人質生活89日目
アリディンバリス。
ロウトン家では領主が、占い師に悩み事を相談していた。
「…限界なの。メリンダが悪夢に出てきて。お父さまのこともあるし、家の体面を保つことも、亡くなった娘のことを考えないようにするのも、もう限界」
占い師は深くうなずいた。
「そのお悩みは決して領主様から来る問題ではございません」
「私から出た問題でなくても、私に帰ってくる問題なの」
「原因がございます。このアリディンバリスの空気が、お父さまの身勝手な振る舞い、そしてメリンダ様の事故を生み出したんです。原因…つまり”問題”は、完全に外部からやって来るものなのです」
「え…?」
「国が独立してからやっと100年になりますが、トーラティカの脅威を退けるため、富国強兵ばかりに力を入れてきました。その結果、平民、貴族だけでなく、肝心な王族の精神がすさんでしまったのです。目先のトラブル解決や程度の低い平民の声ばかりに耳を傾け、その結果、国の長としての優雅さ、洗練された心を失ってしまったのです…そうは思いませんか?」
「市民のことを気にかけてくれている良い王家だとばかり思っていたけど、そう言い換えればそうなるかも…?」
「理想を追い求め、夢や希望に満ちたビジョンを示せない施政者など、リーダーらしくありません。アリディンバリスの鬱屈した雰囲気、停滞ムードは、他でもない国王様が作り出しているんです。そもそも、国を動かしているのは国王様ではございません。他でもない、ロウトン様のような貴族の方々でしょう?領地と領民を治めているのも貴族。さらに王国議会は貴族の代表で運営されているのです」
メリンダの母は、臣下として王城で議員をやっている叔母を思い浮かべた。
「確かにね。実際には国を動かしているのは貴族なの。よく言ってくれたわ」
「事実を述べたまでですよ。国王様は議会で一生懸命仕事をしている貴族の皆さまを妨害しているという話もあるのですから」
メリンダの母は笑った。
「それはちょっと言い過ぎだと思うけど…フフ、私は先王ディヴィーナ様のファンだったから、今の国王様には文句があるかも」
「理想を高く掲げた国家だけが、その理想に近づけるのです。謙虚な姿勢、思いやりのある振る舞い、そして法の順守、道徳的な行い…」
「…」
「どうされました?」
「法の順守、道徳的な行い、ね。例えば、窃盗についてはどう思う?」
「本当に嘆かわしい話ですが、盗みは平民から貴族にまで広がっています」
「!?」
「ご存じありませんか?王城では盗みが頻発しており、レジナルド様の生霊のせいだとも噂されております」
「あのワガママな第二王子の生霊なら物を盗むぐらいやりそうだけど…」
「それだけではございませんよ。損得勘定だけで動くという平民のような行動が貴族間でも流行し、きょうだいの間でもモノを盗ったり、盗られたりすることが当たり前になっているともお聞きします」
「信じられない!そんな道徳に欠けた教育をしてる家もあるの?」
占い師は世の中で起こる悪事の全てを、王家の問題として話した。
「しかし、モルリヴァールの王族、貴族の間では、これらの問題は一切起こっていないんです。例外が起きたとしても、しっかりと処分されるそうで」
「流石モルリヴァール…いえ、アリディンバリスの王家が上流階級としての手本を示せていないだけかも」
「…悲しい事ですが、若い王子様、王女様の間でもモラルのない行いが当たり前になっているようで。王位継承権のないいとこ様を虐めて半殺しにしたり、毒を飲ませて暗殺を試みたり、散々なご様子だと」
「ええっ!?叔母さまからの手紙には、そんな報告は無かったけど…?」
「隠ぺいされているのでしょう」
「なんて酷い。そして王子、王女の立場とは言え、子供が親族を虐待しているのを知りながら、国王様が何もしないというのも…酷すぎる!」
「むしろ、国王様にとっては弟、妹さまのお子様は邪魔な存在ですからね。いとこをいびり殺すのも、帝王教育の一環だとのお考えなのでしょう」
メリンダの母は目に涙を浮かべる。
「それは…でも、王位継承権がない甥や姪を…!?」
「あまりに残酷です。じつは、私たちはチェルシー様の息子であるバーナビー様を王城から救出しようと作戦を立てているんです」
「ええっ!?!?!?」
