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フェルネスの受難――皇女さまはあきらめない――孤独な抵抗  作者: 鶴見 日向子


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18/22

宿題

とうとう初デートです

レオンハルトという最後の「鉄壁」を失ったフェルネスは、とうとうロザリアと二人きりで出かけることになった。


「どこへ行きたいですか?」


フェルネスが尋ねると、ロザリアは頬を膨らませた。


「駄目です。敬語ではなく、普通にお話ししてください」


「……わかった。では、どこへ行こうか?」


フェルネスが優しく言い直す。


「行ってみたかったところがあります。ついて来てください」


ロザリアはそう言うと、飛竜へ乗って飛び立った。


フェルネスも、飛竜でその後を追う。


ロザリアが向かったのは、公園の中にある墓苑だった。


かつて、そこには村があった。


だが焼き討ちに遭い、今では整備され、公園となっている。


「ここです」


ロザリアが、ひとつの墓石の前で足を止めた。


「大叔父様が眠っていらっしゃる場所」


墓石の前には、たくさんの花が供えられていた。


ロザリアも持ってきた花を、その上へそっと添える。


そして胸の前で両手を組み、跪いた。


「大叔父様。


生きておられるうちに、お会いしたかったです。


どうか――私たち二人を見守っていてくださいませ」


フェルネスは、しばらく何も言わなかった。


やがて墓石へ手を触れる。


「ここだったのか……」


声が震えた。


「詳しい場所までは、知らなかった」


そして、墓前に積まれた花を見る。


「こんなに丁寧に弔われているとは……思わなかった」


「村の方々が、『命がけで自分たちを守ってくださった』と、とても感謝していたそうです」


ロザリアが静かに説明した。


「その後、お祖父様が墓石を建てられました。


村の方々は皆、別の土地へ移り、ここは公園として残されたそうです」


フェルネスは黙って聞いていた。


「お祖父様は、クラリス叔母様が現れるまで、自分を助けてくれた騎士が実の弟だったとは知らなかったそうです」


ロザリアの声が少し沈む。


「大叔父様に、ほとんど魔力が残っていないとわかっていながら、お祖母様とお父様を救いに行くことを止められなかった。


そのことを、ずっと悔いていらっしゃいます」


「クラウス兄上なら、皇帝陛下がどれほど強く止めても行ったであろう」


フェルネスは遠い目をした。


「止めることなど、誰にもできなかった」


そして小さく息を吐く。


「皇帝陛下が、その事で、今も悔いておられるとはわからなかった。


いつか、ゆっくりお話ししたいものだ」


「大叔父様は、素敵な方だったのでしょう?」


ロザリアの目が輝く。


「ああ」


フェルネスの顔が、柔らかくなった。


「そなたの父上は、クラウス兄上と瓜二つだ。


体格も、顔立ちも。


中身まで、よく似ている」


懐かしそうに笑う。


「優しくて、おおらかで、面倒見がよかった。


私は本当に、かわいがっていただいた」


様々な思い出が、フェルネスの脳裏によみがえる。


「そして、私の姉上にぞっこんだった」


ロザリアが笑った。


「姉は、顔も体形も私によく似ていてな。


決して、いわゆる『女性らしい』人ではなかった。


それでも兄上は、最初から最後まで姉一筋だった」


フェルネスが苦笑する。


「……まあ、私も人のことは言えないが」

頭の中にカトリーナの顔が浮かんだ


フェルネスは墓石へ目を戻した。


「二人が夫婦となって、『これから』という時に、いろいろなことが起きた。


だが、兄上はこの国の内乱だけが原因で亡くなったのではない」


しばらく沈黙する。


「今度、皇帝陛下ときちんと話をしようと思う」


そして、はっとした。


「そういえば、初めてお会いした時に、『クラウスの話をしてくれ』と頼まれていたのだった。


忙しさにかまけて、すっかり忘れていた。


お詫びせねばならないな」


ロザリアが優しく笑った。


「そうですよー。


お祖父様と大叔父様のお話ができる方なんて、ほとんどいないのですから」


そして、少し間を置く。


「それに――私の夫になれる方も、フェルネス様だけです」


フェルネスがロザリアを見る。


今度のロザリアの目は、真剣だった。


「お祖父様とお父様。


そして私と、本当の家族になってください」


