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フェルネスの受難――皇女さまはあきらめない――孤独な抵抗  作者: 鶴見 日向子


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19/22

「宿題」に取り組む皇女

ロザリア、真剣です

「フェルネス様に、『宿題』を出されました」


ロザリアが、シャローヌへ言った。


「『年相応に振る舞いなさい』ですって」


「あの方は、未成年の方を見ると、どうしても『年相応であるか』を気になさってしまうのでしょうね」


シャローヌが少し考えるように言った。


「フェルネス様ご自身は、お姉様以外に甘えられる方がほとんどいなくて……あなたくらいの年齢には、もう大人の騎士と同じように働いていらしたそうですから」


「でも私は、両陛下にも両親にも愛されて、『普通』に育っていると思うのですが?」


ロザリアが首を傾げる。


「そうね」


シャローヌは微笑んだ。


「だからこそ、フェルネス様には余計に心配なのかもしれないわ。


自分の子供ほど年の離れた女性を妻にすることに、まだ強い抵抗がおありなのでしょう」


そして少し迷ってから、続けた。


「あなたには、まだ早いと思って話していなかったことがあるの」


「何ですか?」


「フェルネス様には、かつて『妻』がいらしたそうよ」


ロザリアの目が大きく見開かれた。


「え? フェルネス様って、『女性恐怖症』だったのでは?」


「それより、ずっと前の話よ」


シャローヌの目が遠くなる。


「フェルネス様が十歳だった頃」


「十歳!?」


「今のあなたより、ずっと幼いわ」


ロザリアは絶句した。


「十歳で結婚なさったのですか? お相手は?」


シャローヌは静かに言った。


「四歳年上の女性だったそうよ」


そして、少し言葉を選ぶ。


「その女性は、かなり年上の男性からひどい目に遭わされ、子供を身ごもってしまったそうなの」


ロザリアの表情が変わった。


「フェルネス様とは、何の関係もなかったのです。


それでもフェルネス様は、『自分の子として育てる』と言って、その方のそばに寄り添い続けたそうよ」


「十歳の少年が……?」


ロザリアは信じられないように呟いた。


「無関係の女性の『夫』になったのですか?」


「ええ」


シャローヌは静かにうなずいた。


「だから、もしかすると――」


少し考えながら言葉を続ける。


「フェルネス様は、今のあなたに、かつての自分を重ねているのかもしれない」


「私に?」


「自分の気持ちよりも、周囲の事情や責任を優先しているのではないか。


本当は別の人生を選びたいのに、『自分がそうするべきだから』と無理をしているのではないか。


そう心配なさっているのかもしれないわ」


ロザリアは黙って聞いていた。


「フェルネス様ご自身が、そういう生き方をする方だから」


シャローヌは苦笑した。


「相手まで同じように考えているのではないかと、疑ってしまっても不思議ではないでしょう?」


「……なるほど」


「あなたの年齢で、フェルネス様のような特殊な過去をすべて理解しろというのは、難しいと思うわ」


シャローヌはロザリアの手を取った。


「でも、それを補える『何か』を、あなた自身で見つけるしかない」


そして、ふっと笑う。


「それにしても、フェルネス様も頑固よねえ」


「頑固?」


「こんなに若くて、きれいな娘に思われているのに、なかなか応えようとなさらないんですもの」


シャローヌが肩をすくめる。


「普通の男性なら、喜んで話に乗るでしょうに」


「そういうものなのですか?」


「男性って、だいたい若い女性が好きなのよ」


シャローヌは、あっさりと言った。


「それに私は、自分より背が高いとか、魔力が強いとか――そんな理由だけで女性を敬遠する男性を、嫌というほど見てきたわ」


(……あ、お母様ご本人のことだ)


