↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェルネスの受難――皇女さまはあきらめない――孤独な抵抗  作者: 鶴見 日向子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/22

放浪中の努力が成果を出した日

クラリスの妊娠、出産。おめでたい場面のはずなのですが……。


カイレスが離れている間に、クラリスの両手は、カイレスの姑、小姑に取られました。


枕元に立つしかないカイレス。

「叔父様が帰ってきてくださるなんて……」


痛みに耐えながらも、クラリスは嬉しそうな顔をした。


「偶然みたいだけれど、よかったわ」


皇后とシャローヌが、左右からクラリスの手を握っている。


カイレスも、すぐそばに立っていた。


「い、痛い……」


クラリスの呼吸が乱れる。


額から、大粒の汗が流れ落ちた。


カイレスが汗を拭きとる


「妃殿下、耐えてください!」


侍医と助手の女医が、必死に声をかける。


しかし、しばらくすると――。


「逆子だ……」


侍医の顔が曇った。


そして次の瞬間、


「駄目だ! 片足が出ている!」


悲鳴に近い声を上げた。


女医も目を見開き、固まってしまう。


その時だった。


「それはいけないな」


部屋へ入ってきたのは、小柄な、白衣姿の男だった。


「アルフレッド!」


カイレスが叫ぶ。


「後はお任せください。カイレス様は、外でお待ちください。


皇后陛下、皇太子妃殿下。しっかりとクラリス妃殿下の手を握っていてください。


それから、フェルネスを呼んでくれ」


ほどなくして、フェルネスが部屋へ飛び込んできた。


すでに白衣姿になっている。


「殿下、さっさと部屋から出てください。邪魔です。時間との勝負です」


フェルネスがカイレスを部屋の外へ追い出した。


「フェルネス。いつものように、そなたの魔力で妃殿下の体が動かぬよう固定してくれ。


皇后陛下と皇太子妃殿下も、お力添えをお願いいたします。妃殿下は魔力が強い。押し返されぬよう、しっかりお願いします。


時間との勝負です。


母子ともに助けます」


アルフレッドの目が鋭くなる。


フェルネスは無言でうなずいた。


そして、クラリスの口へ布を噛ませて、クラリスの両肩を押えた


「歯を食いしばってください。舌を噛まぬように。


痛みます。お許しください。なるべく早く終わらせます」


そう言うと同時に、アルフレッドは鞄から小さな箱を取り出した。


中から、先端に小さな刃の付いた器具を取り出す。


それを、クラリスの下腹部へ当てた。


クラリスが大きく目を見開いた。


声にならない呻きが漏れる。


だが、魔力で体を固定されているため、身動きは取れない。


アルフレッドの言う通りだった。


フェルネスの魔力を押し返そうとするクラリスの力は、想像以上に強い。


皇后とシャローヌも涙を流しながら、フェルネスへ力を貸した。


その様子を見て、


「すぐに子供を取り出します! それまでご辛抱を!」


アルフレッドが叫んだ。


やがて――。


「出た!」


赤ん坊が取り出された。


もともと付き添っていた侍医が、すぐに受け取る。


「よし。胎盤も外れた。癒着がなくてよかった」


アルフレッドは、今度は傷口を魔力でふさいでいく。


「男の子です! よかった!」


女医が声を上げた。


そして次の瞬間、赤ん坊が大きな声で泣き始めた。


「もう、魔法を解いて大丈夫だ」


フェルネスが固定を解く。


しかし、クラリスはすでに気を失っていた。


「クラリスちゃん?」


シャローヌが慌てて体を揺すろうとする。


「そのまま! 触るな!」


アルフレッドが止めた。


「大丈夫だ。出血もほぼ止めた。


腹を直接切られたのだ。痛くないはずがない。


だが、命には代えられなかった」


そして、クラリスの腹部を確認する。


「傷口は見た目にはつながっているが、丸一日は絶対安静だ。下手に動けば、傷口が開くことがある。


時間が経ったら、痛みが強くても、少しずつ歩かせるようにしてくれ」


「かしこまりました」


侍医が深く頭を下げた。


「私はエリス嬢のところへ行く。何かあれば知らせてくれ。『飛んで』くる」


そう言い残し、アルフレッドは部屋を出て行った。


気を失ったクラリスのそばには、すぐにカイレスが付き添った。


「無事に生まれて……本当によかったです」


皇后とシャローヌは、涙が止まらなかった。


「片足が出たと聞いた時には……もう、心臓が止まるかと思いました」


シャローヌが、その場へ座り込んだ。


「どういうことなのだ?」


カイレスが尋ねる。


「普通に産むことが、ほぼ不可能な状態だったということです」


フェルネスが答えた。


「今回行った処置を『帝王切開』と言います。


