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フェルネスの受難――皇女さまはあきらめない――孤独な抵抗  作者: 鶴見 日向子


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8/22

シャローヌの実験

え?シャローヌ、それする?という場面から始まります

「帰ってきてくださって、ありがとうございま~~す!」


いきなり、シャローヌがフェルネスに抱きついた。


「えっ? え? え?」


フェルネスが固まる。


さらにシャローヌは、フェルネスの頬に口づけをし、そのまま頬ずりまでした。


「一度、フェルネス様を抱きしめてみたかったのです。なぜかフェルネス様を見ると、母性本能が激しく刺激されるのですよ」


ようやく離れると、シャローヌは満足そうに笑った。


「あ、本当に冷や汗もかいていないし、顔色も変わっていませんね」


皇后が冷静に言う。


「なんだか、懐かしい気がしました。昔、姉上に抱きしめられた時のような……」


フェルネスは驚きながらも、遠い目になった。


「きっと身長のせいですよ。亡くなられた姉上様も、私くらい背が高かったのでしょう?」


シャローヌが笑う。


「はい……確かに」


フェルネスがうなずいた。


その時、クラリスのまぶたがわずかに動いた。


皆が一斉に顔を覗き込む。


ゆっくりと、クラリスが目を開いた。


「あ、赤ちゃんは?」


慌てて起き上がろうとする。


「動いちゃ駄目! 一日は安静よ、クラリスちゃん!」


シャローヌが慌てて声を上げた。


「大丈夫。立派な男の子ですよ」


皇后が優しく声をかける。


「クラリス様が意識を取り戻されたので、もうすぐこちらへ連れてこられます。ただし、まだお顔を見るだけです。お乳をあげることはできません」


その低い声に、クラリスの目が大きく見開かれた。


「叔父様!! 夢じゃなかったのね!!」


クラリスの目から、大粒の涙がこぼれた。


「お会いしたかった……ずっと。結婚式の後、どこかへ行ってしまって……私、すごく落ち込んでいたのですよ」


涙が、次々と頬を伝う。


「よく頑張られました。さぞ痛かったでしょう」


フェルネスは、ハンカチを出して、そっとクラリスの涙を拭いてから、手を握った。


「しばらく、ここに居させていただきます。もう勝手に、どこかへ行ったりはいたしません」


「本当に? 本当ですよ?」


クラリスが何度も確かめる。


フェルネスも、そのたびに何度もうなずいた。


「普通、そういうのって、先に夫婦でやりません?」


そばにいたカイレスが、ふくれっ面をしていた。


「あ、済まなかった」


フェルネスはすぐに手を離し、カイレスと場所を替わった。


「よくやった。男の子だ。先ほど見てきたが――普通なら銀髪に紫の瞳になるところが、なぜか薄い金髪に紫の瞳だった。そなたの血も、なかなか強かったらしい」


カイレスが笑う。


「ああ、そういえば、私は赤ん坊をよく見ていなかった!」


フェルネスが勢いよく立ち上がった。


「駄目ですよー。今は陛下と父上が先に面会しています。我々は、その後です」


カイレスが笑った。


「だいたい、私を産室から追い出すなんて!」


今度はカイレスが文句を言う。


「私は助手として呼ばれたのです」


そんな言い合いをしているところへ、国王とリラインド公爵が現れた。


「お久しぶりでございます」


フェルネスは、その場に跪いた。


「本当に久しぶりだ。息災そうで何よりだ」


国王が苦笑する。


「まったく、何の連絡もよこさないとは、ひどいではないか」


公爵も笑った。


「まあ、アルフレッドから、いろいろ聞いてはいたが」


公爵が、にやりと笑う。


「アルフレッドに言われた場所へ移動するだけでも、大変だったのでございます」


フェルネスの目が遠くなった。


「あれの移動手段は謎だな。いまだに、どうやっているのかわからぬ」


公爵が笑う。


「はい。一緒にいても、まったくわかりませんでした」


フェルネスも首を傾げた。


「一瞬で消え、一瞬で現れるのです。回復魔法と何か関係があるのでしょうか……。仕組みがまったくわかりません」


「そなたがわからぬのなら、我々にもわからぬな」


国王が言った。


やがて、


「さあ、お母様とのご対面ですよ」


赤ん坊が連れてこられた。


カイレスが言っていた通り、薄い金髪に、濃い紫色の瞳をしている。


「かわいいです……。伯母ですよ~。


あんなに小さかったクラリスちゃんが、お母さんになるなんて……」


シャローヌは、おいおいと声を上げて泣き始めた。


「お姉様……」


そんなシャローヌを見て、クラリスまで涙ぐむ。


「お気持ちはわかりますよ……。私も胸がいっぱいです」


皇后も涙を流した。


「普通のお産ではありませんでした。本来なら、母親か赤ん坊か――どちらかを選ばなければならなかったかもしれないところです。


それが、奇跡のように二人とも助かった。


あのお医者様には、感謝しかございません」


皇后が涙ながらに言う。


「あの医師は、レオンハルト様の命を救った方だそうです。


それからシャローヌ様。覚えていらっしゃらないかもしれませんが、妃殿下の目を治されたのも、あの医師ですよ」


カイレスがにこにこと笑った。


「えっ!? せっかくお会いしたのに、お礼を言い損なった!!」


シャローヌが叫ぶ。


皆がどっと笑った。


「い、痛い……」


クラリスも笑ってしまい、すぐに顔をしかめた。


「ごめんなさい! 皆様、クラリスちゃんを笑わせたら駄目ですから!」


シャローヌが慌てて叫ぶ。


「というわけで、私どもは一旦帰ります。またすぐに参ります。


陛下とレオンハルトに報告しなくては……。


きっと首を長くしすぎて、もう天井に届いている頃でしょう」


皇后が大真面目な顔で言った。


「や、やめてください、お母様……」


クラリスには、笑うのもつらい。


「それでは失礼いたします。クラリス、ゆっくり休むのですよ」


そう言って、皇后とシャローヌは帰っていった。


しばらくして、フェルネスがふと思い出したように顔を歪めた。


「ところで、『あの娘』……下働きなどできるのか?」


カイレスが片手を振った。


「他に適当な場所がありませんでした。


あれは、ちょっとというか、かなり感覚が『普通』からずれています。言動を見ればわかるでしょう?」


「ああいう人間もいるのだ」


フェルネスが静かに言う。


「価値観というか、感覚そのものがずれている。


今回の放浪で、それを嫌というほど思い知った」


そして、部屋の中をゆっくり見回した。


「私の居場所は、やはりここしかないのだと思い知りました。


もう、旅立つことはありません。


クラリス様が落ち着かれたら、一度、母国の兄上のところへ帰ろうと思います」


フェルネスが笑う。


「今さら戻ったところで、もう私の出番などないのかもしれませんが」


「いやいや、それはない!」


公爵がすぐに否定した。


「そなたが帰ってきてくれて、我々は大喜びだ。


しかも医術まで身につけてきた。そのうえ、大陸各地を見て見聞まで広げたのだろう?


それは、とてつもない武器だぞ」


「ありがたきお言葉」


フェルネスは、さらに深く頭を下げた。


その会話を聞きながら――。


クラリスは安心したように、再び眠りについていた。


エリザベスが酷いのは、男装しているからではない。人間性が酷いからです

シャローヌの

「皆さま、クラリスちゃんを笑わせたらダメですから!」

あなたが一番笑わせています(笑)。


チャッピーの感想でした

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