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乾杯

「「「「乾杯!」」」」


 分厚いガラスで出来たビールジョッキがゴチン!と音を立ててぶつかり合った。


「うんめえーー!」


 実に美味そうにビールを飲むこの男は俺の兄、萩 保久。


「おいおいおい七瀬、お前チビチビ飲んでんなよ」


 七瀬、とは俺の名前。

 こいつは俺の兄貴なのでもちろん俺の苗字も萩ということになる。


「うるさいな、好きに飲ませろよ」


「まあまあ、せっかくの打ち上げだ!楽しくやろうぜ!」

「そーそーくだらない兄弟喧嘩してんじゃねえよって」


「ほら、アサヒとマコも言ってんぞ」

「いやいや、全然言ってないでしょ」


 俺たちの間に割って入った2人は小田 旭と天城 真小夜。

 先ほどアサヒが言ったように、今日は打ち上げだ。


「ほら、仲直りの印に!もう一回乾杯すっぞ!」


「うい、ほれ!七瀬、グラス持てって」


「あーはいはい、わかったって」


「んじゃ、改めて!sevensライブツアーお疲れええええ!」


 ウェエイ!なんて今時大学生でも言わないような声を出して乾杯をするこいつらと俺はsevensというバンドをやっている。

 まあ今、アサヒが大々的に大声で叫んだから知っての通り、sevensのライブツアーを全て終え、打ち上げと称してメンバーで飲みに来たというわけだ。


「あれ、そう言えばアサヒお前、ゆのちゃん呼んだって言ってなかったか?」


「あー呼んだ呼んだ!15分くらい遅れてくるって言ったからもう時期くるんじゃね?」


 ゆのちゃんとはアサヒの彼女である渋谷 優乃だ。

 明るく、誰とでも仲良くできる良い女性だと思う。

 それに口が固くて、俺たちみたいな職業をやっている奴にはとてもありがたい限りだ。

 一緒に入店せずに15分ほど遅れて来るのも、おそらく俺らへの配慮だろう。


「お前ら付き合ってもう2年くらいか?」


「そうだな、そんくらい。てか、お前こそあの超絶におわせ彼女はどうしたんだよ?」


 ニヤニヤしながらアサヒがヤス兄の脇腹をツンツンと突く。


「はあ!?あんなアホ女すぐ別れたわ!知ってんだろーが!」


「あはは、あれはマジでやばかったよな」


 少し前にヤス兄が付き合った女性は、少しばかり有名な動画配信者だった。

 きっかけはまあ、音楽フェスのイベントで今流行りの配信者が多数出演するという話があり、打ち合わせの際に向こうからの熱烈なアピールがあった訳だが。


「あの子のSNSヤバかったよなー!」


「ははは!俺らのバンTの上に化粧品置いた写真なんて露骨すぎて笑った笑った」


 マコちゃんが思い出し笑いでゲラゲラ笑いながら、その彼女のSNSの画面を見せてくる。


「うぇ〜、やっば、この子この投稿消してねーじゃん」


「うわ〜…ヤス兄まじでもう少し女選びなよ」


「うるせえな!可愛かったんだから仕方ねえだろ!ほれほれ、もうそんなモン見んな見んな」


 シッシと手で払うようにマコちゃんのスマホを返却すると「つか、お前はどうなんだよ」とビールを一口飲んだ。


「いやいや俺は、」


「遅れたー!ごめーん!」


 ガラガラ!と勢いよく個室の扉を開け、大きな声で謝罪をしたのは金髪の女性。

 先ほど話に上がっていたアサヒの彼女、ゆのちゃんだ。


「おお、ゆのちゃんお疲れ!」


「いやお疲れは君らでしょーが!」


 あはは、と笑いながらアサヒの隣にちょこんと座るゆのちゃんは、デジタルパネルのメニュー表からビールを注文している。


「お、キタキタ!」


 メニュー表の横にある扉が開き、非対人式に運ばれてくるビールと料理。

 ここの店は俺たちがそこそこ有名になってからというもの、かなりお世話になっている【ミツ】という店だ。


 なんて言ったって、入店から退店まで人に接触しないよう配慮された店なのだ。

 密会や不倫などにも使われているとの噂もあるが、一度店に入ってしまえば誰も見ることが無いのであくまでも噂の範疇だ。


「んじゃ、みんなはもう乾杯したと思うけど…私からも!ツアーお疲れ様ー!」


 楽しそうにそう声を上げ、ビールジョッキを高く掲げる。

 それに合わせるように俺たちも全員ジョッキを掲げた。 


「乾杯!」

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