表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王立図書館長が突然辞職することになったのですが、なぜか部下の私に求婚してきました  作者: 杜咲凜
第一章 突然のプロポーズ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/45

16.リタ、結婚式をおこなう 2 

「聖なる神の前で誓いなさい。

 病める時も健やかなるときも――」


 司祭の声が、静かな教会に響く。


「誓います」


「誓います」


 言葉は、思っていたよりもすんなりと口から出た。


 祈りのあと、館長の家に代々伝わるブルーダイヤの指輪が、リタの指にはめられる。

 ひんやりとした重みが、現実を少しだけ引き寄せた。


 そして、ベールが上げられる。

 見上げた先には、白いタキシード姿の館長。

 いつもより整えられた髪。

 なのに、どこか見慣れたままの表情。


(不思議……)


 そう思った瞬間、自然と目を閉じていた。

 ふわりと、触れたか触れないかのキス。


 一瞬だった。

 でも、それだけで体が熱くなる。


 視線が集まっているのがわかる。

 儀式だとわかっていても、やっぱり恥ずかしい。


「リタ、行こう」


 手を取られる。

 そのまま腕に手を添え、ゆっくりと歩き出す。


 視線の先には、家族。

 両親、兄、妹夫婦。

 そして小さな甥たち。


 館長の両親と、ローラ。

 その隣には、金髪の小さな男の子――天使みたいな子が立っていた。


 みんな、笑っている。

 祝福されている。


 なのに。

 リタは、ふとローラを見た。


(……どんな気持ちなんだろう)


 好きな人が、別の誰かと結婚する。

 それを、ただ見ていること。

 もし自分だったら――きっと耐えられない。


 でも。

 リタだって、館長が好きだ。


 だからこそ、考えてしまう。

 この場所に立っているのが、自分でよかったのかと。



 *****

 


 教会を出ると、馬車が待っていた。

 そのまま近くのレストランへ移動し、ささやかな会食が始まる。


 時間は穏やかに流れていった。

 リタの家族は、館長の両親の様子を見て、どこか安心したように帰っていく。


 そして――一番の懸念だった館長の父。

 完全に認めたわけではない。


 それでも。

 リタの兄の働きぶりや、父の過去を知ってから、態度は少しやわらいでいた。


 父はかつて、戦場にいた。

 大きな戦で功績をあげ、しかし負傷して退役した。

 その後、パン屋を開き、今の生活がある。


 館長の父――リッカルドもまた、若い頃は軍にいた人物だという。


 酒を酌み交わし、言葉を交わし。

 気がつけば、リタを「認める方向」へと傾いていた。


 

*****

 


 すべてが終わる頃には、さすがに疲れきっていた。

 ドレスを脱ぎ、用意された寝巻に着替える。

 メイドのメグが静かに部屋を出ていったあと、リタはようやく息をついた。


 けれどふと、気づく。


(これって……)


 薄く透けるレースの寝巻。

 慣れない柔らかさ。


(……初夜、だよね)


 一気に頭が真っ白になる。


 キスだって、ほとんど触れただけ。

 それなのに、この先なんて――

 考えただけで倒れそうだった。


 ベッドに入る。


 心臓の音だけが、やけに大きい。

 でも――待っても、誰も来なかった。


 そのまま、いつの間にか眠ってしまって。

 気がつけば、朝だった。

 隣には、誰もいない。

 人の気配もない。


(……これで、いいのかな)


 わからない。

 前世でも、結婚なんてしていない。

 夫婦がどう過ごすものなのか、知らない。


(貴族だから……?)


 部屋はたくさんある。

 別々に寝るのが普通なのかもしれない。


 そう思うことにした。


 今日から――

 リタ・マーセルではなく、リタ・マートン。


 それなのに。

 まだ何ひとつ、変わった気がしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