霊感
俺の話を聞き終えた2人は難しい表情で「うーん」と考え込んでいた。
それもそうだろう。
金で人を動かしてるとか、弱みを握られて動いたとか、権力者が揉み消したとか……まともな思考回路じゃない。
それに加えて「ユキの声と体温を感じた」なんて言ったら、それこそまともに話を聞いてもらえないかもしれない。
「2人が流石にそれは考えすぎだって思うのもわかる。逆の立場なら俺だってそう言うかもしれない。でも、そう思えてならないんだよ」
言いながら、様子を伺うように2人を見た。
「……話の最初に俺が言ったこと覚えてる?」
「ユキちゃんがいなくなって七瀬がおかしくなったと思われそうで、ってやつ?」
片眉をあげてヤス兄がそう聞いた。
「うん」
「いや、流石におかしくなったとまでは思わないよ。話の流れを聞けばそう思える部分もあるしな。でもちょっと飛躍しすぎてないか、とは思ったかな。」
「そうだよね。でも…ここからが本題なんだ」
「え、まだなにかあるのか!?」
少しギョッとした表情を見せたヤス兄は、目を丸くして俺を見る。
マスターはと言うと、何を言う訳でもなく考え込むように顎髭を撫で、目を瞑っている。
「……俺がおかしくなった、そう思われても仕方ないと思う。けど、2人なら話を聞いてくれると思って」
「七瀬、お前がおかしな事言っているかどうかは聞いてから考えるからよ、まずは話してみろ」
少し躊躇う俺を気遣うように少し口元を緩ませたマスターは「だろ?」とヤス兄を見た。
「うん、まあそうだな!まずは話してみろよ」
そんなマスターの言葉に、ヤス兄もふっと笑ってみせた。
「ありがとう、……このノートなんだけどさ」
2人の目をしっかりと見たまま、カウンターテーブルに置きっぱなしになっていたノートに手を置いた。
すると、マスターの目つきが少しだけ変わったようにも見えた。
「最初に読んだ時は、ただただ悲しかった。なんで気づかなかったんだろうって……でも、だんだん不思議な感覚がすることに気づいたんだ」
「不思議な感覚?」
「うん、えっと、……なんて言うのが正解か分からないけど……ユキがこの中に閉じ込められているような、ユキの魂がここにあるような、……よく分からないけど、そんな感じがするんだ」
俺の言葉にさすがの2人も驚いているような、困っているような、困惑の表情だ。
特にヤス兄は明らかに動揺したような、言葉を探すような、そんな雰囲気だ。
「はは、やっぱりちょっとおかしいよね……」
「あ、いや、ごめん、おかしいって言うかなんて言うか……」
言葉に詰まるヤス兄は、俺を傷付けないような言葉を探しているんだろう。
「……霊感、みたいなやつか?」
だが、マスターは違ったようで、静かな声でそう言った。
「れいかん、?」
「いやいや霊感って……七瀬そんな幽霊とか感じるタイプじゃなくね?」
ははっと笑い飛ばすように、すぐにヤス兄がそう否定の言葉を発したが、なんだか俺の感じた感覚とその【霊感】という言葉がピッタリとあった気がした。
「確かにそういうのには疎いというか、神様とかそういうオカルトとかスピリチュアルみたいなモノにはあんまり惹かれるタイプじゃないけど……」
でも、ずっと感じていた不思議な感覚がなんだかすごくスッキリした気もする。
「まあ、そうだな。そういうのは俺もテレビとかでよく見るが……胡散臭いのも多いし、ちょっと違ったか?」
はは、と自分の発言にマスターも少し苦笑いした。
「いや、違くないと思う」
「「え?」」
俺の言葉に2人が同時に間抜けな声を出した。
「確かに、幽霊とかそういうのは信じる方じゃないし、今までそんなの感じた事すらないよ。でも、なんか今確信した気がする。このノートからはユキの残した魂のようなモノを感じる」
「おいおい、嘘だろ?」
至って真剣な眼差しを向ける俺を困ったような顔で覗き込むヤス兄。
だが、マスターは「魂を感じるってどんな風に感じるんだ?」と少し信じてくれているような口ぶりだ。
「……このノートは、ただの日記じゃないと思う。様々な理由で動いてる協力者とか……色々根拠の無い事言ったけど…実はさ、読んでると、そういう考えが頭に流れてくるんだ。あたかも俺が元々そう考えていたかのように」
突然の俺の発言に、ヤス兄はおろか、少し信じてくれていた様子のマスターすらも眉を寄せたのが分かった。
「突然意味わからない事言ってるのも分かってる。だけど信じて欲しいんだ、本当にそう感じるんだよ!だからこそ、一番信用出来る2人にしか話してないんだ!」
必死にそう訴えかける俺を見て、困った様子のヤス兄は頭を搔くように髪をぐしゃぐしゃにしている。
どう反応していいものか、と考えているのが分かる。
マスターも同じく反応に困っているのか、目を瞑り腕を組んで黙りこんでしまった。
「……やっぱり、俺がおかしくなったと思うよね」
2人の反応を予想していなかった訳じゃない。
でも、もしかしたら同じように感じてくれるかも、なんて少し期待もしていた。
「いや、そうは思ってない」
「え、?」
「そもそも最初に俺も言っただろう、【負のオーラのようなモンを感じる】って」
マスターの言葉に驚きながらも、少し嬉しいとすら思ってしまう。
やっぱり俺の感じたことは間違いじゃなかった、と。
「おいおい、マスターまで何言い出すんだよ……」
もう、どう反応をしたら良いのか分からないといった様子のヤス兄は、ため息混じりにそう言った。




