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施設3

 「いつまでやってるんですか、子供達が興味を示し始めていますよ」


 嗜めるようにそう言い、奥から出てきたのは中年女性。

 作務衣を着ており、施設の職員というよりは、なんだか修行僧のような見た目だ。


「貴方も。いい加減になさい。貴方の事情は知りませんが、私どもにはもう関係のないことなんです。どうかお引き取りを」


 そう言いながら、汚れてしまったマスターの服を手で払い、ポケットから出したハンカチで傷のついた顔を優しく拭った。


「院長、やりすぎですよ。怪我までさせる必要がどこに?」


 マスターの顔や腕などには、あちこちに傷ができ、血が滲んでいる箇所もある。

 それに、先ほど打ち付けてしまった背中も相当痛むだろう。


 だが、その手をペシっと払いのける。


「構うな。これくらい自分すぐで治せる」


 その言葉を聞いて、院長は尚も嫌味のような口調で、目を細め、嘲笑うかのような笑みを浮かべる。


「あぁ、お前の得(・)意(・)分(・)野(・)は戦闘ではなく治(・)癒(・)だったな。とは言っても仲間を守り切れるほどの霊力はなかったようだが……ああ、そのせいで失った損害は教訓として語られておるから安心せえ?」


「……テメェっ」


 ギリっと歯を食いしばり、今にもまた殴りかかりそうな拳を握る。


「お二人とも!いい加減にしてください!院長も言い過ぎです。その件については彼一人に責任はないでしょう」


 何か意味あり気に聞こえるその会話は、彼らの中では共通認識されている話らしい。

 もちろん、言わずもがな俺たちには全く意味は分からない。

 だが、きっとマスターには何かしらの過去があって、それはこの施設内では有名な話なのだろう。


 ということは、まさかマスターもこの施設出身だったのか?


「くそ…、こんな場所俺だって二度と来たくなかったさ……だがな、俺もあいつらも……真実を知らなきゃならねぇ。そもそも、この件に関してはここの監察責任問題でもある。お上に訴えても良いんだぞ」


「ふんっ、今更お前が上に頼るなど、思考がつくづく弱者じゃな。それに…ここはそうそう簡単に手出しができる場所ではない。それはお前も分かっているはずだろうに」


 そう言われ、「っち」と盛大な舌打ちをして車に乗り込むマスターは、普段なら絶対にやらないであろう乱暴な音を立ててドアを閉めた。

「大切にしている」と、よく自慢されるマスターの身体の大きさに見合わない小ぶりのレトロカー。

 それを、あんな乱暴に扱うなんて。


「そろそろマスターが帰るな…」


 ヒソヒソとそう言いながら、いつもの間にか自然とまた身を隠していた俺たちは、その様子を見守る。


 ブロブロと古めかしいエンジン音が鳴り、去り際の言葉も交わさずに車は発進しだす。


「どうする?追うか?」


「いや、とりあえず俺たちも一旦家に戻ろう。流石に情報量多すぎて……頭が追いついてない」


「まぁ、確かにな。なんかもう俺異世界にでも転生しちまった気分だわ」


 もはや混乱を超越して受け入れてるのだろうか。

 冗談めかして笑い始めている。


「そうだな、とりあえず一旦お前んち戻って整理しよう。んで、ついでにアルバムも探すかー」


「はは、もはやアルバム探しに意味なんてあるのかすら不明だけどね」


 やれやれとため息を吐き、立ちあがろうと膝に手を着いた時「で、あなた方はどちら様でしょうか?」と作務衣の女性の少し大きな声が響いた。

 その声に驚いて、ピクリと身を止めてしまう。


「え、……俺たち、?」


 まさか、とヤス兄も目を丸くしている。

 首の骨がギシギシと音がなりそうなくらい、恐る恐る向こうを覗き込む。


「まさか気が付かれていないとでも?」


 そう言いながら、その女性はしっかりとこちら、いや、俺(・)た(・)ち(・)二(・)人(・)を見ている。

 無論、院長もだ。

 無言ではあるが、鋭い眼光が刺さるように感じる。


「どうせ、彼奴の仲間か何かだろう。大した霊力も感じん」


「偵察か何かなら見当違いですよ。根元さんにもお話ししましたが、我々は彼女の死とは何も関わりがないのですから」


 そう言われ、咄嗟に立ち上がる。

 どうせここにいるのはバレているんだ、隠れていても仕方がないしな。


「お、おい」


「あの人たちはユキについて何か知ってる、どうせならもう聞きにいこう。それにマスターについても」


「いや、まぁ……そうだけどさ、お前って突然思い切り良くなるよなぁ、マジでヒヤヒヤするよ」


 全く、なんて言いながらも俺に付き合ってくれるヤス兄は、ヨイショと何とも緊張感のない声を出しながら立ち上がる。


「こりゃ監視カメラか何か、森の中にでもついてるんじゃね?最初から俺たちが森に入った時点で向こうは分かってたんじゃん?」


 大量の草木をかき分けながら、森の斜面を降りていく。

 その先には、院長と作務衣の女性。


「確かに、その可能性あるね。こんな外観なのに、出たらすぐ身を隠しやすい森だし」


 ここに来て最初に感じていた、脱走されたら見つけられないという疑問は、それで解決する。

 この建物を覆い隠すのも、脱走を阻止するのも両方兼ね備えているという訳か。

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