「チェルシー様はリトルトン家の領地へ、領主として出向されました。ご存じですよね?王城に残されたのは、ご子息のバーナビー様ただひとり…」
「知ってはいたけど…バーナビー様が大変な目にあっているだなんて…あんな無害そうな王族を!」
「バーナビー様を守ってくださる方は誰一人として居ません。もし、議員や大臣を務められている方が手を差し伸べれば、領地に罰を与えるとまで国王様がおっしゃられたとか。ハッキリ言って、亡くなられるのも時間の問題でしょう」
「…この事を、夫にも話していい?」
「勿論です。しかし内密に、家族の外には漏らさないと誓ってください。絶対に」
――――――――――
アリディンバリス、ブラウン家の領主の家。
「ハァ…ハァ………」
アンは両親を魔法で攻撃した。
「説得だなんて…何を考えてるの…!?」
部屋から飛び出て、廊下を歩いていた使用人に駆け寄る。
アンの体には、魔法を封じるロープが巻き付いたままだ。
「おばあさまはどこ!!」
「…」
使用人の目は冷たい。
「…アン様。落ちてください、奥様と旦那様は?」
「わ、私が傷つけてしまって…でも、まだ息はあるの!回復魔法使いを呼んで!!お医者さまも!」
「落ち着いてください。まず確認いたしましょう」
使用人は部屋に入った。
アンの父親と母親が、血を流して倒れている。
「わかりました。まずはロープを外しましょう」
「これ、何なの…」
「西側の国で作られた魔法道具です。魔法が使えなかったでしょう?一見ただのロープに見えますが、中に魔法石が埋め込まれているんです」
「…え?」
ロープがほどかれたその瞬間、使用人は金切り声を上げた。
「キャアアアアアアアアアアアァァーーーーッッ!!!!!!イヤァーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
「!?!?!?!?」
バタバタと足音が近づいて来る。
何も知らない使用人と従者が混沌としている部屋を見て驚く。
「ど、どうされました!?」
「これは…なんて酷い!」
「あ、アン様が…」
「!?」
――――――――――
「どういう事なの、アン?」
「違うの、おばあさま!私はお父さまとお母さまに監禁されていたの!…本当なの!信じて!!」
「風邪で寝込んでいるって聞いていたけど…どうして」
「それはウソ!お父さまとお母さまがついたウソなの!!」
部屋に侍女が飛び込んでくる。
「一命を取り留めました!今、回復魔法で治療中です!!」
「そう、良かった…」
領主である祖母は険しい顔をしてアンに向き直る。
「監禁?なぜそんな事を?詳しく話して」
「あ、アリディンバリスが独立を続ける理由はない、モルリヴァールに復帰するべきだって繰り返し聞かされて…私にも、同じ考えを持つようにって強要してきたの…今の王族はレジナルド様みたいに、税金を湯水のように使う無能しか居ないから、いとこ様に王座を譲るべきだって…」
泣きじゃくるアン見て、祖母の顔色が変わった。
「…本当に、そんな事を?何故?」
「な、なんでかなんて!!聞きたいのはこっちだから!!う、ううっ…グスッ…」
「そんな…娘たちが…!?」
「い、いとこ様が国王になった際には、私が王妃になって、お父さまもお母さまも貴族じゃなく、王族になれるかもって…」
部屋に誰かが入ってきた。
アンの3人の兄だ。
「おばあさま、その話はウソだ!事実は真逆なんだ!!」
「!?」
「アンが王城への奉仕から帰って来るのが、余りにも早かった、そうは思わない?」
「ちょっと待ってお兄さま達!今、その話は関係な…」
「許可なく調査してごめん。大叔父さまと手紙でやり取りをしたんだ。そして、使用人長のコーラさんに説明してもらったんだけど…」
「それは………違う!違うの!そっちの方がウソなの!!」
「何がウソなんだよアン!言ってみろよ!」
「く、クリスティーナってヤバい子がいて、その子に嵌められたの…」
祖母はアンから離れた。
「なに、何の話?」
兄は手紙を差し出す。
「アンは王城で盗みを働いていた」
「!?」
「わ、私はこの家のことを思って…だって…貧乏で、屋敷だって雨漏りも酷いし…」
兄たちは首を振った。
「だから私たちがダンジョンに潜って仕事をしているんだろう。金の心配なんてすべきじゃなかったんだ」
