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人質生活87日目

アリディンバリス、ネイ家の領地にある魔法石採掘場後には、ぼちぼち建築資材が搬入されていた。

学校の建設…なら良かったのだが、その実態は、ちょっと大きめの邸宅を建てるだけなのだ。

「水脈はあるか?」

「ございます、上水はここから水を引き上げましょう。下水ですが…」


なろう世界では下水の処理方法について、大抵”クリーンで便利な方法”が存在する。

「ワンダー浄化槽を設置するのにちょうどいい採掘穴もございます」


驚異の浄化槽により、家庭や企業から排出される排水は99.999%の真水に戻る。

なんなら降りっぱなしの雨より清浄な水だ。

まず大腸菌などの細菌・真菌は消え、微生物、有機物、化学物質、重金属、ミネラルなども除去された清潔な水分に戻るのである。

それなら再利用して飲用水にすればいいじゃん、と思われるかもしれないが、なんとなく嫌な気分になるので流石にそれは地下に流すことが一般的だ。


…というわけで地下から汲み上げている水には、清潔にされた排水がある程度混じるのだが、まあ一度地面を通ればそれほど穢れを感じない、というかそういう事にしておこうね、という雰囲気で結局再利用されている。

現実的な運用のおかげでどこでも家が建てられるのだ。

「ミラクル汲み上げポンプと驚異パイプを設置しました」

「ワンダー浄化槽もOKです!」


水源の察知には水魔法が使える人材、そしてパイプの設置には土魔法が使える人間が活躍する。


――――――――――


肝心のネイ家領主は、生徒集めに動き出していた。

わずか4人という少人数だ、まずは領地内で集めたいと考える。

子供がいそうな知り合いに、手当たり次第に手紙を送ろうとしていた。

「…学校に通わせることをお考え下さい、っと、こんな感じの文章でいいだろう…ハァ。こんな謎の計画に、1年間子供を預けるペアレントがいるか?私なら絶対に嫌だな、ガハハ!」


そう話しかけられた水グマは時計を見た。

「そろそろ教師の希望者が着く頃だ」

「…熊が面接を?世界初じゃないか?」

「お前も来いよ!?」


お前、と呼ばれたのはハーパー・ネイの叔父、マイケル・ネイ。

マイケルの妹はハーパーの母親で、姪と叔父の関係だ。

ハーパーとは実の親子のように仲が良い。

部屋のドアを従者が叩く。

「旦那様、お客様です」

「応接間に通せ」

「もうご案内済みです」

「よっしゃ行くぞ!」


――――――――――


「…」

「…」

「さっさと質問」

「お名前は?」

「ビアンカ・シュタット」

「知ってる」


ビアンカはネイ家で家庭教師をしている。

「従者め、何が”お客様”だ」

「裏門から出て、正門から入り直した。従者にはお客様だと伝えてと頼んだ」

「ハァ」

「ネイ家の子供たちには別の魔法教師を探してあげて。私は10年も働いたから飽きちゃったの」


水グマはアゴを撫でた。

「さすがに教師まで身内で済ませるのはなぁ」

「問題?なら10年間放浪の旅に出ていたことにして、経歴を偽装すれば?」

「マイナスの方向に履歴書を偽装するヤツを見たことないが…ぶっちゃけ正直なところ、このぐらい気の知れた仲でないと初年度はやっていけないかもな」

「それって…給料が出ないって意味!?」

「どうしてそうなる?」


マイケルは正直に、どれだけ魔法学校がショボいかを話した。

「…理解した。ネイ家への利益誘導を成功させられるのは私しかいない。適任だから雇って」

「単刀直入が過ぎるぞ!もう少しオブラートに包め!」

「この困難なプロジェクトに挑戦できるのは私だけ。失敗してもツラっとこの屋敷に戻ればいいし」

「いいぞ、その意気込みだ!」

「そうかぁ?」


夫に困惑されつつも、マイケルは教師を決定した。


――――――――――


そしてマイケルの予想とは裏腹に、手紙を送ってもいない場所から、先に4通の入学希望届けが着いてしまった。

「げげっ…一体何がどうなってるんだこりゃ…!」

「議会で何度も議論して可決されたんだ。そりゃ魔法学校に興味のある臣下はみんな故郷に手紙を送っただろうし、入学に意欲があれば、直接学校のある場所の領主に手紙を送ってくるヤツもいるだろう」