母親の腹を切り、中から赤ん坊を取り出します。


それができる医師は、限られております」


「叔父上、詳しいですね」


カイレスが目を丸くした。


「まあな。これでも、ずっと様々な場所を放浪していた。


『押さえつけ役』なら、数え切れぬほどやらされた」


フェルネスが苦笑する。


「旅立ってすぐ、アルフレッドに出会ってね。『ついて来い』と言われ、そのまま、つい最近まで一緒だった。


助手として、散々こき使われたよ。


おかげで、医師の真似事くらいならできるようになった。


回復魔法は、いくら練習しても使えるようにならなかったがな。それだけは残念だ」


その場にいた者たちが、一様に驚いた。


「エリス義姉上に『はめられた』気がする」


フェルネスの目が遠くなった。


「なぜか、私が行く先々にアルフレッドが現れるのだ。そして、そのたびに治療の手伝いをさせられた。


まあ、今回役に立ったのだから、よかったが……。


もしかすると、今日という日のための予行練習だったのかもしれないな」


フェルネスは眠るクラリスの顔を見つめた。


「よく頑張った」


その目にも、涙が浮かんでいる。


「魔力で固定しなければ、患者は痛みで暴れる。それを押さえるのが大変なのだ。


私は魔力が強いから、その役を務められたが……。


患者に暴れられれば、医師の手元が狂う。


当然、成功率も下がる」


フェルネスは小さく息を吐いた。


「アルフレッドは、何とか痛みを抑える薬を作ろうと研究している。


だが、患者が多すぎて、なかなか研究の時間が取れない。


金もかかる。


そのくせアルフレッドは、金持ちからは金を取るが、貧しい者からは取らない。


結果、全然はかどらない」


フェルネスが苦笑した。


「だから、エルドリアへ帰って兄上に相談するつもりだった。アルフレッドによると、エルドリアには、その手の古い書物が豊富に残っているそうだ。


その前に、まだ足を踏み入れたことのない国をいくつか回っていたのだが……」


そこで、フェルネスがはっとした。


「そういえば、あの変な娘はどうなった?


公爵家へ押しつけたまま、置いてきてしまった」


「ああ。城の下働きにした。しばらく働いてもらう」


カイレスが答えた。


「あの娘、おかしいのだよ。


最初は、義母上と同じ特性を持つ女性なのかと思っていた。


だが、どうも違う気がしてならなかった。


気になったので、私はこっそり調べさせた」


カイレスの目が遠くなる。


「『結婚相手が嫌だから、男の格好をして嫌われよう』


それだけだった」


「だが、相手は『六十歳』だと言っていたぞ。嫌がるのも当然なのでは?」


フェルネスが言う。


カイレスは、片手を振った。


「自分から、『金持ちだから、あそこなら嫁に行ってもいい』と親に言ったそうだ。


そして相手を散々その気にさせ、貢がせた。


その挙げ句、挙式直前に逃亡だ」


「……何?」


「途中、保護しようとした城の騎士の首を刃物で切りつけた。


急所は外れ、命に別状はなかったが、一つ間違えれば騎士は死んでいた」


フェルネスは絶句した。


「あの刃物が……」


「昨日だったか。魔獣に襲われて命を落としたらしいと、あちらの国から連絡があった。


それなのに、叔父上がここへ連れてきたと聞いて驚きました」


「余計なことをしてしまった」


フェルネスが頭を下げる。


「いいえ。


叔父上が『女性』を連れて帰ったと聞いて、私はそちらの方に驚きました」


カイレスが小声で言った。


フェルネスは苦笑した。


「そなたたちの結婚式の直後、義姉上が私を急いで旅立たせた目的は、どうやら私の『治療』だったらしい」


「治療?」


「アルフレッドの患者には、男も女もない。年齢も様々だ。


手伝っているうちに、自然とどうでもよくなった」


「では、克服したのですね」


シャローヌの顔が明るくなる。


「まあ、そうらしいです」


フェルネスが答えた。


「あの……克服されたのであれば、お願いが……」


シャローヌがおずおずとフェルネスへ声をかける。


「何でしょう、妃殿下。私にできることでしたら……」


フェルネスが首を傾げた。


そして、とうとう枕元まで奪われたカイレス。


夫なのに……。


カイレスが部屋から追い出された理由は、終盤にちょっとだけ出てきます。


ちなみにカイレスが「義母上」と呼ぶのはエリアスの事です

表向きは、「実父」なので、エリアスが女性として生きる事になった時に「義母上」と呼ぶようになりました

詳細は番外編 「ep.21 父と息子」をお読みください


その際に、エリアスは死んだ事になって、「エリス」と名前を変えます。

エリス嬢=エリアスです。まぎらわしくてすみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。