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フェルネスの受難――皇女さまはあきらめない――孤独な抵抗  作者: 鶴見 日向子


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アルフレッドの怒り

アルフレッド、過去の苦労がムダにされて怒り心頭です

「どうも、最近、元国王の様子がおかしい」


ある日、アルフレッドが突然エルドリアへ現れて言った。


「何がどうおかしいのだ?」


レオニスとフェルネスが、不思議そうに尋ねる。


「フェルネス。そなた、あのおかしな娘を塔へ入れたそうだな?」


「ああ」


「責任を取って、一緒に様子を見に行こう」


アルフレッドは、いつになく真面目な顔をしていた。


「やたらと心拍数が上がるのだ。血圧もな。


一応、測定用の魔石をそばへ置いてあるのだが、数値が極端に上下している」


二人は塔へ向かった。


そしてアルフレッドとフェルネスが、そっと静かに扉を開けた時だった。


二人の動きが止まった。


エリザベスが、寝たきりの元国王に対して、とても「看護」とは呼べない行為をしていたのである。


二人は無言で、そっと扉を閉めた。


しばらく沈黙が流れた。


「……まあ、本人たちが勝手にやる分には構わぬが」


アルフレッドが眉間を押さえた。


「元国王の心臓が、もたないかもしれないな」


「……気のせいか?」


フェルネスが首を傾げる。


「あの娘、腹が大きくなっていなかったか?」


アルフレッドは再び扉をわずかに開き、中を確認した。


「確かに膨らんでいるな」


呆れたように言う。


「直接診察せねば断定はできぬが……腹の大きさと、ここへ入った時期が合わない」


フェルネスの目が見開かれた。


「では……ここへ来る前から妊娠していた可能性があるのか?」


「高いな」


「だから挙式直前に逃げたのかもしれないな。


挙式前に他の男の子を身ごもっていると知られれば、あれだけ援助を受けていたのだ。大問題になる」


フェルネスは深く息を吐いた。


「『男性が怖い』か……。


すっかり、しおらしい態度に騙されてしまった」


「今さら言っても仕方あるまい」


アルフレッドは、測定用の魔石を見つめた。


「問題は元国王だ。


あの調子では、本当に心臓がもたぬぞ」


そして苦々しい顔になる。


「せっかく、ここまで生かしてきたというのに……」


「何だ。死んでも構わぬのではなかったのか?」


フェルネスが聞く。


「構わぬが、私としては、もう少し『生きて』いただく予定だった」


アルフレッドの声には、妙な含みがあった。


フェルネスは何も聞かなかった。


◇


そして、アルフレッドの予想通り――。


数日後、元国王は息を引き取った。


さらに診察の結果、エリザベスが妊娠していることも判明した。


「陛下のお子です!」


エリザベスは胸を張った。


「僕は無理やりされたんです。だから、僕はもうここの王族ですよね?」


アルフレッドとフェルネスの目が、同時に遠くなった。


「我々に、弟か妹が生まれるということか?」


レオニスは複雑そうな顔をした。


だが、すぐにエリザベスへ冷たい目を向ける。


「仮に父上の子であったとしても、その子に王位継承権はない。


よって、そなたが王族になることもない」


「なんでですか!?」


エリザベスが噛みつくように言った。


「前の国王陛下の子供なら、今の陛下より偉いんじゃないんですか?」


レオニスは静かにエリザベスを見つめた。


その顔には、


『そんなことも知らないのか?』


と書いてある。


「そなた、あまりにも常識がなさすぎる」


フェルネスも溜息をついた。


「腹の子が男子であったとしても、王子の称号が与えられることはない」


「……陛下を一生懸命『お世話』したのに……」


エリザベスが呟いた。


「子を作ることまで、契約には入っていない」


フェルネスは淡々と言った。


「さらに、契約期間の半年を満たす前に元国王が亡くなった。満額の報酬は出ない」


「そんなあ……」


エリザベスは、大きくなった腹を抱えて座り込んだ。


「それ以前にだ」


アルフレッドの声が低くなる。


「元国王に、自らそのようなことができるだけの体力が残っていたとは思えぬ」


その視線は、恐ろしく冷たかった。


「なぜ、そのようなことが起きたのだろうな?」


「それは……僕が、一生懸命看病したから……」


「そうか」


アルフレッドはそれ以上言わなかった。


だが、まったく信じていないことだけは、誰の目にも明らかだった。


フェルネスが口を開く。


「エリザベス。そなたの強制送還が決まった」


「え?」


「ここにいた期間分の給与は支払う。


