シャローヌの実験
え?シャローヌ、それする?という場面から始まります
「帰ってきてくださって、ありがとうございま~~す!」
いきなり、シャローヌがフェルネスに抱きついた。
「えっ? え? え?」
フェルネスが固まる。
さらにシャローヌは、フェルネスの頬に口づけをし、そのまま頬ずりまでした。
「一度、フェルネス様を抱きしめてみたかったのです。なぜかフェルネス様を見ると、母性本能が激しく刺激されるのですよ」
ようやく離れると、シャローヌは満足そうに笑った。
「あ、本当に冷や汗もかいていないし、顔色も変わっていませんね」
皇后が冷静に言う。
「なんだか、懐かしい気がしました。昔、姉上に抱きしめられた時のような……」
フェルネスは驚きながらも、遠い目になった。
「きっと身長のせいですよ。亡くなられた姉上様も、私くらい背が高かったのでしょう?」
シャローヌが笑う。
「はい……確かに」
フェルネスがうなずいた。
その時、クラリスのまぶたがわずかに動いた。
皆が一斉に顔を覗き込む。
ゆっくりと、クラリスが目を開いた。
「あ、赤ちゃんは?」
慌てて起き上がろうとする。
「動いちゃ駄目! 一日は安静よ、クラリスちゃん!」
シャローヌが慌てて声を上げた。
「大丈夫。立派な男の子ですよ」
皇后が優しく声をかける。
「クラリス様が意識を取り戻されたので、もうすぐこちらへ連れてこられます。ただし、まだお顔を見るだけです。お乳をあげることはできません」
その低い声に、クラリスの目が大きく見開かれた。
「叔父様!! 夢じゃなかったのね!!」
クラリスの目から、大粒の涙がこぼれた。
「お会いしたかった……ずっと。結婚式の後、どこかへ行ってしまって……私、すごく落ち込んでいたのですよ」
涙が、次々と頬を伝う。
「よく頑張られました。さぞ痛かったでしょう」
フェルネスは、ハンカチを出して、そっとクラリスの涙を拭いてから、手を握った。
「しばらく、ここに居させていただきます。もう勝手に、どこかへ行ったりはいたしません」
「本当に? 本当ですよ?」
クラリスが何度も確かめる。
フェルネスも、そのたびに何度もうなずいた。
「普通、そういうのって、先に夫婦でやりません?」
そばにいたカイレスが、ふくれっ面をしていた。
「あ、済まなかった」
フェルネスはすぐに手を離し、カイレスと場所を替わった。
「よくやった。男の子だ。先ほど見てきたが――普通なら銀髪に紫の瞳になるところが、なぜか薄い金髪に紫の瞳だった。そなたの血も、なかなか強かったらしい」
カイレスが笑う。
「ああ、そういえば、私は赤ん坊をよく見ていなかった!」
フェルネスが勢いよく立ち上がった。
「駄目ですよー。今は陛下と父上が先に面会しています。我々は、その後です」
カイレスが笑った。
「だいたい、私を産室から追い出すなんて!」
今度はカイレスが文句を言う。
「私は助手として呼ばれたのです」
そんな言い合いをしているところへ、国王とリラインド公爵が現れた。
「お久しぶりでございます」
フェルネスは、その場に跪いた。
「本当に久しぶりだ。息災そうで何よりだ」
国王が苦笑する。
「まったく、何の連絡もよこさないとは、ひどいではないか」
公爵も笑った。
「まあ、アルフレッドから、いろいろ聞いてはいたが」
公爵が、にやりと笑う。
「アルフレッドに言われた場所へ移動するだけでも、大変だったのでございます」
フェルネスの目が遠くなった。
「あれの移動手段は謎だな。いまだに、どうやっているのかわからぬ」
公爵が笑う。
「はい。一緒にいても、まったくわかりませんでした」
フェルネスも首を傾げた。
「一瞬で消え、一瞬で現れるのです。回復魔法と何か関係があるのでしょうか……。仕組みがまったくわかりません」
「そなたがわからぬのなら、我々にもわからぬな」
国王が言った。
やがて、
「さあ、お母様とのご対面ですよ」
赤ん坊が連れてこられた。
カイレスが言っていた通り、薄い金髪に、濃い紫色の瞳をしている。
「かわいいです……。伯母ですよ~。
あんなに小さかったクラリスちゃんが、お母さんになるなんて……」
シャローヌは、おいおいと声を上げて泣き始めた。
「お姉様……」
そんなシャローヌを見て、クラリスまで涙ぐむ。
「お気持ちはわかりますよ……。私も胸がいっぱいです」
皇后も涙を流した。
「普通のお産ではありませんでした。本来なら、母親か赤ん坊か――どちらかを選ばなければならなかったかもしれないところです。
それが、奇跡のように二人とも助かった。
あのお医者様には、感謝しかございません」
皇后が涙ながらに言う。
「あの医師は、レオンハルト様の命を救った方だそうです。
それからシャローヌ様。覚えていらっしゃらないかもしれませんが、妃殿下の目を治されたのも、あの医師ですよ」
カイレスがにこにこと笑った。
「えっ!? せっかくお会いしたのに、お礼を言い損なった!!」
シャローヌが叫ぶ。
皆がどっと笑った。
「い、痛い……」
クラリスも笑ってしまい、すぐに顔をしかめた。
「ごめんなさい! 皆様、クラリスちゃんを笑わせたら駄目ですから!」
シャローヌが慌てて叫ぶ。
「というわけで、私どもは一旦帰ります。またすぐに参ります。
陛下とレオンハルトに報告しなくては……。
きっと首を長くしすぎて、もう天井に届いている頃でしょう」
皇后が大真面目な顔で言った。
「や、やめてください、お母様……」
クラリスには、笑うのもつらい。
「それでは失礼いたします。クラリス、ゆっくり休むのですよ」
そう言って、皇后とシャローヌは帰っていった。
しばらくして、フェルネスがふと思い出したように顔を歪めた。
「ところで、『あの娘』……下働きなどできるのか?」
カイレスが片手を振った。
「他に適当な場所がありませんでした。
あれは、ちょっとというか、かなり感覚が『普通』からずれています。言動を見ればわかるでしょう?」
「ああいう人間もいるのだ」
フェルネスが静かに言う。
「価値観というか、感覚そのものがずれている。
今回の放浪で、それを嫌というほど思い知った」
そして、部屋の中をゆっくり見回した。
「私の居場所は、やはりここしかないのだと思い知りました。
もう、旅立つことはありません。
クラリス様が落ち着かれたら、一度、母国の兄上のところへ帰ろうと思います」
フェルネスが笑う。
「今さら戻ったところで、もう私の出番などないのかもしれませんが」
「いやいや、それはない!」
公爵がすぐに否定した。
「そなたが帰ってきてくれて、我々は大喜びだ。
しかも医術まで身につけてきた。そのうえ、大陸各地を見て見聞まで広げたのだろう?
それは、とてつもない武器だぞ」
「ありがたきお言葉」
フェルネスは、さらに深く頭を下げた。
その会話を聞きながら――。
クラリスは安心したように、再び眠りについていた。
エリザベスが酷いのは、男装しているからではない。人間性が酷いからです
シャローヌの
「皆さま、クラリスちゃんを笑わせたらダメですから!」
あなたが一番笑わせています(笑)。
チャッピーの感想でした




