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フェルネスの受難――皇女さまはあきらめない――孤独な抵抗  作者: 鶴見 日向子


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正確な知識と権力の正しい使い方

なんと!アルフレッドがエリアスのところに頻繁に現れる理由が判明しました

「そう。アルフレッドが、そんなことを言っていたそうよ。エルザ」


公爵邸で、エリアスが一人の侍女へ声をかけた。


エリアスより、少し年下くらいだろうか。


ずいぶん昔から、公爵家に仕えている女性である。


「まあまあ。フェルネス様に、あの人がそのようなお話を?」


『エルザ』と呼ばれた侍女は、


「おほほ」


と楽しそうに笑った。


「これで、どうして『管轄外』のはずの私を、アルフレッド様が定期的に診にいらっしゃるのか、わかったでしょう?」


エリアスが、ふふ、と笑う。


「エルザの顔を見たい一心なのよ。


自分からは決して話しかけようとしないくせに、エルザの方から声をかけてもらえる日を、ずっと待っているの」


「えっ?」


その場にいたフェルネスが、目を見開いた。


エルザは困ったように笑った。


「私は、もう完全に別れたつもりなのですけれどね」


「……は?」


フェルネスの顔が固まる。


「あの人が医師という仕事を選んだように、私は公爵家でエリアス様に一生お仕えする道を選びました。


ですから、お互い様です」


エルザは穏やかに言った。


「機会がございましたら、そう伝えておいてくださいませ」


「似た者夫婦だったのねえ」


エリアスが、ころころと笑った。


フェルネスは頭を抱えたくなった。


(アルフレッド……「別居中」と言っていたではないか)


