捜査
次の日、また同じ時間に俺たち3人は閉店したlooseに集まっていた。
薄暗い店内で少しの緊張感と静けさの中、誰が最初に話し出すか、そんな雰囲気の中マスターが最初に口を開いた。
「……七瀬、ヤス、2人とも気持ちの整理はついたのか?」
そんな冷静な声に「俺の気持ちは昨日から何も変わらないよ」と静かに答えた。
「ああ、俺も少しは冷静になった……ていうか、なんか自分でも不思議なくらいに冷静だよ。この霊感も元から自分の中にあったモノなんじゃないかって思えるくらいにはな。はは、変な感じだよ」
俺たちの返事を聞くやいなや、マスターは少し覚悟を決めたような表情をした。
「よし、わかった!ひとまず俺も、お前らのその霊感を信じる。じゃなきゃ話も進まないしな」
そう言われ、俺とヤス兄が顔を見合わせた。
「とにかくだ、その霊感で得た感覚的情報じゃ警察に話したって信じて捜査してもえるモンでもない。霊感で感じた事を自分たちで調べて証拠を見つけなきゃならん。本当に協力者がいて、そいつを捕まえるなら、根拠のある決定的な証拠が必要だ」
ふう、と息を吐き出し「やれやれ」と頭を掻くマスター。
「……まずは、この日記の気になるところからだな」
言いながら、預けていたノートをテーブルの上に置いた。
思ったよりもあっさりと受け入れて話を進めるマスターは、俺たち2人を見る。
「ん?どうした、ヤス?」
テーブルの上に置かれたノートを神妙な面持ちで見つめるヤス兄に首を傾げるマスター。
「いや、……マスターは俺たちのことを変だって思ったりしないのか?」
「ん?お前たちも1日考えたように、俺だってあのあと色々考えたさ。んで、これが俺の答えだ。さっきも言っただろう、お前らを信じるってな」
いつもの様に笑い、俺たちの頭をガシガシと撫でる。
この人は本当に、俺たちの親代わりのような人だ、なんてつくづく思えてくる。
「マスター、ありがとう。やっぱりマスターに相談して正解だったよ」
「な、なんだよ急に!」
少し照れるように大きな手で自身の顔面を掴み隠すマスターは、ゴシゴシと顔を擦る。
「はは、俺からも礼を言うよ。冷静になれたのもマスターのお陰だしな」
「……全く、お前らときたら、……」
ふう、と大きく息を吐き出したマスターは「いいか、今後霊感の話は俺たちだけの秘密だ。メンバーの2人にも言うなよ」と少し強めに釘を刺すように言い放つ。
「まあ、言うつもりは無かったけど、……なんで?」
「どこで誰が聞いているか分からんからな。変な宗教のやつの耳に入っても面倒だ。それに、方法はどうであれ調べ回ってる事が漏れるのも良くない。特にお前たちは有名人だ、世間的には終わった事件を影でコソコソ調べてるのがバレたら、その協力者だって見つけにくくなる可能性が高い」
「そうだな、それに霊感だの何だのって噂がたってバンドに迷惑をかける訳にもいかない」
2人の話を聞き、コクンと頷く。
「よし、じゃあまず日記だが……昨日読み返して気になった所があるんだ」
言いながらマスターが例のノートをカウンターテーブルの上で開いた。
「色々気になる点は多いが、まずは大方無視だ。呪いだの、あの人だの……考えても分からない事が多すぎる。で、一番手がかりになりそうなのがここだ」
そう言い、指さした一文。
【美和のお見舞いに行ったらあの人がいた。何しにきたの?吐き気がする】
「美和って人物の名前は何度か出てくるが、ここではその人のお見舞いに行ったと書いてある。って事は、この人物はどこかの病院に入院、もしくは家で療養中って事だ。唯一名前がハッキリしてて、話が聞けそうな人物だな」
「ああ、それは俺も気になってた。ただ、ユキの口から友達の名前なんて聞いたこと無かったんだよな……」
そう考えると、自分がいかにユキの事を知らなかったのかを思い知らされる。
いつもユキは俺の話ばかり聞いて、楽しそうに笑ってくれた。
だが、俺がユキの事を聞くと決まって「私は親も友達もいないからね、」と苦笑いをする。
過去の話を全く聞いたことが無い訳では無いが、嫌な思い出が多いらしく、詳しい話は聞けていない。
「まあ、どういう関係なのかは、この美和って人に会えば分かるさ」
俺の心中を察してか、ヤス兄が「気にするな」と言いたげに俺の肩に手を置く。
「で、肝心の場所だが……まあ家じゃなくて、どっかの病院だろうな」
「家で療養中の可能性は?」
「一応可能性としてはあるが、ユキちゃんがおそらく嫌いであった人物【あの人】も、お見舞いに来てた……文中にも【何しに来たの?】と書いてある。これは、何しに美和に会いにきたのか?って事だろう。それを考えると、【あの人】は【美和】に会うような人物じゃないって事じゃないか?そう考えると自宅は考えにくい。自宅なら、この美和って人物、もしくは家族が門前払いする可能性が高い」
「なるほど……確かに、病院ならよっぽど出禁くらってるような人物じゃなきゃお見舞いは可能か」
マスターの話に納得をした俺たちは「まず、どこの病院にいるか、だね」と考えをめぐらせる。
「施設は?施設の友達とか」
「……施設か、」
ヤス兄にそう言われ、先日その施設に電話した時の事を思い出す。
「一応当たってみるけど、あんまり役に立たないかも……葬式の時も話したと思うけど、なんかすごい冷たいというか……他人事というか……向こうもあんまり関わりたくなさそうに感じたんだよね」
「なるほどな、あんまりいい関係を築いてなかったって話は聞いたことあったが……」
マスターも難しそうな表情でそう言う。
「よし、施設は俺が当たってみよう。七瀬が行くとユキちゃんの婚約者だってことで警戒される可能性もあるしな」
「ああ、そうだね。ありがとう」
「お前らは、その霊感とやらで病院とかその美和って人物に感じるモノはないのか?」
そう言われ、ノートを差し出された。