「そ、そんな危険な仕事は本来冒険者たちにやらせるべきで、貴族であるお兄さまがやるべき事じゃない!それに、地上のモンスター討伐だって…命がけでやっていて…どうして………」
「貧乏でも貧乏なりに暮らしていけるじゃないか。なぜ盗んだ?」
「………」
「お母さまの口座に大きい金額の振り込みがあった。侍女ならともかく、使用人にはここまでの手当ては出ない」
「………」
祖母は黙って聞いている。
兄は続けた。
「ロウトン家のメリンダさんと親しくしていたようだが」
アンの体がビクッと跳ねる。
「彼女の死にも関係が…」
「ない!!!!それだけは!!!!ないの!!!!」
「メリンダさんも”盗み”に関わっていたそうだ」
「…」
「まさか、口封じに…」
祖母が剣を抜いた。
「ロウトン家の娘さんの訃報を聞いたとき、痛ましい事故だと思った。でも、まさかあなたが…」
「お願いウソ、ちがう、本当に…!ごめんなさい!盗んではいたけれど、それは全部家を思ってのことだったの!お母さまに送ったの!ねぇ、許して…」
「恥知らず…」
「メリンダとは友達だった!彼女を殺してなんか…」
兄は畳みかけるように言った。
「今さっき起きた騒ぎだってウソなんだ。使用人がすべて話してくれたよ。アンはモルリヴァールへの復帰を狙う一派に引き入れられ、帰ってきてからもその活動をしていたらしい」
「!?」
「お父さまもお母さまも、その考えを正すためにお前を閉じ込めたんだ。監禁なんかじゃない。アリディンバリスの独立を終わらせようなどと、間違った思想を…一体誰から!?」
「お願い、ウソ、全部ウソ!!!!お父さまも!お母さまも!使用人も!全員で私を貶めようとしている!私はアリディンバリスを誇りに思って…」
剣が降り上げられる。
「ブラウン家の恥はブラウン家がそそがなくては」
叫び声と共に、アンは短い生涯を終えた。
――――――――――
アリディンバリス。
窃盗品の売買を繰り返し、最後には自ら盗みに手を染め死んでしまったウォルター。
その母、オーガスタ・トムソンは、親しい親戚や友達とおしゃべりをしていた。
侍女も共に席に着き、日ごろの悩みをアレコレ話す。
同年代の親戚の女性が冗談めかして喋る。
「ねえ、今日は、”お友達”や、”知り合い”の話をしない?」
「どういうこと?」
「私の”友達”の話なんだけど…最近、いえ、ここ数年、夫との夜の関係がなくて…どうしたらいいと思う?」
皆クスクスと笑い出した。
オーガスタもあらまあと口に手をやり、隣を見ると親戚もその侍女も笑っている。
「”お友達”は、結婚生活ももう20年以上でしょう?お子様だって大きいし、ねぇ?」
「それは諦めたら?お互いにいい歳でしょうし」
「ちょっと、込み入ったお話が過ぎるんじゃない?これって…フフッ…」
クスクス笑いが、さらに笑いを誘う。
次から次へと”知り合い”の話が出て、それはだんだん深刻なものになっていった。
「勝手に馬車を持ち出されるの。どう思う?家はもう親等的に貴族ではないんだけど、それでも立場は上なんだから、弁えてもらいたいだけなのに…」
「叔父がいつまでも家に居て、それは構わないんだけど、お父さまに対して”兄である私が領主になるはずだった”と煩いの。酒に酔えば私にボディタッチもしてきて、本当に嫌になっちゃう。どうすれば合法的に追い出せると思う?」
「税金は100%、納めた領地で消化されるべきじゃない?ろくすっぽ稼げもしない貧乏領地へ流れていくのはもうたくさん。ダンジョンもカラカラ、スポーンするモンスターも山ヒトデやジャッカロープばかりの土地で、何を整備するって言うの?」
話はだんだんと王政への愚痴になっていった。
「知ってる?モルリヴァールではこういう問題が一切ないんだって」
「モルリヴァールが羨ましい。やっぱり、千年続く王国には千年分のノウハウがあるんじゃない?」
「もっと積極的に留学生を交換すればいいのに。貴族だけじゃなく、体面なんて捨てて王族こそ学びに行って欲しいわ」
「王族だけじゃない、膿は色んなところに溜まっていて…」
オーガスタは耐えられずに告白してしまう。
「し、”知り合い”の話なんだけど。秘密の実験がおこなわれていて、そこに兵士を参加させていたの。でも、その実験に参加させられていた兵士は死んでしまって…」
