちゃんと可愛くするから!」と言う。
「えっ?……あ、ああ……うん。」
私は何がなんだか分からぬままに了承した。
ノアは「こういうスタイル嫌いとか、そういうのある?」と尋ねてくる。
「あんまりショートカットとかは……輪郭出るの、苦手で。」
それだけ伝えると、ノアは「了解」とだけ言って慣れた手つきで私の髪をブロッキングしはじめた。




