本物のレオン
弟君登場、すごーーーく、しなくてもいい苦労をしたと思います(遠い目)
エリザベスは、女の子を産んだ。
「フェルネスにそっくりなんだ」
得意げな顔で、赤ん坊を周囲へ見せていた。
「……私はフェルネス王弟殿下に、直接お会いしたことがある」
エリザベスの国の国王は、冷たい目で赤ん坊を見た。
「まったく似ておらぬ」
「なんで? そっくりでしょ?」
エリザベスは、本気で不思議そうな顔をする。
あまりにも、
「フェルネスの子だ」
と言い触らすものだから、ついに父親である伯爵ともども、国王から呼び出されたのである。
「フェルネス殿下は、とても細身ではあるが長身。顔立ちも整っている。
髪は淡い金色、瞳は水色だ。
ところが、その子は茶色の髪に褐色の瞳。
顔立ちも、殿下とは似ても似つかぬ」
国王は露骨に嫌な顔をした。
「いったい、この娘は何なのだ?」
その視線が、さらに冷たくなる。
「だって、フェルネスと泊まった時に……」
国王の目つきが、ますます鋭くなった。
「あの方は『女性不信』で有名なのだぞ。
王族たちが喉から手が出るほど欲しがっている、フェルネス殿下の子だというから確認のため呼んでみれば――。
似ても似つかぬではないか!」
国王が机を指で叩く。
「これ以上、『フェルネス殿下の子だ』などと吹聴するのであれば、殿下に対する名誉毀損として厳しく処分せねばならぬ」
「だって、本当なんだ!」
エリザベスが叫んだ。
「陛下の御前であるぞ!」
父親の伯爵が叱りつける。
だが、エリザベスは止まらない。
「一緒の部屋で寝たんだよ! 宿屋の主人だって証言したじゃないか!」
国王は、今度は伯爵へ同情するような目を向けた。
「伯爵……そなたも苦労するな」
「恐れ入ります……」
父親は、ひたすら頭を下げるしかなかった。
「よいか」
国王は再びエリザベスを見る。
「フェルネス殿下は、巨大魔獣の首を一撃で刎ねるほどの魔力の持ち主だ。
対して、そなたは飛行魔獣へまともに乗ることすらできぬほど魔力が弱い。
男女の魔力がある程度釣り合っていなければ、子を授かることは難しい。
そんなことも知らぬのか?」
「首を切り落とすだけなら、魔力なんていらないじゃないか!」
その発言に、伯爵はさらに深く頭を下げた。
「……もうよい」
国王は額を押さえた。
「エルドリア国王陛下からも、強い抗議が届いている。
フェルネス殿下は、このたびめでたくご婚約なさった。
これ以上、おかしな噂を流すなと、国王陛下は大変お怒りだ」
そして伯爵へ告げる。
「この娘は、もう亡き者として扱うがよい。
もともと、一度は死んだとされていたのであろう?」
「はい……」
「それをフェルネス殿下に助けていただきながら、欺いてアストリアまで同行し、あちらでも数々の問題を起こしたそうではないか」
国王は深い溜息をついた。
「それができぬというのであれば、そなたの爵位を取り上げる。
一家そろって平民となるがよい」
「おっしゃる通りにいたします」
伯爵は、ただただ頭を下げた。
◇
城から戻ると、伯爵はエリザベスへ告げた。
「そなたは今日から、地下牢で暮らしてもらう」
エリザベスの顔が真っ青になった。
「お母様! 父上がひどいことを言います!」
母親へしがみつく。
「あなた……」
母親はエリザベスを抱きしめた。
「牢へ入れるなど……。どこか遠くへやるだけでは駄目なのですか?」
「もう、姉上に振り回されるのはごめんです」
低い声が響いた。
エリザベスの弟――本物の『レオン』だった。
その目には、強い怒りが宿っている。
「男の格好をして、勝手に私の名前まで名乗って。
私は、どれほど恥ずかしい思いをしてきたと思っているのですか?」
エリザベスが睨み返す。
だが、レオンは構わず続けた。
「平民の富豪へ嫁ぐと言い出したのも姉上でしょう。
向こうから支度金まで受け取り、婚礼の準備を整えさせた。
それなのに挙式直前で逃げた。
さらに、保護しようとした城の騎士を刃物で切りつけ、重傷を負わせた」
レオンの拳が震える。
「魔獣に襲われて亡くなったと聞いた時、やっと終わったと思ったのです。
それなのに妊娠して戻ってきて、今度は、
『フェルネス殿下の子だ』
と吹聴する」
大きく息を吐く。
「もう、まともではありません」
両親は何も言えなかった。
「寄宿学校を退学になった時点で、もっと厳しく対処するべきだったのです」
レオンは父親を見る。