そんなフェルネスを見て、エリアスが微笑む。


「フェルネス。


あなたは十分、人を思いやることのできる人よ」


「そうでしょうか?」


「あの『エリザベス』という娘は、とんでもない『大外れ』だったけれど」


「……否定できません」


「それでも、あの娘をここへ連れてきたのは、私のことも考えたからでしょう?」


エリアスの瞳は優しかった。


「私と同じような人なら、ここで安心して暮らせるのではないか。


少しでも、そう思ったのではなくて?」


フェルネスは頭をかいた。


「ええ。それは考えました。


途中で、『しくじった』と思いましたが」


「わかっているから、いいのよ」


エリアスは笑った。


そして突然、ぱん、と手を叩く。


「では今日は、特別に――」


フェルネスを見る。


「『女性側から見た話』を、皆でしてみましょうか」


「……はい?」


「私も知りたいの」


エリアスは楽しそうに周囲の侍女たちへ声をかけた。


「皆も参加してくれる?」


「もちろんです」


「面白そうですわ」


侍女たちが集まり始める。


フェルネスの目が大きくなった。


「えっ? えっ?」


その時、部屋の扉がノックされた。


「入っていいわよ」


エリアスが答える。


扉が開き――。


「私も参加させていただきます」


カイレスが現れた。


顔は大真面目である。


フェルネスの目が、さらに大きくなった。


「なぜ、そなたまで?」


「勉強です」


即答だった。


こうして部屋には盗聴防止の魔法が張られ、女性たちによる『お話大会』が始まった。


夫に言ってほしかったこと。


言われて傷ついたこと。


贈り物について。


家事について。


妊娠や出産について。


そして、夫婦の間でしか語れないようなことまで――。


様々な意見が飛び交った。


エリアスは、それらを丁寧に書き留めていく。


「なるほどねえ……」


時には女性たちへ尋ね、時にはフェルネスやカイレスへ男性側の考えを聞いた。


「こういうことは、私だからこそできるのかもしれないわ」


エリアスが笑った。


「男性側の考えも、女性側の考えも、どちらも聞ける。


片方だけで決めつけずに、両方を比べればいいのよ」


その後。


この時の記録をもとに、アルフレッドを監修者として、


『男性と女性――考え方の違いと夫婦の話し合い』


『医師が教える、妊娠を望まない時の正しい知識』


などの書物が作られた。


内容の珍しさもあり、大いに売れたという。


「私も、いつまでもお父様とお母様に頼っているだけでは駄目だからね」


エリアスは出来上がった本を手に、満足そうに笑った。


「自分で食べていける力を持たなければ。


せっかくなら、自分だからこそわかることを武器にするのよ」


その姿を見て、フェルネスは素直に感心した。


「さすが義姉上」


◇


『お話大会』が終わった後。


カイレスは、参加した女性たちへ深々と頭を下げた。


「非常に参考になりました。


皆の者、礼を申します」


誰よりも真剣だった。


そして帰り道。


「叔父上」


「なんだ?」


「女性というものは、私が思っていた以上に複雑なのですね」


フェルネスが少し笑った。


「それは男性も同じではないか?」


「それはそうですが」


カイレスは真面目な顔を崩さない。


「女性は、子を宿し、産むことができる。


その一方で、体格や腕力では男性より不利な者が多い。


それでも、子供を守るためなら、自分の命まで差し出そうとする方もいる」


クラリスのことを思い出したのだろう。


表情が少し曇った。


「だからこそ、男性が勝手な思い込みだけで女性へ接してはいけないのだと思います」


フェルネスは静かにうなずく。


「そして女性自身も、嫌なことは嫌だと声を上げられるようにしなければ」


「そうだな」


「男には、子供を産むことはできません」


カイレスは続けた。


「だからこそ、妊娠や出産を担う女性を軽んじるような社会ではいけないと思うのです」


フェルネスは感心しながら聞いていたが、ふと思った。


「しかし、そなたはもう子供もいるではないか」


思わず口にする。


カイレスは、勢いよく振り返った。


「それなんです!!」


「な、なんだ?」


「一人子供ができたくらいで、何がわかるというのです!」


「……」


「お産は命がけなのですよ!」


カイレスが力説する。


「叔父上だって、目の前でご覧になったのでしょう?


私を差し置いて!」


「差し置いたわけでは……」


「私は見ていないのです!」


「それは、そなたが邪魔になるから追い出されたのであろう」


「わかっています!」


カイレスは少し悔しそうだった。


フェルネスは、あの日を思い出す。


「確かに……アルフレッドが来てくれなければ、クラリスも子供も助かったかどうかわからなかった」


目が遠くなった。


「私は医療現場に慣れすぎていたのだろうな。


あの時も、アルフレッドなら大丈夫だと信じ切っていて……状況の重さを、深く考えていなかった」


「でしょう?」


カイレスが大きくうなずく。


「男性は、女性に対してもっと思いやりを持つべきです」


少し考え、言い直した。


「いや――男性だけではないですね。


誰であっても、自分より弱い立場に置かれやすい者を、勝手な思い込みで軽んじてはいけない」


フェルネスが目を細める。


「その方がよい言い方だな」


「はい」


カイレスは真剣にうなずいた。


この経験をきっかけに、カイレスは王太子として、これまで当然とされてきた制度や慣習を見直すようになった。


女性だから。


生まれた髪の色が違うから。


瞳の色が珍しいから。


ただ、それだけの理由で不利益を受ける者はいないか。


臣下たちや有識者とも長く議論を重ね――。


やがてアストリア王国では、性別を理由とした不当な扱いを禁じる法が整備された。


さらに、


女性にも王位継承を認めること。


髪や瞳の色を理由とした差別的な扱いを禁じること。


そうした改革も、少しずつ進められていった。


その話を聞いたフェルネスは、感心したように言った。


「なるほど……」


そして、少し笑う。


「権力というものは、こういうことに使えばよいのだな」


例によってチャッピー談

フェルネスの恋愛相談から、社会制度改革にまで話が飛んだ(笑)。

本人はただ「若い婚約者とどう付き合えばいい?」と悩んでいただけなのに、とんでもないところまで波及しています。


そうなんですよねー。

そして、エリアスまで覚醒しちゃいました(笑)


次で最終話です

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