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フェルネスの受難――皇女さまはあきらめない――孤独な抵抗  作者: 鶴見 日向子


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10/22

初志貫徹

フェルネスの帰国の目的だった「痛みを取る薬」の研究が始まります

「フェルネス。本当にいいのか? それで」


国王であるレオニスが、呆れたように言った。


「いいも悪いもありません。


私はここへ連れて来る前に、公爵家で働けるかどうか試しました。アストリア王太子殿下も、城で下働きをさせようとなさいました。


ですが、本人にはその素質がありませんでした。


ここでの仕事についても、書類を見せたうえで、何度も本人に確認しています。


本人が、自分で選んだことです」


「なんだか、『したたか』になったわね」


王妃が呆れ顔になる。


「女性恐怖症が、女性嫌いに変わっただけではないのですか?」


王太子が言った。


「それはない」


フェルネスは苦笑した。


そして王太子を見て、ふっと笑う。


「一丁前の口を利くようになりおって」


「叔父上に鍛えられましたから」


王太子も笑った。


「戻ってきてくださって、ありがとうございます。本当に嬉しいです」


「これから、よろしく頼む」


「はい! 助かります。また、いろいろ教えてください!」


フェルネスは穏やかにうなずいた。


◇


それから、フェルネスは図書室へ閉じこもることが多くなった。


図書室のすぐ近くには、研究のための実験室まで作ってもらい、一日のほとんどをそこで過ごしている。


なぜか時折、部屋の中から誰かと話しているような声が聞こえた。


「外から、誰も出入りしていないのに……?」


見回りの騎士たちは、首を傾げるばかりである。


そしてフェルネスは、時折アストリアへ飛んで行った。


さらに、グランディル帝国へ足を運ぶこともあった。


◇


「ほお……。フェルネスの女性恐怖症が治ったのか」


その報告を聞いた皇帝は、非常に嬉しそうな顔をした。


「はい。私自ら抱きついて、頬に口づけをして、さらに頬ずりまでして確認いたしました」


シャローヌは、大真面目な顔で言った。


「本当に、そこまでしたのか……」


レオンハルトの目が遠くなる。


「しますよ~。娘の将来がかかっているのですから」


シャローヌはにこにこと笑った。


「ロザリア。本当に、本当にいいのか?」


レオンハルトが娘へ念を押す。


「他に誰がいるというのです?」


ロザリアは首を傾げた。


クラウディオは、横目で妹を見る。


「僕が逆の立場なら、すごく嫌なんだけど……」


「逆の立場とは?」


ロザリアが尋ねる。


「自分の親より年上の女性とは、ちょっと……」


クラウディオがつぶやいた。


「男と女は違うの! では、他に誰がいるの?」


クラウディオは黙ってしまった。


「確かに、フェルネスは『優良物件』ではある」


レオンハルトが腕を組んだ。


「だが、そなたを妻に迎えるとは到底思えない」


「自分より年上の『息子』ができるのもなあ……」


さらに頭を抱える。


皇后は、そんな息子を見て微笑んだ。


「私はよいと思いますわ。あれほどの『優良物件』が、今まで残っていたこと自体が奇跡ですもの。


シャローヌが抱きついても、以前のような拒絶反応は見えませんでしたわ」


「はい。まんざらでもなさそうでした」


シャローヌが答える。


「まあ、亡くなられたお姉様と、私の背丈が似ていたからかもしれませんけど」


皇帝も大きくうなずいた。


「将来の『女帝』の配偶者として、あれ以上の者はおるまい。


魔力、剣の腕、頭脳、容姿、身長、性格。


唯一の問題は年齢差だが、親子ほど年の離れた婚姻など、貴族社会では珍しくもない。


問題は――どう口説き落とすかだ」


皇帝が、にやりと笑った。


「父親である私の意見は!?」


レオンハルトが叫ぶ。


「皇太子殿下」


エルモンドが静かに口を開いた。


「今だけは父親の立場を捨てて、『次期皇太子』の配偶者としての資質だけでお考えください」


「そうです、お父様」


ロザリアもうなずく。


「私に釣り合うほど背が高く、魔力も強く、政治も理解できる男性。他に誰がいます? 具体的に挙げてください」


レオンハルトは、ぐうの音も出なかった。


そもそも、この話が初めて出たのは、少し前のことである。


皇太子夫妻は双子を授かった後、子に恵まれなかった。


本来ならクラウディオが次代の皇太子となるはずだった。


だが本人が、


