無礼な連れ
フェルネス、なんで公爵家へ連れていくの?です
「カイレスと知り合いなら、ちょうどよい。たまたま会って連れてきた、ということにできる」
フェルネスが言うと、エリザベスはしょんぼりとした。
「僕、学校にいた時、カイレス君をすごく怒らせてしまったんだ。それで、学校も退学になったんだ。今さら会わせる顔がない」
「今言われても困る。それに、カイレスは気にしていないと思うが。今は結婚して、幸せに暮らしている」
「結婚したんですか?」
エリザベスの顔が驚きに満ちた。
「大陸中を知らせが駆け巡ったと思っていたが……。アストリア王太子殿下と、グランディル帝国皇女殿下のご成婚。聞いていなかったのか?」
「え? 王太子? 皇女様?? どういうことです??」
あの学校は、問題のある生徒たちが集まっていた学校だった。
そこへ、ある日カイレスが現れ、あっという間に学校は規律正しい場所へと変わった。
そして自分は、カイレスから厳しい言葉をぶつけられ、退学させられたのだった。
「僕が悪かったのは、わかっています……。今さら会わせる顔なんてないです」
エリザベスがしょんぼりとする。
フェルネスは、何もいわなかった。
そうして二人は城を越え、まず城の近くにある公爵邸へ降り立った。
「突然すみません。お願いがあって参りました」
フェルネスが門番に告げると、
「フェルネス様! お久しぶりでございます!! どうぞ中へ!」
門番が嬉しそうに声を上げた。
「こちらの方は?」
一緒にいるエリザベスへ、門番が目を向ける。
「少々いろいろあって、連れてきた。一緒に入れてほしい」
「かしこまりました!」
そう言うと、門番の一人が屋敷の玄関へ向かって走っていった。
「以前は、この門はなかったのだがな」
フェルネスが懐かしそうに笑う。
ほどなくして、執事と――そしてエリアスが駆けてきた。
「もう! いきなり帰ってくるなんて! びっくりしたけれど、嬉しいわ。それに、このお嬢さんは何? あなたが女性を連れて帰ってくるなんて、さらにびっくりよ」
エリアスはフェルネスの頬を両手で挟んだ。
「あらあ、髪が伸びちゃったのね。侍従に散髪の支度をさせるから、待っていて」
そう言って、侍女たちにいろいろと言いつける。
エリザベスの目が丸くなった。
「『女性らしさ』なら、あの方から教わるのが一番よい」
フェルネスが笑う。
「そなたは、男が嫌だから男の格好をしていたのであろう? ここには女性に不届きなことをするような輩はいない。安心しなさい。
女性に戻るとよい。それと、男性が苦手なことを正直に話して、男性との接触が少ない部署に置いてもらえばよい」
フェルネスが言った。
「まあまあ。フェルネス様が若いお嬢さんを連れて帰ってくるとは……。一体、どういう風の吹き回しでしょう? よく来てくださいましたね」
夫人が現れ、エリザベスの手を取った。
「詳しいお話は中で。フェルネス様は散髪が終わったら、大至急お城へ向かってくださいませ。クラリス殿下のお産が始まりそうなのです。
愛する叔父様に帰ってきていただけるなんて、なんと運がよいのでしょう」
夫人が涙ぐむ。
「グランディル帝国からも、皇后陛下、王太子妃殿下がお見えになります。産室へ入れるのは夫であるカイレス様だけですが」
夫人は、ふふ、と笑った。
「何? クラリス殿下が身ごもった? お産が始まる?」
フェルネスの目が大きく見開かれた。
「ほら、さっさと髪を切って、身なりを整えなさい」
エリアスがフェルネスの背中を押す。
「わかりました。すみませんが、私が戻るまで、その娘をお願いいたします。話を聞いてやって、あとはお任せします。本当に申し訳ありません」
フェルネスはそれだけ言うと、すぐに散髪へ向かった。
エリザベスにかけていた魔法はすでに解け、元の男装姿へ戻っていた。
「あら。男の子の格好をしていたのね。何か事情がありそうね」
エリアスが優しく声をかける。
低い声。
広い肩幅。
高い背丈。
そして、きれいに剃ってはいるものの、髭が生えることは見ればわかる。
「この国では、男性が女装するのが普通なの? 変なの。フェルネスの方が女らしいや」
エリザベスは「あはは」と笑いながら、エリアスを指さした。
「標準語を話せるということは、貴族の娘のようね」
その言葉を聞いた瞬間、エリアスの目が冷たくなった。
「あなたと似た事情なのかと思ったけれど……違うみたいね」