そなたが重傷を負わせた騎士、それから挙式直前に逃亡して損害を与えた相手への賠償の一部に充てるがよい。


元国王の急逝については、今のところ責任を問わない。


だが、ここでごねるというのなら、その件についても正式に調べてもらうことになる」


エリザベスの目が大きく見開かれた。


「僕は前国王の子を妊娠しているんだ!」


「違う」


アルフレッドが即座に言った。


「塔へ入った時期と胎児の成長具合が合わない。


私は医者だ。


その程度のごまかしが通用すると思うな」


エリザベスの顔が引き攣る。


「そなたは、ここへ来る前から妊娠していた。


そして、それを元国王の子であるように見せかけようとした。


違うか?」


「違う! 僕は元国王陛下に『襲われた』んだ!!」


フェルネスは深い溜息をついた。


「……これでもか?」


懐から魔石を取り出し、エリザベスの前へ差し出した。


そこには、塔の中でのエリザベスの行動が記録されていた。


何をしていたのか。


誰が主導していたのか。


言い逃れのできないほど、はっきり残っている。


エリザベスの顔色が変わった。


「こんなの、でっち上げだ!!」


アルフレッドが、とうとう大きな溜息をついた。


「もうよい。


ここまで来ると、何を言っても自分に都合よく解釈するのであろう。


これ以上、関わるだけ無駄だ」


そして、珍しく苛立ちを隠さず言った。


「さっさと親元へ返せ。


親御も気の毒なことだ。


死んだと思っていた娘が、今度は犯罪者として戻ってくるのだからな」


「そなたが匙を投げるとは珍しいな」


フェルネスが苦笑する。


「普段なら、何でも研究対象にするくせに」


その言葉に、アルフレッドの表情がさらに険しくなった。


「私はな――」


エリザベスを睨む。


「元国王には、もっと長く『生きていただく予定』だったのだ」


フェルネスが瞬きをする。


「それを、勝手に早死にさせおって!」


アルフレッドは珍しく声を荒らげた。


「しかも最期に『いい思い』までさせた!」


吐き捨てるように言う。


「『あの時』の苦労が台無しではないか!」


あの冷徹なアルフレッドが、感情を抑えきれていない。


フェルネスは、きょとんとした顔で兄を見た。


レオニスは苦笑するしかなかった。


「……気にするな」


その目は、どこか遠くを見ていた。


「国境で、そなたを引き渡す手筈になっている」


フェルネスがエリザベスへ言った。


「本来なら馬車だが、妊婦なので特別に飛行魔獣で運ぶ」


「えっ? またフェルネスと一緒に飛行魔獣に乗れるの?」


エリザベスの目が輝いた。


その場にいた全員が、言葉を失った。


「……本当に、何もわかっていないのだな」


王太子が呟いた。


リチャードが一歩前へ出る。


「フェルネス殿下を呼び捨てにするな!」


激昂し足をあげたリチャードを、フェルネスがすぐに制した。


「やめなさい」


静かな声だった。


「その女はともかく、腹の子には何の罪もない。


それに――そなたの靴を汚す必要はない」


リチャードは悔しそうな顔をしながらも、引き下がった。


「殿下の寛大さに感謝するのだな」


周囲の者たちも、一様にうなずいた。


その日のうちに、エリザベスは逃亡防止用の小さな護送籠へ入れられ、騎士の操る飛行魔獣によって国境へ運ばれていった。


その姿を見送りながら、王太子がぽつりと言った。


「自分の身内に、あのような者がいなくて……つくづく幸運だったと思いました」


「さて」


アルフレッドが手を叩いた。


「余計なものも片づいた。研究を続けるぞ、フェルネス」


そして突然、動きを止めた。


「あ」


「何だ?」


「あの娘を実験材料にすればよかった」


フェルネスの顔が引き攣った。


「どうせ、向こうでは死んだことになっていたのであろう?」


「……さすがに、それはひどいのでは?」


フェルネスでさえ顔をしかめた。


「絶対に、あの娘は許さん!!」


アルフレッドは、まだ怒っていた。


フェルネスは困惑し、兄へ助けを求めるような目を向けた。


レオニスは、ただ苦笑するしかなかった。


◇


元国王の死は、その後、国内へ正式に知らされた。


葬儀は行われない。


ただ一か月の間、国全体が喪に服すことだけが決められた。


詳細は番外編集「エルドニアにて」をお読みください。

ずっと、生きたまま苦しむように努力したのに・・・予定と違った事にも怒っているし

実は、痛み止めの「実験台」にしようと考えていたのはひどすぎなので裏設定といたします。


しかし、エリザベスの清々しいまでの無知さ。

すごいな。でも、実際にこういう人間いるかも。関わり合いになりたくないです


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