「万が一、失敗があったら揉み消せなくなるだろ~!知り合いで席を埋めるつもりだったのに…そうすりゃバカ高い入学金も多少キックバックしてやれるし」

「我がパートナーながら最低の領主だなぁ?」


一通ずつ審査する。

「ええ~と…ランドルフ・ウェッブ、18歳…おいおい、ウェッブ・ルートのウェッブ家だぞ!」


ウェッブ・ルートとは、アリディンバリスで最も広い範囲をカバーする配送業者の社名だ。

離島なども船便や羽のあるモンスターでフォローしている。

あまりにも田舎だとパートナー企業に荷物を渡すところまでしかしてくれないが、それでもアリディンバリスの血液と例えても過言ではない運送業者だ。

水グマはぼそっと言った。

「ウェッブ家みたいに、規模がデカい商売をしているところは、平民から貴族に格上げされるかもしれないってな。知ってたか?」


マイケルは片眉を上げる。

「そりゃ法律案が議会に提出されているだけだ。実現はしない。言い切れる」

「いつまでも領地を与えた家だけを貴族としているのは古いだろ~?西側の小国みたいに、ビジネスで成功している家を2流3流の貴族にしてやればいいんだよ。そうすれば積極的に税金も納めるようになるし、商売で好き勝手するヤツらの勢力も、国家治安維持の名目で抑えられるようになる」

「急進派だなぁ…そんな熊だとは思わなかった。フン、土地と民を管理していない者が貴族だなんて…」

「…んんっ!?最後まで手紙を読めよ!」


手紙には、”入学が叶えば1000万といわず、5000万ゴールドの寄付をいたします”と書かれていた。

「…」

「…」

普段から予算の編成などで数億単位の桁を見ている領主でも、その寄付金額には驚かざる負えない。

「へ、へぇ~~~~………別にビビって無いが………ウェッブ家の息子さんは入学決定な?」


2通目の封蝋の刻印には見覚えがあった。

「ヤング家だな…カナリー・ヤング」

「まだ15、6じゃなかったか?」


カナリーはネイ家の隣の領地を治めるヤング家の女子だ。

直系ではなく、領主のきょうだいの孫だった。

「家庭教師になればヤング家に居られるじゃないか。魔法を学ぶのはいい判断だ」

「しかしなぁ…成人してないんだぞ?」

「近所のよしみだ、入学決定な」

「オイオイ…」


3通目は少し深刻な内容だった。

「光魔法と回復魔法以外の、すべての魔法の素質があるにも関わらず、貴族の仕事に興味を持たず、かといって兵士や魔法使いとして国を守ることにも興味を示さず、動物やモンスターと会話ばかりしている…か」

「ブハハ、将来は旅客ドラゴン乗りでいいじゃないか」

「貴族が付く仕事かぁ…?」

「小さい頃の憧れの職業No.1だろ。大勢の人を乗せて空を飛ぶんだぞ~!」

「こりゃ老婆心ながら手助けをさせていただこうかな。こういう内気な子は将来苦労するんだ…コーネリアス・レフトオークス、18歳。本人が乗り気かどうかは…少し心苦しいが」


