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施設5

「院長、やり過ぎです。下ろしてください」


 吉岡さんにそう制され、俺たちを鋭い目つきで見ながら杖を下ろした院長は「聞き方を変えよう」と杖の先端をズンっと音を立てて地面に突き刺した。


「霊力の使い方も知らぬ者が、たった二人で、どのようにしてここに辿り着くことが出来た」


 静かな森に、ザワザワと草木が風になびく音と共に院長の声も一緒に響いた。


「……要するに、その霊力ってのがないとここには辿り着くことが出来ないってことですか?」


 答えるかどうか、少しだけ迷ったような間を置いて、ゆっくりと口を開く。


「……まぁ、簡(・)単(・)に(・)言(・)え(・)ば(・)そうです。ここは少々特別な施設でして。通常はただの森にしか見えず、万一迷い込んだとしても向こう側へ抜けるように出来ているんです。霊力のない人間であれば、ですがね」


 吉岡さんはそう言い、院長をチラリと見る。

 それに対し、院長も小さく頷く。


「おそらく彼らは本当に何も知らずに、たまたまここに入れてしまったようですね」


「もしくはタクミが入ってきた時に歪みが生まれ、それが閉じる前に入り込んでしまったか……あの馬鹿者が」


 どうしたものか、と言いたげに俺たちを見ては盛大に溜息を吐く二人。


「あの……まだ混乱はしてますが、多分なんとなく理解しました」


 とりあえず霊力やら施設の出入り方法やら、一旦全て信じ、話を聞くしかない。

 雪の話はそこからだ。


「俺たちがここへ入れたのは根元さんのせいではなく、吉岡さんの言うように、おそらくたまたま入れたんだと思います」


「ふむ、なぜそう思う?」


 俺の言葉に、院長が少し興味を示すように返事をした。


「俺たちには多分、その霊(・)力(・)っていうのが少しあります。とは言っても、それを知ったのも昨日です」


「どのようにして分かったんですか?」


 今までよりも、真剣に俺の話を聞く姿勢に入った二人は、俺たちを交互に見た。


「雪の残したノートです」


「確かさっき根元さんも言っていましたね、雪さんが残したノートがあると」


「そのノートは今どこに?」


「あぁえっと…それが根元さんのお店に置いて来てしまって……」


 くそ、こんなことなら持ってこればよかった。

 そんな後悔をしていると、ヤス兄が「写真で良ければ」とスマホの画面を見せた。


 いつの間にそんな写真撮っていたんだ。

 さすがやす兄だ、なんて感心していると、吉岡さんが話しだす。


「根元さんのお話だと、このノートは【雪さんの負の感情が封印されたもの】だそうですね」


 まさかマスターがこのノートをそんな物だと考えていたとは。

 やはり初めから【負のオーラ】と言っていたのはそれを感じていたのだろう。


「感情が封印されているのかは俺には分かりませんが……内容は、普段の雪からは想像もつかない……負の感情ばかりでした」


 内容を思い出すだけで、どれほど雪が辛い思いをしていたか、なんて考える。

 そんな俺を見たヤス兄が続きを話すように口を開いた。


「まぁ、内容が内容なんで、どう思う?ってな具合に七瀬が俺たちにそのノートを見せてくれたんです」


 俺の様子を見たヤス兄が昨日からの出来事を説明をする。

 ノートのこと、俺たちが霊感というものに気がついたこと、マスターが何も知らない体で話を進めていたこと。

 looseで話した内容を事細かに二人に話す。


「……なるほど」


 一通り話を聞き終えた院長と吉岡さんは、納得してくれた様子で頷く。


「なぜ根元さんは霊感や霊力について彼らに教えなかったんでしょう」


「おおかた察しがつく……彼奴は以前【浄火】に属しておった」


「っ、!なるほど、浄火ですか……」


 また、俺たちがよく分からない話を二人の中で進め始める。

 いや、俺たちが知(・)ら(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)い(・)け(・)な(・)い(・)話(・)、だろうか。


「あの、……浄化?って?汚れを払うとかそういう?」


「ふむ……お主らは本当にこの世のことを全く知らぬようじゃのぉ」


 院長が呆れた様子で目を細め、俺たちを面倒くさそうに見てくる。


「だが不思議じゃ。なぜ今まで、お上やその他の組織がこやつらの霊力を無視しておったのか……いや、気が付かなかったのか……」


「それは一体どういう意味ですか?」


 院長と吉岡さんの言葉、一語一句、初めて聞く単語や話が多すぎて頭がどうにかなりそうだ。


「……見たところ、少ないと言えども、あなた方にはそれなりの霊力を感じます。この年齢まで霊力の存在を知らなかったのが不思議なほどに、です。さて……この森への入り方の話をした際に、七瀬さんの質問に対して、簡(・)単(・)に(・)言(・)え(・)ば(・)そ(・)う(・)と答えましたが……」


 言いながら、手のひらをこちらに向け、ふわっと横にスライドするように動かす。

 すると驚くことに、吉岡さんと俺たちの間に空間が現れた。

 その空間の中……いや、俺の目の前という方が正しいのだろうか?

 とにかく、目の前には森が広がり、その先、森林の覆われた向こう側に道路が見える。

 おそらく森の出口付近だ。


 すごく簡単に言えば、どこでもドアのような、そんな感じだ。


「これは……」


 しかし、もはや驚きで言葉を失う俺とヤス兄は、現れた空間の後ろにいる吉岡さんと院長を覗き込む。

 もちろん、その後ろには今まで通り二人が立っている。


「霊力があるだけではこの森へは入れません。このように霊(・)力(・)を(・)使(・)わ(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)入れないんです」


 言いながら、空間を消す。

 目の前にあった森は消え、吉岡さんと院長が再び見える。

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