「ロザリア殿下……」


「他の方では駄目なのです」


ロザリアは続けた。


「フェルネス様も、クラリス叔母様も、とても苦労なさったと伺っています。


そういう経験を重ねてこられた方でなければ、この国を将来にわたって支えることはできないと思うのです」


「……」


「ただ背が高いとか、魔力が強いとか、それだけでは駄目なのです。


必要なのは『経験』です。


それなら、ある程度年齢が上であることは、むしろ不自然ではありません」


フェルネスは、しばらく黙ってロザリアを見つめていた。


やがて、穏やかに言う。


「そなたは、説得がうまいな」


ロザリアが少し嬉しそうな顔をする。


「だが――一番大切なところが抜けている」


その表情が変わった。


「そなたは、私に合わせようとして、無理に背伸びをしている」


ロザリアの目が見開かれる。


「それは、やめなさい」


フェルネスの声は優しかった。


「もし、自分の年齢に相応しい感情や振る舞いを押し殺してまで、私に合わせようとしているのであれば――私は、この婚約を破談にする」


「……」


「もっと、自分らしくいなさい」


フェルネスは続けた。


「年相応に笑って、怒って、わがままを言ってもよい。


そなた自身は自然に振る舞っているつもりなのだろうが……私には、そうは見えない」


ロザリアは黙って聞いている。


「そなたが、私の年齢に合わせることは無理だ。


だが私は、そなたの年頃の考えや行動を理解することはできる。


私自身も、その年齢を通ってきたからな」


フェルネスは少し笑った。


「だから、もっとわがままでよい。


私に、本当のそなたを見せてほしい」


そして、真面目な顔になる。


「夫婦になってからも、互いに気を使い続けていては長く続かない。


大切なのは、腹を割って『話し合い』ができるかどうかだ」


ロザリアが顔を上げる。


「年齢ではない。


『対等』になれるか。


互いに本当の自分をさらけ出しても、それを受け入れられるかどうかだ」


ロザリアは、また下を向いた。


フェルネスがすぐに言う。


「ほら、そこだ」


「え?」


「本当に私の妻になりたいのであれば、ちゃんと反論しなさい」


フェルネスは少し厳しい目をした。


「何も言わずに俯かれては困る。


反論することすらできないのであれば、私はそなたを娶ることはできない」


そして、言葉を続ける。


「私は、何でも私の言いなりになる女性を妻にはしたくない。


私が間違った方向へ進もうとした時には、止めてほしい。


互いに本音を言い合いたい」


小さく息を吐く。


「年齢が上である分、私はそなたを理屈で説き伏せてしまうことも多いだろう。


そのたびに、そなたが黙って俯いてしまったら――私は何も言えなくなる」


「今、考えているのです」


ロザリアが突然、顔を上げた。


その目は真剣だった。


「フェルネス様ほど、私は頭の回転が速くありません」


フェルネスが目を瞬く。


「おっしゃっていることは、もっともだと思いました。


ですから、今のところ反論はありません」


そして、しっかりとフェルネスを見る。


「でも――どうしたら、私が本当の自分を出していると理解していただけるのか。


それを、次にお会いする時までの『宿題』にしたいと思います」


ロザリアの瞳が強く輝いていた。


「それで、よろしいですか?」


フェルネスは、少し驚いたあと、ゆっくりうなずいた。


「わかった。そうしてほしい」


そして苦笑する。


「『猫を被った』娘とは、夫婦になれないからな」


「はい」


「あくまで、今言ったのは私の理想だ。


そなたには、そなたの理想があるだろう」


フェルネスは続けた。


「そこも具体的に考えてみなさい。


本当に、二十四歳も年上の男でよいのか。


そなたには、他の選択肢もあるはずだ」


ロザリアは、にっこり笑った。


「わかりました」


そして、少しだけ嬉しそうに付け加える。


「フェルネス様が、私との結婚を真剣に考えてくださっているとわかったことが、一番嬉しいです」


フェルネスは言葉に詰まった。


(できることなら、今からでも諦めてほしいのだが……)


それがフェルネスの本音だった。


だが――。


さすがに、それを口にすることはできなかった。


フェルネス、必死の悪あがき・・・

だけど、自ら墓穴を掘っているというのがチャッピーの感想です


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