「父上も母上も、今まで、姉上を甘やかしすぎました。
その責任は大きいと思います」
「レオン……」
母親が小さく名前を呼ぶ。
「私がどれだけ、陰で姉上に苦しめられてきたか……」
レオンの声が震えた。
「もう終わりにしてください。
姉上は牢へ。
赤ん坊だけは姉上から引き離して、安全な場所で育ててください」
そう言うと、レオンは部屋を出て行った。
伯爵はしばらく黙っていた。
そして侍従へ命じる。
「牢へ連れて行ってくれ」
侍従たちがエリザベスを連れ出した。
だが、廊下へ出た瞬間だった。
エリザベスは侍従へ体当たりし、そのまま玄関から外へ飛び出した。
「捕まえろ!!」
レオンの声が響く。
「あれを野放しにしたら、今度こそ我が家が潰れる!」
だが、侍従たちの動きは鈍かった。
誰も、もうエリザベスと関わりたくないのである。
「前回も、山まで追いかけさせられたのです」
侍従の一人が、疲れ果てた顔で言った。
「挙げ句に魔獣まで現れて……我々は命からがら逃げました。
幸い、全員無事でしたが……。
もう、勘弁してください」
その言葉に、レオンの顔が歪む。
結局、レオン自身が侍従たちを連れ、馬で姉を探しに出ることになった。
◇
一方、城では――。
「必ず見つけ出せ!」
国王の怒声が響いていた。
「保護しようとした騎士へ刃物を向けた者だ。
抵抗するようであれば、斬っても構わぬ。
大陸の英雄であるフェルネス殿下を、これ以上侮辱させるな!」
王太子が、国王へ頭を下げた。
「陛下。
レオンも気の毒です。
あのような姉を持ったばかりに、長年苦労してきたのでしょう。
どうか今の伯爵夫妻を隠居させ、レオンを正式に伯爵家当主としてお認めください」
国王はうなずいた。
「そうしよう。
とにかく、あの娘がまた何かやらかす前に見つけるのだ」
城からも騎士団が出動した。
「男装をした、小柄な女だ!
以前、保護しようとした騎士へ刃物で襲いかかった!
見つけたら拘束しろ!
抵抗すれば、武力を使って構わん!」
騎士団長から命令が飛ぶ。
そんなことになっているとも知らず――。
エリザベスは、ただ一つのことだけを考えていた。
「フェルネスに、また助けてもらうんだ」
最初に出会った山へ行けば、もう一度会えるかもしれない。
そう信じて、山へ向かっていた。
その時だった。
エリザベスの前へ、一人の小柄な男が現れた。
「君が『レオン君』かい?」
男はにこにこと笑っている。
「カイレスから、話は聞いたよ」
「え? カイレスの知り合い?」
エリザベスの顔が明るくなる。
「ああ。主治医だ」
男は穏やかに笑った。
「君には、少し興味があってね」
そして手を差し出す。
「どこへ行くつもりなのかな?」
「フェルネスに会いたいんだ」
エリザベスは目を輝かせた。
「最初に出会った山へ行けば、また会えると思って」
男はゆっくりうなずいた。
「そうか」
そして優しく微笑む。
「なら、私と来るといい。
フェルネスに会わせてあげよう」
エリザベスの顔が歓喜に満ちた。
「ありがとう!」
こうしてエリザベスは、自分から男について行った。
そして何の疑いも抱かぬまま、囚人を運ぶための籠へ自ら入り――。
飛行魔獣によって、エルドリアへ運ばれていった。
◇
ほどなくして、エルドリアの使者がエリザベスの国の城へ現れた。
「例の罪人ですが……」
使者は、少し言いにくそうに続ける。
「医療研究のため、人を対象とした試験へ協力する者を探しているそうでして。
本人の同意が得られるのであれば、あの者がちょうどよいのではないかと……」
国王は目を丸くした。
「許可をいただけますでしょうか?」
しばらく沈黙した後――。
国王は手を振った。
「本人が承知するのであれば、好きにするがよい。
伯爵家にはこちらから伝えておく」
◇
その後。
エリザベスの両親は正式に隠居させられ、嫡男レオンが伯爵家を継ぐことになった。
新たに当主となったレオンは、国王へ願い出た。
「エルドリア国王陛下、そしてフェルネス王弟殿下へ、直接お詫び申し上げたく存じます」
「そうしてくれ」
国王は深くうなずいた。
「頼む」
こうして――。
本物の『レオン』は、エルドリアへ向かうことになった。
「なんでそうなる?本当に成人の女性?」と言いたくなるようなエリザベス
でも「人権」はあるんですよねー。「なんで?」と言いたい私
アルフレッドの笑顔の裏がとても怖いです(苦笑)




