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重大な見落とし

「では……報道は否定の方向で進めますね……」


 暫くの沈黙を破ったのは、マネージャーのその一言だった。


「ああ、そうして」


 ヤス兄が短くそう返事をし、緊急会議は呆気なく終了した。


 そして俺はと言うと「一刻も早く帰りたい」そんな気持ちで頭がいっぱいだった。

 ヤス兄とルカちゃんがこんな大変な思いを抱えていたのにも関わらず、薄情な弟だと。我ながらそう思う。


 だが、最早あの先日の手紙がルカちゃんへ届いたソレと同じ物だったのでは……いや、同じ物の可能性の方が高い。

 そんな嫌な予感で思考がいっぱいになっていた。


 事務所を出ると、俺は急いで家へ帰った。


 ガチャン、と強めに玄関ドアを開けると部屋の電気はついておらず、ユキはまだ帰っていないようだった。


「確かここに入れてたはず……」


 ユキが手紙の束を突っ込んだ棚の引き出しを引っ張る。


「え、……無い?」


 あの時、ユキは確実にここにしまっていたはずだ。

 念の為、他の段も確認したが、ソレらはどこにも無かった。


「まさか……捨てた、のか?」


 だとしたら尚更、嫌がらせの手紙の可能性が高い。

 いくら良い思い出のない場所だと言え、やり取りをしている施設からの手紙をわざわざ捨てる必要もないだろう。


 嫌な予感が頭を支配していく。

 まさか、そんな、と。

 家バレはしないように再三注意していたはずだ。

 そんな思いで、もう一度最初の引き出しを引っ張った。


「……っ!」


 勢いよく引っ張った引き出しの隙間から見覚えのある、一枚の封筒がこぼれ落ちた。


 間違いない。これはあの時の束にあったのと同じ封筒だ。

 どこにでもある白い封筒だったが、切手の消印を見れば一目瞭然だ。これに間違いない。


 宛先は【冬川 雪 様】となっている。

 裏面を見ると差出人は書いていない。


 ゴクリ、と唾を飲み込む音が静かな部屋に響いた。


 開封済みの、封のあいた封筒から中の紙を取り出した。


 中には綺麗に三つ折りにされた便箋。


 それをゆっくりと開いた。


「冬川 雪 様ーーーお元気にしていますでしょうか?先日から何度もご連絡している通り、現在施設では児童が増える一方、資金不足が続いております。つきましては施設出身者、成人済みの方へご支援をお願いしておりますーーー?」


 そこまで読んで、天井を仰ぐように目線を上げた。


「…〜~~~っ、」


 言葉にならない安堵の息が肺から流れ出た気がした。


 なんだ、本当に施設からの手紙だったじゃないか。

 やはり家バレなんてしていなかったし、ユキと俺の交際もファンにはバレていなかったんだ。


 そう分かると、勝手に手紙を読んでしまったという罪悪感がじわじわと湧き上がってきた。


「流石に勝手に読んじゃ駄目な物だったよな…これ、」


 支援をお願いするような内容だったが、ユキはどうするのだろうか。

 施設であまりいい思い出が無いと、ユキは俺に話してくれていた。

 聞いた話では施設職員の大人達は、お気に入りの子どもに依怙贔屓をし、気に入らない子には厳しく当たるような人たちだったらしい。


 だが、仮にもユキを育ててくれた人達だ。

 あまり良い人達ではなかったにしろ、その人達がユキを育ててくれたからこそ俺は彼女と出会えた。


 だから、ユキが俺にこの件を相談してくれたなら、俺がこの施設に支援をしてもいい。

 なんて、安堵からなのか、そんな事を軽く考えながら手紙を元あった場所へとしまった。


 だが、この時の俺は大事な事を見落としていた事に気がついていなかったんだ。


 ーーー束になるほどの量だった手紙が何故1枚しかなかったのか。

 それに対して何故疑問を抱かなかったのか。


 ーーーそして封筒に押された消印。

 あの日、手紙の束はテーブルに置かれていたんだ。

 だからあの日より前…その日辺りだったというだけで、その手紙があの日見た物だと。

 そう思い込んでしまったんだ。

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