七瀬の考え
「あの男は【私が通報した】って言っていたけど、警察や救急の話では実際の通報者は女性だった。それに、俺は混乱しててその男とまともに話はしてないんだ。なのに救急隊の人は【俺がユキの婚約者だってことを聞いた】と言っていた……あの男は俺がユキの婚約者だってことをなんで知っていたんだ?おかしいじゃないか。あの時の俺は、まともに話が出来る状態じゃなかった。あの男に俺が婚約者だってことは確実に言っていない」
捲し立てるようにここまで話すと、今まで否定的だったヤス兄もおかしいと思い始めたのか眉間にシワが寄っていくのが分かる。
「それと、救急の人が言っていた男の特徴……スーツで黒髪、七三分けの前髪とメガネ、そんなあからさまにサラリーマンですって言いたげな格好……」
「なるほど……特徴がなさすぎるというか、むしろ特徴をそこに注目させたようにも思えるな」
俺の話に賛同するようにマスターもそう言う。
「俺もそう感じたよ。それに事件翌日の朝、ニュースになる前に警察から電話がかかってきたんだ。容疑者だった女が起訴され被告人になったって。でも俺の事情聴取をした佐野さんが言ってたんだ。事故発生から容疑者確保、通報、救急への説明や搬送、さらには犯人の自供、逮捕まで全て順調すぎるほどだって。通常ああいう状況だと混乱や騒ぎが大きくてなかなかスムーズにいかない事も多いから状況把握や展開が早くて少し驚いてるってね」
自分なりに整理した状況を一気に話し、小さくため息をつく。
そして目の前に出されていた少し冷めたコーヒーをひと口飲むと、ゆっくりカップを置き、2人を見る。
「流石に出来すぎてると思わない?」
「確かに……全てを繋げて聞くと妙に違和感があるな」
ヤス兄もコーヒーを口に運び、ゆっくりとそう言った。
そして俺に向き直り、小さく頭を下げる。
「病院の時は七瀬が混乱してて変に勘ぐってるって思ってた。ホントごめんな……」
「いや、あの状況じゃ誰もがそう思うと思う。謝らないで」
頭を上げてくれと、ヤス兄の肩をポンとたたき、俺は口元を緩ませた。
「それにしても、七瀬が婚約者ってことをその男が知ってたっていうのは……流石に違和感とか出来すぎてるとかって言う話じゃないな」
考えるように腕を組むマスターは「その警察には話したのか?」と眉を寄せた。
「いや、言ってない」
「連絡するべきじゃないか?確かに実行犯は捕まったかもしれないが、他にも協力者がいたならきちんと制裁を受けるべきだ。これじゃユキちゃんも浮かばれないだろう」
「そうだね。佐野さんへの連絡も考えた。けど、……」
「けど?まだ何かあるのか?」
「……殺人の協力だよ、そう簡単に引き受けるはずがないと思うんだ。万が一バレたら自分だって刑務所送りだからね。ってことは、バレないように細工してると思うんだよ。それこそ、他にも協力者がいて……いや、捕まった犯人すら共犯の1人に過ぎなかったら……?」
「いや、それは流石に考えすぎじゃ……」
「そうかもしれない……でも、今までこんな陰湿なことをし続けてきた人間が現行犯で逮捕されるようなやり方する?」
「……確かに、いやでも手紙を送ってた連中とは別かもしれないだろ?」
「ああ、でも俺の話もヤス兄の話も両方【かもしれない】だ」
とりあえず、俺の考えを1つずつ聞いてもらう為に、ヤス兄の言葉を一旦遮って話し続ける。
「とにかく殺人の協力なんて、かなりのお金とか、もしくは権力みたいなものが必要だと思うんだ。それかよっぽどの弱みを握られているとか……」
「言いたいことは分かったけど……仮に殺人に協力しなきゃいけないほどの弱みって?」
「それは分からないけど……例えばってこと。大袈裟な話に飛躍してるのは十分わかってるよ。でもそうでもないと殺人に協力なんて有り得ないと思わない?」
「いや、だからそもそも……」
「……まあ、ヤスの言う事も最もだが、今は七瀬の考えを最後まで聞こう」
落ち着いた口調でそういうマスターは、話を続けろと言わんばかりに俺を見た。
ヤス兄も「そうだな、話を折って悪い」と口をつぐむ。
「……俺は絶対に協力者がいると思っている。お金で動いてる人か弱みを握られている人か、またはその両方か……もしくは権力者がいて揉み消したとか……とにかく1人じゃないって考えてる」
その言葉に2人は、なぜそう思うんだ?と言いたげな表情だ。
「佐野さんは、容疑者から犯人断定までが早かったって話してた。これは俺の推測だけど、いくら犯人が自供したからって普通もう少し調べないか?確かにその場で確保されたみたいだし、自白もしたかもしれない。でも、嘘の可能性とかは考えないのか?犯行を認めたらもう調べる必要はないのか?」
ドラマや映画の見すぎだ、なんて言われたらそれまでだが、どうしようもなくそう思えてならなかった。
そう感じるんだ。
このノートから。
そして、もう1つ。
【呪いを解いて欲しい】
【まだ何も終わってない】
【真実を見極めろ】
ユキの言葉だ。
ただ、この話をすればここまで話を聞いてくれた2人は、きっと一気に俺の気を疑うだろう。
どのタイミングで、どう言えば信じてもらえるのか。
それとも話すべきじゃないのだろうか。
そんな思考がぐるぐると頭を巡った。