全員がピタッと止まった。
「その話、苦しくなければ話して?」
「…トーラティカの侵攻に備えて、人造ドラゴン?を作っていたとかで。その事故で…兵士が…」
その場にいる全員は、ウォルターの死を知っている。
葬式にも参列した仲だ。
「そんな大変なこと、どうして今まで黙っていたの?」
「信じられない、国の過失じゃない!国王様から直接の謝罪は?」
「それが、兵士の部隊が進めていた計画で、国王様もご存じない極秘の開発だったらしくて」
「国王様の責任を軽くするためについたウソに決まっているじゃない」
「…」
「部隊だけでそんな大がかりなプロジェクトを進められるわけないでしょう?絶対に国王様も関わっていると思う」
「…」
「ああ、私たちが納めた税がそんな恐ろしい計画に使われていただなんて。ウォルターだけじゃないはず。きっと、何人もの子供が、人造ドラゴン?の事故で亡くなったに違いない!」
ざわざわとみんなが騒ぎ出した。
友人や親族に慰めてもらってオーガスタは気持ちが軽くなる。
実際には窃盗からの処刑だったのだろうと予想はしていても、息子が死んでしまったという事実に変わりはない。
それにギャンブルと借金、窃盗罪だけが息子の残した物だったと受け止めることはあまりに辛く、彼女の心もだんだんと”ドラゴンゴーレムの管理の最中に亡くなった”という虚偽の報告を受け入れるようになっていた。
現実逃避のための偽情報の上塗りなのだが、それで折れそうな精神を保っているのも事実だった。
息子本人にではなく、外部に過失があったというのは一種の救いだ。
「ねえ、オーガスタ。あなた、口は堅い?」
「もちろん」
「実は、今の国王様を倒して、いとこ様に王座についてもらおうという計画があるの」
「む、謀反!?そんな…」
「大丈夫。もし計画に賛同してくれるなら、トムソン家から王城に来ている従者、侍女、使用人、それに議員も、絶対に傷つけないと約束する」
「オーガスタのお父さまは領主でしょう?お父さまを説得してくれない?お願い」
「もし、国王が倒れれば、悪事も全部明るみになる。そうすれば、アリディンバリスはもっと良い政治の仕組みを取り入れるでしょう。私たち貴族も、平等で明るい暮らしができるはず!」
親族はウォルターの死因に激怒し、今のままの王家ではいけない、と激しく怒りを共有する。
その後、1時間以上かけてオーガスタは説得されてしまった。
オーガスタの父親も意見を同じにし、孫を殺されてしまった悔しさを国王に向ける。
――――――――――
アリディンバリス。
クリスティーナはクリスタル・ミンク牧場に来ていた。
愛しのユージーンと会えて、クリスティーナは花が咲いたような笑顔を見せる。
そのユージーンも笑顔で彼女に挨拶した。
「元気だった?ご家族はどう?」
「…えっと、私は元気だけど…」
クリスティーナは一瞬だけ口ごもり、すぐに”みんな元気”と答えた。
姉が転生させ女神に拉致され、金網の中でデスマッチをさせられているとは、どんな非常事態なのだろう。
絶対に話せる訳が無かった。
「クリスティーナは少し前まで王城で奉仕していただろ?凄いよね、憧れだよ!王城は、私のような平民なら足も踏み入れることが出来ない場所だから。兵士だって使用人だって、貴族だけが就くことを認められているし」
「ウフフ…そうなの。王都は都会だし、やっぱり領地に居るだけじゃ経験できないような思い出もたくさん作れて。王城へ奉仕に出て本当に良かった」
「家名のために一生懸命頑張ってたクリスティーナは本当に偉いね」
クリスティーナは褒められて嬉しそうにしている。
「羨ましい事といえばまだあるよ。王族の方々とお会いしていたんだよね?」
「う、うん…」
その王族の部屋から盗みを働きまくっていた。
後ろめたさを感じて声が小さくなる。
「実はね…転生させ女神様から啓示を貰った王族がいるって知ってる?」
「えっ!?啓示?なにそれ…あの身勝手女神の啓示?全然ありがたくないんだけど…」
「えっ?」
「あ、ああいや、こっちの話!それで、啓示って何?」
「…クリスティーナは口が堅い?」
世界で一番柔らかい。
「もちろん。他人に秘密を洩らさないから、私の所には極秘情報が集まるの♡」
