転機
連絡先を交換したあの日から、俺と雪は頻繁に合うようになっていた。
バンドの方はと言うと、雪のあのたった一言で俺はやる気を出したかのように練習に励んだ。
あれだけ悩んでいたのに単純だと思われるかもしれないが、彼女の為にもっといい演奏をしたいと、そして絶対に売れてみせると、そう思えた。
そしてあの日から3ヶ月、俺と雪は付き合う事になった。
ヤス兄やマコちゃん、アサヒからはバンドを止めようと悩んでいた分、だいぶ茶化されたが、みんな俺の事を応援してくれた。
そしてその頃、同時に俺たちに転機が訪れた。
なんと、たまたま俺たちのライブ演奏を聴いていた音楽関係者から声がかかったのだ。
「君たち、凄く良い演奏だったね!」
「…?あ、ありがとうございます!」
その日はイベントの対バンライブだった為、色んなバンドが参加しており、ファンも様々だった。
その中で、俺たちのライブでは見かけない男性に声をかけられた。新規ファンにしては俺たちのファン層とは随分雰囲気が違う気もするが、褒められて嫌な気持ちになるはずもない。
ヤス兄が不思議そうにしながらも、お礼を言うと「実は僕、こういう者でね…」と懐から1枚の紙を差し出した。
「え、これ…って」
手渡されたのは、彼の名刺だった。
そこには【Music office メビウス】と印字されている。
「ん?なになに?どうした?」
渡された名刺を見て固まるヤス兄に、マコちゃんとアサヒも覗き込む。
「「え?は!?メビウス!?」」
大声を出してそう叫ぶ2人に驚いて俺もヤス兄の手元を覗き込んだ。メビウスと言えば、音楽業界でもトップを争うレベルの事務所だ。そんな名刺を渡されたなんてにわかには信じがたい。
だが、覗き込んだその名刺には確実に【メビウス】と書かれている。
「いやぁ、今日ここに来て正解だったよ。こんな良いグループが埋もれていたなんてね」
そう言いながら笑う男性は「興味、あるかい?」と少しもったいぶった言い方で俺たちを見た。
もちろん皆、答えは決まっている。
「「「「あります!!!」」」」
満場一致、とはこういう事を言うのだろうか。
なんの迷いもなく、声を揃えてそう言った。
それからというもの、トントン拍子に話は進み、あっという間に俺たちはメジャーデビューを果たした。
そこからはもう忙しいのなんのって。ライブや新曲作りも当然の事ながら、テレビやラジオ、CMと引っ張りだこ。
そしてもちろん、雪との交際も順調だった。
だが、俺たちが有名になった事で必然的に雪との交際はお忍びとなってしまったが……
それでも、俺たちは十分に幸せだった。
そうだ、幸せだったはずなんだ。