「やっぱり、自分には向いていません。ロザリアの方がいいです」


と、自らその座を辞退した。


そのため、ロザリアが次期皇太子となることが、ほぼ決まっていた。


そして将来の皇配をどうするかという話になった時――。


ロザリア自身が、きっぱりと言ったのである。


「エルドリアのフェルネス王弟殿下しか考えられません」


レオンハルトは、その時も目を見開いた。


「いくつ年が離れていると思っているのだ? 私より五歳ほど年上のはずだぞ」


「二十四歳差ですね。全然問題ありません」


ロザリアは、けろりとしていた。


「フェルネスは女性恐怖症だ。子供も望めないかもしれないぞ」


さらに言われても、


「構いません。『白い結婚』にすればよいのです。


跡取りはお兄様に頑張っていただきます。お兄様のお子を養子にもらえば済むことです。


私は、フェルネス様以外とは結婚したくありません!」


と言い切った。


「私はいいと思いますわ~。あれほど包容力のある旦那様なら安心です」


シャローヌまで嬉しそうに賛成した。


「成人してすぐ結婚したとしても、フェルネスは四十を越えているのだぞ!」


レオンハルトは必死だった。


「別に、成人まで待つ必要はありませんよ。私、もう十分に子供を産めるくらいの体格はあります」


ロザリアは、すでに母親とほぼ同じほどの背丈になっていた。


クラウディオよりも高い。


「それでも、成人まではお待ちなさい」


皇后が静かにたしなめた。


そして、にこりと笑う。


「こういうことは、ゆっくり進めるものです。焦ってはなりません。


『周りから』じっくり固めていくのですよ」


「フェルネス様なら、間違いありません」


皇帝もうなずいた。


「フェルネスが皇族となってくれるのであれば、こちらとしてもありがたい。


まさかロザリア自ら、その名を挙げるとは思わなかったがな」


「そういうことです、お祖父様」


ロザリアがにっこり笑った。


「エルドリアの国王陛下を説得してくださいね」


レオンハルトは、


(どうか、もっと若い男に気が移りますように)


と祈るしかなかった。


「父上、諦めましょう。ロザリアは初志貫徹です。言い出したら聞きません」


クラウディオの目も遠い。


「成人まで、まだ数年あります」


その言葉だけを頼りに、レオンハルトは、


(その数年の間に、どうか娘の気が変わりますように)


と祈り続けていた。


――そして今。


最大の障害と思われていたフェルネスの女性恐怖症が、どうやら克服された。


レオンハルトにとっては、まったく喜べない朗報だった。


「ということは……」


皇帝が楽しそうに笑う。


「いよいよ、本格的に話を進められるということだな」


「進めないでください!」


レオンハルトが即座に叫んだ。


◇


その後も、フェルネスは時折グランディル帝国を訪れた。


だが本人は、そんな話が進められていることなど、まるで知らない。


皇帝と話をし、必要な資料や物資について相談すると、そのまま帰って行く。


ある日。


「例の話は、まだ勧められんな」


皇帝が言った。


「まずはフェルネス殿に協力し、今、彼が成し遂げようとしていることを成功させるのが先だ」


「一体、何をしているのです? フェルネスは」


レオンハルトが不思議そうに尋ねる。


「手術をする時に、痛みを感じなくて済む薬を作ろうとしている。


その研究のため、資金と物資の援助を求められている」


皇帝がにやりと笑った。


「成功すれば一石二鳥だ。


薬が完成すれば、多くの人間を救える。


そして我々は、フェルネス殿へ大きな『貸し』を作ることができる」


「やっぱり、フェルネス様しかいません」


ロザリアが嬉しそうに微笑む。


フェルネスが訪れるたび、ロザリアは必ず言った。


「私に協力できることがありましたら、何でもおっしゃってください」


フェルネスも、穏やかに笑う。


「頼もしい。何かあれば、遠慮なく頼らせてもらう」


その目は――。


どう見ても、保護者が子供を見る目だった。


だが。


(絶対に『結婚相手』として、振り向いていただくわ!)


ロザリアの決意は固かった。


そんな娘と妹を見つめる父子の目は、どこまでも遠かった。


「頼もしい。何かあったら遠慮なく頼らせてもらう」

が完全に死亡フラグならぬ婚姻フラグになっています(笑)。

本人だけ何も気づいていないのが、一番フェルネスらしいです。

チャッピーの感想でした


さあ、どうなる?フェルネス、そして、レオンハルト

皇女の一途な思いは叶えれれるのか?

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