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束の間の幸せ

「ほおお、話には聞いてたけどホントこの店すげえな」


 ひとしきり騒ぎ終えた俺たちは、店の外でタクシーを待っていた。

 マスターは初めてミツに来たらしく、店の徹底的なプライバシーを守るシステムに終始驚いていて「俺も次の店の参考にするかな」なんて冗談めかして笑っている。


「いやここまで徹底したらマスターの店のコンセプトが変わっちゃうから!」

「会員制カフェバーとかになっちゃう?」


 そんな事を言い合いながらみんなで盛り上がっている。


「そうそう、新しい店が完成したらアサヒの彼女も連れてこいよ」


「ああ!もちろん!みんなにも近いうちに紹介するから!美人だからって嫉妬すんなよ〜!」


 最近、彼女が出来たらしいアサヒは浮かれた様子でそう言う。

 付き合って間も無いという事もあって、まだ一度も会った事は無いが、アサヒ曰く相当な美人らしい。


 まあ、きっとユキの方が美人にきまっているけどな!なんて内心惚気けていると「あ、お前、今ユキちゃんの方が美人に決まってるって思っただろ〜!」とマコちゃんにつつかれた。


「は!?いや、……いや思ったけど!悪い!?」


「あはは!素直かよ!」


「ちょっと、恥ずかしいから!」


 顔を赤らめるユキが手のひらで俺の顔をわし掴む。


「〜〜…ンゴっ!ご、ごめ!」


 そんなやり取りを見て皆が笑い、ユキも楽しそうに笑う。


 ああ、俺はなんて幸せ者なんだ。

 この先もずっとこんな風に、良いも悪いも色んな事をみんなと乗り越えて生きていきたい。

 そんな風に思っていた。


「そういえば、2人はいつ婚姻届出しに行くの?」


 思い出したかのようにマコちゃんが俺たちにそう聞いた。


「ああ、クリスマスに出そうって話してるよ」


「クリスマス?」


「うん、12月25日はユキの誕生日なんだ。だから、誕生日に入籍しようって」


 俺の言葉に、ユキは少し照れくさそうにする。


「わざわざ私の誕生日に合わせなくても良いって言ったんですけどね」


「それにしては嬉しそうだね、ユキちゃん?んん?」


 ユキの言葉と態度にニヤニヤと笑うマコちゃんは「七瀬がロマンチックな事しようとしてるよ〜アニキ〜」とヤス兄まで引っ張りだす。


「あっはっは、俺の弟は俺に似てロマンチストなんだよ!俺に似てな!」


 みんな完全に酔っ払いだな……


「いやいや、お前のどこがロマンチストだよ!」


 アサヒの手厳しいツッコミで脳天チョップを喰らうヤス兄はケラケラと笑いながら、チラリとユキを見る。


 先程までの冗談めいた表情では無い、少しだけ真剣な、そして優しい笑顔だ。


「ユキちゃん、……改めて、七瀬の事よろしく頼むよ。ちょっと頼りない奴だけど、すっげえ良い奴だからさ、…何があっても君を一生懸命守ってくれると思う。だから何かあった時はちゃんと頼ってやってくれな」


 ヤス兄はきっと、ルカちゃんの件で思う所があるのだろう。

 何度か俺も「絶対気を抜くな」と釘をさされた。


「はい!もちろんです。保久さん、……あ!お兄さん、?」


「お、おお……!いいな!それ!いや、いっその事お兄ちゃんでもいいぞ!」


 なんだか新しい扉を開きそうなヤス兄にすかさずアサヒとマコちゃんが絡む。

 そして、そんな光景を楽しそうに眺めるマスター。

 ユキもふざけながらヤス兄に向かって「お兄ちゃん」なんて呼び出している。


「あはは!」


 楽しくて、楽しくて、俺も大笑いした。


 本当に、こんな時間がずっと続けば良かったのに。

 この時間が永遠に続いて欲しかった。

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