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フェルネスの受難――皇女さまはあきらめない――孤独な抵抗  作者: 鶴見 日向子


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22/22

最終話です

最終話になりました

クラウディオとロザリアの、十五歳の誕生日がやってきた。


「あと一年ですわ」


ロザリアが、フェルネスへ小声で囁く。


「そうだな」


フェルネスは少し笑った。


「私も、ようやく覚悟を決めた」


そして――。


誕生日を祝う宴の真っただ中。


フェルネスは突然、ロザリアの前へ跪いた。


周囲が静まり返る。


「ロザリア殿下」


フェルネスは、真っすぐ彼女を見上げた。


「どうか、私の妻になっていただきたい」


ロザリアの目が大きく見開かれる。


「こんな年上の男でよければ――私と結婚してください」


そう言って、小さな箱を取り出した。


「ある国では、婚約の証として指輪を贈る習慣があるそうです」


箱を開く。


「お好みに合うかはわかりません。


ですが、殿下に似合うものをと思い、私なりに心を込めて選びました」


箱の中には、美しい指輪が収められていた。


中央には、フェルネスの瞳とよく似た色の宝石が輝いている。


「私の魔力も込めてあります」


フェルネスは、再び頭を下げた。


「身につけていただければ、嬉しく思います」


ロザリアは、しばらく言葉を失っていた。


やがて震える手で箱を受け取る。


そして、中の指輪を左手の薬指へとはめた。


その意味は、クラリスから聞いて知っていた。


「……ぴったりです」


ロザリアの顔が、喜びで輝く。


「ありがとうございます」


そして、フェルネスへ手を差し出した。


「私の方こそ、まだまだ未熟です。


それでも妻として迎えていただけるのでしたら、これほど幸せなことはありません」


その瞬間。


周囲から大きな歓声が上がった。


「いいぞ、フェルネス!」


宴へ出席していたエルドリア国王レオニスの声が響く。


「ああ、素敵……」


「私も、あんなプロポーズをされてみたいですわ」


夫人たちもうっとりしている。


大成功だった。


立ち上がったフェルネスは、小さく息を吐いた。


「……断られたらどうしようかと、かなり緊張した」


ロザリアが目を丸くする。


「お断りするわけがないではありませんか!」


そして、今度は自分が胸を押さえた。


「私の方こそ、急に跪かれたので、


『婚約はなかったことに』


と言われるのではないかと、ひやひやいたしました」


二人は顔を見合わせ――。


笑い合った。


◇


それから一年。


フェルネスとロザリアは、無事に結婚式の日を迎えた。


結婚の誓いの儀式では、城全体が虹色に輝いた。


その頃には、婚約や結婚の証として指輪を贈る習慣が大陸中で大流行していた。


当然、指輪の産地であるエルドリアでは――。


「また指輪か!」


「大きさを合わせるのが大変なんだぞ!」


「首飾りなら、こんなに苦労しなくて済むのに!」


職人たちが、ぶつぶつ文句を言いながら働いていた。


もっとも。


そんなことは、流行のきっかけとなった本人たちの知るところではなかった。


◇


「えっ?」


クラウディオが目を見開いた。


「女帝は――なし?」


「ええ」


ロザリアは、にこりと笑った。


「私には荷が重すぎますわ」


「ちょっと待て!」


「一度は、フェルネス様と結婚するために覚悟を決めました。


でも、フェルネス様ご自身は皇配になることを望んでいらっしゃいません」


クラウディオの顔が引き攣る。


嫌な予感しかしない。


「ですから」


ロザリアが満面の笑みを浮かべた。


「将来の皇太子という立場は、クラウディオお兄様へお返しいたします」


「ええええええ!?」


クラウディオの叫び声が響いた。


「話が違う!!」


ようやく肩の荷が下りたと思っていたのに。


「立太子はまだ先です」


ロザリアは涼しい顔をしている。


「お祖父様は、まだお若くてお元気ですもの。


それに、もともと内々のお話でしたから、何も問題ありません」


「いや、私にはある!」


「そもそも長男がいるのに、妹の私が皇太子になる方が不自然でしょう?」


「それはそうだが!」


「クラウディオお兄様なら大丈夫です」


ロザリアは、きっぱりと言った。


「一時期はいろいろ心配でしたけれど、今はきちんと努力されています。


魔力も私より強いですし、背もずいぶんと伸びましたわ」


そして笑う。


「私たち夫婦も、しっかり支えますから」


レオンハルトとシャローヌも、大きくうなずいた。


「そうよねえ」


シャローヌが言う。


「普通は『長子』よね。


先に生まれてきちゃったんだから、仕方ないわよ」


「母上まで!?」


その時だった。


「では、『義兄上』」


背後から声がした。


クラウディオの肩が跳ねる。


フェルネスである。


「剣の稽古をいたしましょう」


「今からですか!?」


「魔力も体格も安定いたしました。これからは、遠慮なく鍛えられます」


フェルネスは、にこやかにクラウディオの襟首をつかんだ。


「さあ」


「なんでだああああ!!」


クラウディオの叫び声が遠ざかっていく。


残された者たちは、くすくすと笑うのだった。


◇


やがて、クラウディオにも婚約者が決まった。


相手は、エリザベスの故国の王太子夫妻に生まれた娘である。


年の差は十六歳。


「うちの息子に欲しかったのだがなあ……」


カイレスが遠い目をした。


「仕方ありませんわ」


クラリスが溜息をつく。


「うちの子は魔力が強すぎます。


もう、フェルネス叔父様の女性版のような方はいらっしゃらないでしょう?」


「いや」


カイレスは真面目に考える。


「これから生まれてくる可能性はある」


「そこまで待ちます?」


「こればかりは縁だ」


カイレスが笑った。


「あのフェルネス叔父上が、ロザリア様を妻として受け入れたのだぞ?


