表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王立図書館長が突然辞職することになったのですが、なぜか部下の私に求婚してきました  作者: 杜咲凜
第一章 突然のプロポーズ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/45

15.リタ、結婚式をおこなう 1 

 王都の郊外にある、小さな教会で式を挙げることになった。


 朝から支度があり、リタは淡い青のワンピースを着て、少し早めに家を出た。

 教会までは歩ける距離だ。今日はバスを使わず、そのまま向かった。


 両親は午前中だけ店を開けるらしい。

 朝の仕込みもあるし、常連客もいる。


 挙式は午後から。


 貴族との結婚式ではあるが、館長とリタの希望で、参列は近しい人たちだけになった。


 ただし、それで終わりではない。


 領地に行けば、土地の有力者たちとの懇親会を兼ねた披露の席がある。

 親族への正式な紹介もあるので、もっと大きな場も後日予定されていた。


 けれど。


 結婚式そのものだけは、自分たちの形で。


 それが館長の希望だった。


 リタは基本的に、その方針に従っている。

 というより、特に意見がない。


 平民と貴族の格差婚。

 自分にできるのは、せめて粗相のないようについていくことだけだと思っていた。


「リタ様、ルーシー様がお見えです」


 メイドのメグが、控えめに声をかけてくれた。


 リタの支度を手伝ってくれたのも、メグだった。

 これから何かと身の回りの世話をしてくれる人らしい。


 真面目で、よく気がついて、隙がない。

 優秀な人だと思う。


 ただ、そのぶんきちんと線を引いている感じもして、リタは少しだけ距離を感じていた。

 仲良くなれたらいいな、と思ってはいるのだけれど。


「ルーシー!」


「お姉ちゃん!」


 くりっとした大きな瞳。

 そこにいるだけで、場がぱっと明るくなるような華やかさ。


 妹のルーシーだ。


 リタは思わず駆け寄って、ぎゅっと抱きしめた。


「ごめんね、なかなか来られなくて」


「ううん。来てくれるだけで嬉しいよ」


 その言葉だけで、胸がじんとした。


 本当は、結婚のことを一番に報告したかった相手だ。

 小さい頃から、ルーシーはいつもリタを助けてくれた。


 明るくて、活発で、賢くて。

 優柔不断なリタにとって、頼れる妹。


 妹でありながら、一番の友人でもあるような存在だった。


 けれどルーシーは学院卒業と同時に結婚し、今では二児の母だ。

 下の子が生まれてまだ日が浅く、無理に実家へ来てもらうわけにはいかなかった。


 だから結婚の報告も手紙になってしまったのだ。

 こうして直接会えるのは、今日が久しぶりだった。


「お姉ちゃん、ちゃんと見せて」


 ルーシーが一歩下がって、リタをまじまじと見つめる。


「……きれい!」


 屈託のない言葉。


 それだけで、少し泣きたくなった。


 ルーシー自身も桃色のドレスを着ていて、とても華やかだった。

 数年前、彼女の花嫁姿を見たことを思い出す。


 その時は、自分がウエディングドレスを着る日が来るなんて、本当に思っていなかった。


「髪、伸ばしたんだね。似合うよ」


「ありがとう」


 リタはもともと肩くらいまでの長さだった。

 でも結婚式で髪を結い上げる都合もあって、少しだけ伸ばしていた。


 いつもより丁寧な化粧。

 慣れない宝石。

 細かな刺繍の入った靴。


 全部が自分のものではないようで、まだ落ち着かない。


 まるで夢の中みたいだと思う。


 眠ってしまったら、明日にはいつもの日常に戻っていて、全部なかったことになっているのではないか。

 そんな妙な感覚さえある。


「ルーシーの旦那さんは?」


「外で子どもたちを見てくれてる。庭が広いから、走り回りたくて仕方ないみたい」


「もうそんなに動けるようになったんだ」


「下の子はまだだけどね。ほんと大変!目を離すとすぐどこか行っちゃいそうで」


 楽しそうに話すルーシーを見ていると、やはり眩しいと思う。


 リタは、自分で道を決めることが少なかった。

 兄や両親が選んだ道の先に、なんとなく自分も進んできたような気がする。


 でもルーシーは違う。

 自分で決めて、自分で動く。

 子どもの頃からそうだった。


 一人で旅に出るような真似を、リタはとてもできなかった。

 けれどルーシーは、まだ幼い頃から母方の祖父母の家へ平気で行ってしまう子だった。


 妹なのに、ずっと憧れていた。

 でもそんなルーシーが、姉であるリタを大好きだと言ってくれる。

 そのことが、どれほど嬉しいか。


「それより!」


 ルーシーがぱっと身を乗り出す。


「お姉ちゃんの旦那さんって、館長さんなんでしょ?びっくりした!」


「うん……私もまだ信じられないくらいで」


「え、それどういう意味?」


 くりくりした目が、さらに丸くなる。

 リタは少し困ったように笑った。


 リタは、表情が薄いと言われることがある。

 ぼんやりしていて、感情が抜け落ちているように見えるらしい。


 窓の外を見ていると、どこか別の世界へ行ってしまいそうになることもある。

 ルーシーとは、本当に違う。


「うーん……」


 リタは少し考える。


「詳しくは、私もまだわからないの。けど……」


 言葉を探していると、ルーシーが先に頷いた。


「お姉ちゃんが選んだ人なんでしょ?それならきっと大丈夫」


「あれ、ルーシーって館長のこと知ってる?」


「学院の時に、職場案内会があったの。説明してくれたことがあって」


 なるほど、とリタは思う。

 ルーシーも兄と同じく、学院ではとても優秀だった。

 勉強だけでなく、運動もできた。

 明るくて可愛らしくて、進路案内の時は引く手あまただったらしい。

 けれど彼女は卒業後、祖父母の暮らす村の青年と結婚した。


 幼い頃からの知り合い。

 同じく学院を卒業したその青年は、祖父母に後継者として見込まれていた人だった。


 今では二人で村を支えている。

 新しい名産の開発までして、王都でも少し話題になるくらいだ。


「ありがとう。ルーシーがそう言ってくれると、大丈夫な気がする」


「もう、お姉ちゃん。もっと自信持ちなよ!」


 ぴしっと言われて、リタは少しだけ笑った。

 本当に、どちらが姉なのかわからない。

 けれど、そんなルーシーだからこそ頼りになる。


 結婚して、貴族社会に入れば、これまでのようには会えなくなるかもしれない。

 気軽に手紙を書いたり、ふらりと会いに行ったりすることも難しくなるかもしれない。


 それでも。

 姉妹であることは変わらない。

 この絆だけは、ずっと途切れないでいてほしいと、リタは心から思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