ロザリアは思ったが、口には出さなかった。


シャローヌは、少し懐かしそうに笑った。


「本当のことを話すわね。


私は、魔力だけを理由に、あなたのお父様の妻として選ばれたの」


「魔力だけ?」


「ええ。


貴族でもなかった。


私の方が年上だった。


目も悪かった。


背も高すぎた」


シャローヌは自分自身を指さした。


「それでも、『何の問題もない』って」


その灰色の瞳が、優しく細められる。


「皇帝陛下をはじめ、皆様はとても温かく迎えてくださったわ」


ロザリアは黙って母の顔を見つめる。


「何が幸いするかなんて、わからないものよ。


私は『行き遅れ』と言われる年齢まで独身だった。


でも、だからこそ今、ここにいる。


あなたを産むこともできた」


シャローヌは、ロザリアの手を強く握った。


「だから、あなたはあなたの気持ちを、できる限り誠実にフェルネス様へ伝えればいいと思う」


「はい」


「周囲はもう、ほとんど固まっているでしょう?」


シャローヌがにやりと笑う。


「残っているのは、フェルネス様ご本人の『覚悟』だけ。


その覚悟を、しっかり引き出すのよ」


「お母様……」


「女性不信だったという噂のおかげで、今まで独身でいられたけれど――」


シャローヌの目が妙に真剣になる。


「治ったという話が大陸中へ広がる前に、しっかりあなたが『仕留める』のです!」


(お母様……なんだか、違う方向へ話が進んでいるような……)


そう思いながらも、ロザリアは新たに決意を固めた。


◇


「フェルネスは『酒』に弱い」


後日。


レオンハルトが、妙に真剣な顔でロザリアへ言った。


「はい?」


「こっそり少量飲ませて眠らせ――『既成事実』を作るのだ」


クラウディオの目が遠くなった。


(父上……どうして急に、そこまで積極的になったのだ?)


「酒だとわからぬように飲ませる方法を考えよう」


レオンハルトは本気である。


「ただし、飲ませすぎてはいかんぞ。


我々が母上に締め上げられる」


クラウディオが、じとっと父親を見る。


(……前科があるのだな)


一方、ロザリアは別のことが気になった。


「でも……お酒が駄目な方は、少量でも危険なのでは?」


どうにも心配になり、レオンハルトから何を言われたかは伏せて、侍医へ相談した。


「確かに、体質によっては少量でも危険なことがあります」


侍医が真面目に答える。


「命に関わる可能性も、絶対にないとは言えません」


ロザリアの顔色が変わった。


「わかりました。ありがとうございます」


そして――。


ロザリアは、そのまま祖母である皇后へ報告した。


◇


「なんということを、実の娘にさせようとしているのですか!!」


レオンハルトは、母である皇后から、たっぷりと説教を受けることになった。


その一方で、皇后はロザリアへ優しく微笑む。


「大丈夫ですよ、ロザリア」


「お祖母様……」


「あなたはきちんと、フェルネス様のことを考えられています」


皇后は、孫娘の手を取った。


「相手の体を気遣い、危険だと思えば自分で確かめる。


それができるのであれば、きっとよい妻になれます」


ロザリアの表情が少し和らぐ。


「焦ってはいけません。


少しずつ距離を縮めていけばよいのです」


「はい」


「よほどのことがなければ、婚約そのものが覆ることはないでしょう。


もう大陸中に知れ渡っていますからね」


皇后が微笑む。


「ただし――」


少し真面目な顔になる。


「結婚した後、本当に心を通わせた夫婦になれるかどうかまでは、誰にも保証できません」


ロザリアが息を呑む。


「そこは、あなたとフェルネス様のお二人で築いていくものです」


皇后の言葉に、ロザリアは背筋を伸ばした。


「……そうですね」


そして、ゆっくりとうなずく。


「私は、ただフェルネス様と結婚したいだけではありません」


胸の前で手を握った。


「『本物』の、信頼し合える夫婦になりたいのです」


ロザリアの胸に、再び熱い炎が燃え上がった。


レオンハルトより、ロザリアの方がしっかりしているような(笑)

「前科」は番外編の「ep.3 皇帝と皇太子の失敗」をお読みください。

フェルネス当時25歳ぐらい・・・普通に飲めると思っても仕方がないかと思います(苦笑)

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