人生、何が起こるかわからない」


「そうですね」


クラリスも笑う。


「叔父様は、大陸中の中年男性の希望の星になっているそうですよ」


四十歳で、十六歳の花嫁を迎えた英雄フェルネス。


その話は、あっという間に大陸中へ広まった。


そして――。


「俺にも、若い娘との縁があるかもしれん!」


と期待する中年男性も続出した。


だが。


「フェルネス様だからでしょう!」


「自分も同じだと思っているの?」


若い女性たちから、ことごとく袖にされる。


大半の中年男性は、改めて現実と向き合うことになったのである。


◇


さらに月日は流れ――。


フェルネスとロザリアの間には、第一子となる女の子が生まれた。


知らせを聞いて、誰よりも早く現れたのはカイレスだった。


「叔父上」


「断る」


「まだ何も言っていないでしょう!」


「そなたの顔を見ればわかる」


カイレスが笑う。


「では、改めて。


我が息子との婚約を――」


「断る」


フェルネスは即答した。


「娘が大きくなって、自分で決めればよい」


「では、本人が『いい』と言ったら?」


「…………」


フェルネスは黙り込む。


「その時に考える」


カイレスの顔が明るくなった。


「では、予約だけ――」


「予約するな!」


二人のやり取りを、ロザリアは楽しそうに眺めていた。


「さて、どうなることでしょうね」


◇


フェルネスは、甲斐甲斐しく娘の世話をしていた。


「ずいぶん手慣れていらっしゃいますね」


ロザリアが感心する。


「生まれたばかりのカイレス殿下とクラリス殿下の世話をさせていただいたからな」


フェルネスが懐かしそうに笑った。


「まさか、自分の娘と、あの二人の息子との婚姻話が出るとは……。


何とも不思議な気分だ」


腕の中で眠る娘を見つめる。


黒い髪。


深い緑色の瞳。


「皇族の血は濃いのだな」


フェルネスが笑う。


「私の色は、ほとんど出なかった」


「でも、お顔立ちはフェルネス様によく似ていますよ」


ロザリアが覗き込む。


「きっと、クラリス叔母様のようになりますわ」


「それは……」


フェルネスが顎へ手を当てた。


「夫婦で似た顔になったら、少々困るな」


ロザリアが吹き出す。


「亡きロザーリア様が、たくさん増えてしまうかもしれませんね」


「それもすごい話だな」


二人で笑う。


フェルネスは娘の小さな手を見る。


「背丈は、普通くらいになってほしい」


「まあ」


「できれば……もう少し女性らしい体形に」


ロザリアが笑いをこらえる。


「私は細身すぎて、散々女性に間違えられた。


姉上は姉上で、男性に間違えられることが多かった」


フェルネスの目が遠くなる。


「そこだけは、似てほしくない」


「あら」


ロザリアが笑った。


「そこが素敵なのに」


フェルネスが目を瞬く。


「そうか?」


「ええ」


「そなたがよいと言うなら……まあ、いいか」


フェルネスは、ほっとしたように笑った。


そして、しばらくロザリアを見つめる。


「でも――」


「はい?」


「顔は、私よりそなたに似てほしい」


ロザリアの目が少し大きくなる。


「向こうは母親似でよい。


『娘は父親に似る』という話も聞くが……」


フェルネスは、愛おしそうにロザリアを見つめた。


「私は、そなたに似てほしい」


「フェルネス様……」


そして、静かに言った。


「私を夫にしてくれて、ありがとう」


ロザリアの瞳が潤む。


「父親になることができたのも、そなたのおかげだ」


ロザリアは首を振った。


「いいえ」


そして笑った。


「私の方こそ、幼い頃からの夢が叶いました」


フェルネスの隣へ寄り添う。


「私を受け入れてくださって、ありがとうございます」


二人の間には、いつしか年齢差などでは測ることのできない、深い信頼と愛情が育っていた。


そして帝国には、新たな家族が増えた。


時代は移り変わりながらも、人々の営みは続いていく。


◇


ある日。


フェルネスは、一人で空を見上げた。


青い空を、雲がゆっくりと流れている。


「……お二人のおかげです」


静かに呟く。


「ありがとうございます」


その時。


暖かな風が吹き、フェルネスの頬を優しく撫でた。


まるで、誰かが触れているようだった。


フェルネスは目を細める。


「私は、幸せです」


そして、空へ向かって微笑んだ。


「妻と子供を、これからも守っていきます」


少しだけ声を震わせる。


「どうか――見守っていてください」


再び、暖かな風が吹いた。


フェルネスはしばらく空を見上げていた。


そして、家族の待つ場所へと戻っていった。


完


「フェルネスを幸せにし隊」任務完了いたしました。満足であります!(敬礼)


最後までお読みいただきまして、ありがとうございました

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