将来のこと
「おかえりー、おつかいサンキューな」
笑顔で出迎えたアサヒがドラムスティックをクルクルと回しながら俺にそう言う。
「いや1,000円じゃ足りなかったしな!」
「え、まじ?はは、悪い悪い!残りはお前の奢りっつー事で勘弁な」
「あ、いやそれがさ、俺ここに鞄ごと財布忘れてさ」
言いながら、アサヒが座る椅子の横を指さす。
「え?じゃあ全員分買えなかったか、悪いな」
「いや、ちゃんと4つあるよ」
「なんだよ、どういう事?金足りなかったんじゃないの?」
「いやそれがさ、」
先程カフェで会った女性店員の話をするとみんなが揃って「なんだよその子!めちゃくちゃ良い子かよ!俺が行けば良かったー!」なんて言い出す始末だ。
「そもそも金足りない時点でちょっと恥ずかしかったんだからな?!」
注文しておいて金が足りないなんて、情けない男だと思われただろう俺の気持ちも知らないで、よく言ったもんだ。
「んで?少しは頭冷えた?」
湯気が上がるコーヒーの小さな飲み口にふーふーと息を吹き込むマコちゃんがそう聞く。
「ああ、…」
そうだった、そんな事を考えていたはずだったのに、カフェでの事ですっかり忘れてしまっていた。
「まあ、もうちょい考えてみる」
「ま、ゆっくり考えれば?別に急いで答え出す事でもないっしょ。就職するったって、そんな簡単に就職先見つかる訳でもあるまいし」
すぐに就職先が見つかる訳じゃない。
確かにヤス兄の言う事も最もなんだけど、だからこそ焦っていたのもある。
高校を卒業して皆が大学へ、もしくは就職していくなか、俺はどちらにも行かずアルバイトで繋ぎ止めながらバンドを続けてきた。
もちろん、そんな簡単に売れるなんて考えては無かったが高校を卒業してから4年、ヤス兄達に至っては6年だ。
さすがにここまで稼げないとは考えていなかった。
今思えばなんて楽観的だったんだろう、とさえ思えてくる。
「ほら、お前の言ってた次のライブも来月なんだしさ。今はそっちを成功させる事を考えようぜ」
楽観的思考を口に出し、ガシッと肩を組んでくるヤス兄はこの先の事を一体どう考えているんだろうか?
アサヒとマコちゃんだってそうだ。バンドで売れたいって気持ちは俺含め皆一緒だろうけど、バンド活動で手元に残る金は良くて1人せいぜい月数万円程度。
ありがたい事に毎回ライブに来てくれる固定ファンもいるが、最近は新規のファンが全然増えていない。
グッズも売れ残る事が増えてきている。
「うん、まあそうだね」
煮え切らない返事をした俺に「なんて言うのかなぁ」と額をグリグリと揉みながらマコちゃんが言う。
「俺たちの曲って全体的に良いと思うんだけどさ、なんか今ひとつパンチが足りない曲が多い気がするんだよね」
「んー、パンチかぁ……音の厚み、みたいな?」
「そうそう!」
「あー、でもそれは分かる気がするな!いっその事新メンバー募集してツインギターとか?」
ワイワイと話し合いが進む中、時計を見てはっとした。
「あ、やば!今日バイトだったんだ!悪い!俺今日はもう行くわ!」
「おう、がんばってこいよー」
「明日も練習だからなー」
「練習サボったらお前がギター2本持ちでツインギターだからな!」
ケラケラと笑う3人の言葉も早々に、俺はギターを急いでケースに片付けて担ぐ。
「みんなごめん!新曲の練習は帰ったらちゃんとやっておくから!2本持ちはごめんだよ」
笑いながらそう言い残し、足早にスタジオを後にした。