「信頼されてるんだね。じゃあ、話すけど…誰にも言わないと誓って」
「誓う誓う♡秘密話大好き♡」
「実は…バーナビー様が転生させ女神様から、王になるようにと啓示を受けたそうなんだ。すごく神秘的で喜ばしいよね」
「………は?」
「びっくりだよ。あの虫捕り大好きな転生させ女神様が、まさか政治に口を出してくるなんて。やっぱりアリディンバリスは転生させ女神様の寵愛を受ける世界でただ一つの国なんだ」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっっっと待って。情報が混乱してるけど。まず、虫捕り大好きってどういうこと!?」
「私がまだ11、12ぐらいの頃の話なんだけど」
「うん…」
「転生させ女神様と一緒に虫捕りをして遊んでたんだ。何度も。あの人は蝶とトンボが好きだった」
「ビックリ。私のおばあさまも、幼い頃に転生させ女神様とお会いしたことがあるんですって。でも、何度も遊んだなんて…どうして今まで黙っていたの?」
「恥ずかしいからだよ」
「?」
「私は無礼にも、転生させ女神様に結婚を申し出たんだ」
「ふふっ、いかにも子供って感じで可愛いじゃない!」
「でも、転生させ女神様が真面目に”お前の性癖を捻じ曲げるつもりはなかった、ごめんな?”って謝罪してくださって…それ以来、転生させ女神様はご顕現してくれなくなったんだ」
「性癖?」
「転生させ女神様は身長が3メートルぐらいあった。いつも”背が高いほうが、高いところにいる虫を捕りやすいぞ!”って言ってたなぁ」
「………巨女じゃなくてごめんね?」
「いやいやいや!!もう昔の話で、今はクリスティーナみたいな女子が好きだよ」
クリスティーナは金網キャットファイトの会場に居た転生させ女神を思い出した。
「確かに大きかったけど………3メートル?私がつい最近お会いした時には5メートルぐらいあった気がしたな?」
ユージーンの顔が真っ赤になる。
「まだ大きくなり続けている…!?あの…私を掴んで持ち上げた大きな手が…さらに大きく…?」
「ゆ、ユージーン?」
「あっ、いや…もう全然未練なんて無いよ!第一、転生させ女神様は人間じゃないし、気まぐれだし、世界の管理者だし、私たちが暮らす世界とは別の場所にいる存在だからね。まったく未練なんてないんだ。全部吹っ切ったよ」
「そう、それならよかった♡」
ユージーンは従者に茶を入れ直させた。
「君に、婚約を申し出たいと考えている」
「…っ!」
今度はクリスティーナの顔が赤く染まる。
「よ、喜んで…」
「いいパートナーになれるように努力するよ」
「私も…今までの人生を反省して、ちゃんとした大人になりたいと思っていたの。まともな配偶者になれるよう、努力する。誓う」
ユージーンはクリスティーナの唇に顔を寄せ、キスした。
彼は、自分をさらいに来てくれるならこのタイミングだよと顔を上げたが、空には秋の薄い水色が広がるばかりだ。
しかしまだチャンスはあると考えた。
結婚の誓いをするその瞬間、空から手が伸びてきて、自分を掴んでさらってくれないかと妄想する。
――――――――――
トーラティカのカントリーハウス。
「寒い~!!外を見ろ!雪がチラついているぞ!」
「もう落黄の月の6日ですからね。こんな雪はすぐに溶けてしまいますよ。残るようになってからが冬本番です」
ありがたいことに、タフタフリッチの仕立て屋からはサイズを直させた服、そして新しく作らせた冬服が届いていた。
「この屋敷で冬を越せなかったら…俺はどうなるんだ?アリディンバリスに帰れるのか?」
「土に還りますでしょう?」
「クソっ…!!」
寒がりなレジナルドを哀れに思ったのか、優越感を感じたのか、全身暖かなトープが飛びついてきた。
レジナルドの腕の中でズモモ…と大きくなる。
ゴールデンレトリバーぐらいの大きさに膨らみ、びろーんと長くなった。
重量に耐えきれずレジナルドは床に倒れ込み、転がる。
「おお、暖かだ。この肌触り、転生させ女神様が愛するのも分かるな」
そのほほえましい光景を見たビルも笑った。
「すごーーーく大きくなって、毛皮になれば、転生させ女神様を温かくして差し上げることもできますね」
トープは器用に、汗のアイコンを空中に出す。