夫人がエリアスへ声をかける。
その目も、どこか冷たい。
「まあ、フェルネス様が連れてきたのですから、面倒は見ますけれど……」
執事も侍女たちも、最初は温かくエリザベスを迎えていたのに、急に態度が変わった。
そこへ、身なりを整えたフェルネスが戻ってきた。
「申し訳ありません。この娘、かなり礼儀を欠いております。成り行きで拾ってしまいました。とりあえず、いろいろ教育してやってください。
駄目なら・・・考えている事があります」
フェルネスが言った。
正装姿のフェルネスに、エリザベスは目を見張った。
「フェルネスって、貴族だったの??」
「そういうところだ。そなた、本当に賢くないな。標準語で会話をしていて、その程度のことにも気づけないようでは、この家の侍女は務まらぬな」
フェルネスは呆れた目を向けた。
「もういいから、あとは任せて。早く行って。クラリス様を励ましてちょうだい」
エリアスがフェルネスへ声をかける。
「ご面倒をおかけして申し訳ありません、義姉上。では、行って参ります」
そう言って、フェルネスは玄関から飛び出していった。
「義姉上なのね」
夫人が笑った。
「言葉まで丁寧になってしまって……」
ほほ、と楽しそうに笑う。
「ふふ。もともと、かわいい弟ですからね。フェルネスは」
エリアスも笑った。
「嬉しゅうございますなあ……。フェルネス様が、こちらへ真っ先に帰ってきてくださった」
執事の目が潤んでいる。
エリザベスは、ぽかんとしていた。
「まずは、ご挨拶でしょう?」
その様子を見たエリアスが、呆れたように言った。
「ここは公爵家です。あなたの家の爵位は?」
「えっと……伯爵です。貧乏です」
エリアスの眉が上がった。
「駄目ですね。どのような事情がおありなのかは存じませんが、標準語が話せるというだけで、貴族としての教養をほとんど身につけておられないようです」
侍女の一人が言う。
「下働きから、やり直していただきましょうか?」
執事が言った。
しかし、
「おやめくださいませ。私どもは、このような無礼な娘とは仕事をしたくございません」
その場にいた、下働きの責任者がきっぱりと言った。
「連れてきたフェルネス様に責任を取っていただくしかありませんね。
あなた。一応、フェルネス様がお戻りになるまでは面倒を見ますが、それ以上のことは期待しないでちょうだい」
エリアスが言う。
「誰か、この娘を適当な部屋へ入れてちょうだい。その部屋から出さないで。監視もつけなさい」
「まったく……フェルネス様、一体どうしてしまったのかしら。こんなのを拾ってくるなんて……」
侍女がぶつぶつと文句を言った。
あまりの言われように、エリザベスはむっとした。
その侍女が、厳しい声でエリザベスへ話しかける。
「まずは、ご挨拶でしょう?
伯爵家の令嬢であるなら、公爵家の方が格上なのですから、自ら先に名乗り、頭を下げる。それは貴族云々以前に、一般的な礼儀です。
それをせず、エリアス様のお姿を見て、思ったことを真っ先に口にしましたね。
ご自分も男装をしているというのに。
ありえません。失礼にもほどがあります」
「まあ、もうよいでしょう」
夫人が止めた。
「フェルネス様もおっしゃっていたでしょう? 『賢くない』『教育してやってくれ』と」
夫人の目が遠くなる。
「ごめんなさい」
棒読みだった。
「ごめんなさいは言えるのですね。ほんの少しだけ、見込みがあるかもしれません。
ですが、ここは王族に連なる公爵家です。侍女にも品格が求められます。
あなたには、それが著しく欠けています」
「品格……」
その言葉を聞いて、エリザベスはかっとなった。
「だから、『女』は嫌なんだ! 礼儀作法だの、品格だの! 男はそんなもの、求められないじゃないか!!」
「だから、男になりたかったのか?」
突然、背後から若い男の声が響いた。
そこに現れたのは――カイレスだった。
エリザベス以外の全員が、一斉にその場へ膝をついた。
彼女は単純に「男になりたい」のではなく、
自分が嫌だと思うものを、全部「女だから要求されるもの」として処理している。
礼儀作法も、勉強も、結婚も、品格も。
そして、
「男なら自由なのに」
と思っている。
でも、たぶんカイレスはそこを容赦なくぶち壊すのでしょう(笑)。
なぜならカイレスなんて、王太子として、女性以上に礼儀も品格も教養も責任も要求されている男
以上チャッピーの感想でした。




