バンド
2年前のクリスマス、俺の彼女だったユキは目の前で死んだ。
大量の血がユキの綺麗な白い肌を真っ赤に染めて。
ーーーユキと出会ったのは、俺たちがまだインディーズバンドとして売れないバンドマン生活をしている時だった。
全然売れず、お金もなく、周りからはいつまで夢みてるの、なんて言われていた頃だ。
……ーーーーー
「なあ、ヤス兄」
「ん?」
「俺、次のライブ終わったらバンドやめて就職しようかな」
「はあ!?」
周りの友達が次々と就職していく中で、自分だけ取り残されていくのが不安だったのもあるが、2つ上のヤス兄やマコちゃん、アサヒにも悪いような気がしていたからだ。
「俺はまだ22歳だけど、ヤス兄たちはもう24歳だろ?俺のせいでこんな貧乏バンドやらせてる気がしてさ」
元々バンドがやりたいと言い出したのは俺だった。
高校生の頃ギターをやり始め、歌の上手いヤス兄にバンドを組もうと話を持ちかけたのがきっかけだ。
すぐにヤス兄は、同級生だったマコちゃんとアサヒを誘い、俺たちはバンドを結成した。
しかもこれまたマコちゃんもアサヒも俺を弟のように可愛がってくれて。
しかもバンド名は俺の七瀬って名前にちなんでsevensとか、アホすぎでしょ。なんて笑えてくるよな。
お前が言い出しっぺなんだからお前がリーダーだって。
だから、みんな辞めたくても辞めにくいんじゃないかと心のどこかでずっと思っていた。
そんな胸の内をポツポツと話していると、背中に鈍い衝撃が走った。
「おいおい、俺らがいつお前のためだけにバンドやってるって言ったんだ?自惚れるなよ?」
「ばかだなー、俺らだって売れたくてここまでやってきたんだ、今更お前が抜けた所でやめねーよ」
「な、マコちゃん、アサヒ…」
いつから聞かれていたのか、背中の衝撃はアサヒの蹴りだったらしい。
「はは、だってよ。どうする?辞めるの?」
「…いや、でも」
「でももクソもないよ。七瀬がどうしたいかって聞いてんの。周りに何言われようが、何歳になろうが俺らは売れる!そう信じてここまでやってきたんだろ?」
マコちゃんにそう言いわれ、言葉がグッと押し込まれた。
「ま、とりあえず頭冷やして考えろよ。ほれ、一番年下なんだからコーヒー買ってこい」
アサヒに無理やり千円札を握らされ「そこの新しく出来たカフェ、コーヒー安いし美味いんだよな。俺ホットな」と背中を押された。
「お、アサヒの奢り?俺カフェオレ!」
「じゃあ俺も!」
「おい、誰が奢るなんて…」
「はは、アサヒごちそうさま!俺もホット買ってくる。ありがとう」
そう言い、練習スタジオを出た。
後ろからは「おい、次はお前らが奢れよ!」なんて言い合いが聞こえたが、聞かなかったことにしておこう。
スタジオを出ると、白い息がフワっと吐き出される。
今日は雪が降りそうなくらいに寒い。
ちょうどよく頭も冷えそうだ。
「とは言ってもな…」
3人の将来、それも本音ではあるが、実際は自分の将来への不安も大きかった。
正直バンドは続けたい。
これで食っていけるなら、そんな幸せなことはない。
だが現実はそう甘くないのもこの数年でひしひしと感じている。
バイトで繋ぎ止める生活費、ライブに来るファンも年々数が増えなくなってきている。
最近じゃ、音楽の流行はバンドよりもアイドルグループへと流れつつある。
なかなか答えの出ない優柔不断な思考回路を巡らせ、カフェに入ると暖かい空気が体を纏った。
「あったか〜」
外のあまりの寒さについ、口に出してそう言ってしまった。
すると、カフェの店員がふふっと笑い「外は寒いですからね、ホットにしますか?」と笑顔で話しかけてきた。
それが初めてユキと出会った時だった。