4通目に普通の手紙が来た。

「デニス・マックイーン、18歳。マックイーン家の次女。落ち着かないところもあるが、3つの魔法が使えるのでぜひ勉強させてほしい、だと」

「いいよな貴族ってのは。3つ4つと簡単に魔法に恵まれるんだから。平民ならひとつでも使えれば食いっぱぐれることは無いと大喜びだってのに」

「ま、転生させ女神様の御加護だな。選民思想は根拠があっての結論ってわけさ」


――――――――――


「(転生させ女神様…どうか私を別の世界に転生させないで。復讐のため、この世界に残らせて…)」


トーラティカの王城。

クローイはそう願いながら、完全に冷たくなった。

強い恨みを残して死んだ魂は悪霊になる。

「………」


檻の中。

クローイは倒れている自分を見降ろしていた。

「(私、ゴーストになれたんだ…)」


自由になったからは復讐だ。

まずは憎い姉を殺してやりたいところだが、そうはいかない。

クローイが壁を通り抜けて見ると、光魔法のサーチにぶつかった。

「反応がありました!」

「どこだ?」

「牢のある場所です。幽霊になられたのかと」


光魔法が使える使える魔法使い達がバタバタと移動してきた。

「(浄化されちゃう…!!逃げなきゃ!)」


死んでいるにもかかわらず、クローイは死に物狂いで王城を抜け出した。

光魔法の届く範囲は広く、王城内は普通の悪霊でも察知できる警備システムになっている。

クローイの魂が察知されたからには、常に警戒されることとなるだろう。

「(お姉さまは光魔法が使えるし…それにしたって、近づく事さえ出来ないなんて…ゴーストってこんなに無力なの?)」


幽霊になったばかりのクローイは王城から追い出され、寒さも感じられないままに宙をさまよう。

兵士の中にも光魔法を使える者は多いので、なるべく人がいる場所には近寄らないように、空へ空へと逃げた。

「(悔しい…これじゃ何もできない…!!)」


ふわふわと飛んで下町へ向かう。

せめてもの気晴らしに平民でも呪い殺そうと思ったのだが…。

「(え?)」

何もできない。

本など軽いものを動かすことはできるが、室内にいる住民に舌打ちされて終わりだ。

「モンスターか動物の低級霊がいるね?」

「おばちゃん呼んで来るよ。光魔法で浄化してもらわなきゃ」

「(キャッ!殺されちゃう…)」


クローイの幽霊は天井から逃げた。

誰でもいいから呪い殺したいと、イライラしながら通行人の胸に体当たりする。

「オエッ!」

そうえずいて、そのまま何事も無かったかのように市民は歩いていった。

「(えっ?えっ??ええっ????悪霊の力ってこんなものなの………?)」


もちろん彼女の声は誰にも聞こえない。

クローイの必死の”説得”にも、耳を貸してくれるものは居なかった。


――――――――――


「国王様!」


クローイの死はすぐに国王に伝えられ、宰相、そして臣下にも伝わった。

事前に用意していたかのように…宰相の動きはスムーズだ。

「3日後に葬式を執り行います。国葬になりますので、近場の貴族は万事お繰り合わせの上ご出席を。遠方に住む貴族にも国王の名の下に使者を送りますが、皆さまも各自の領地に、クローイ様は急病で亡くなったという趣旨の手紙をお送りくださいますようお願いいたします。経費で落とせるようにしておくのでモンスターを飛ばしてください。では、葬儀の細かい日程になりますが…」


――――――――――


「フィリップ様、落黄の月の7日にご葬儀が執り行われます。さらにこの3日間は、王城で喪に伏していただきますよう。よろしいでしょうか?」


フィリップは力なく答えた。

「ああ…おじいさまには伝えるのか?」

「そうでございましょう」


誰よりも娘をかばい、一人前の王族になって欲しいと願ってきた祖父の気持ちを考えると胸がはちきれそうだった。

「おじいさまは悲しむことだろう」

「隠してはおけません。国を挙げての葬儀ですし、情報を伝えないほうが無礼にあたります」

「…クローイ叔母さまが悪霊になったのは当然だ。冷たい牢屋の中で…」

「フィリップ様。リラックスしてください。マッサージ師をお呼びしますよ」

「そんな気分じゃ…お母さまと話がしたい」

「今はご遠慮ください。葬儀の打ち合わせもございますし、お取込み中です」

「じゃあお父さまでもいい」


父親は特に不要だったのか、さっさと国王の部屋からフィリップの部屋に来た。

「王配陛下、何かご入用なものは?」

「ホットのフラットホワイト、エスプレッソ抜きで。トッピングはホイップクリームに、ホワイトチョコレートソースに、ピンクフェアリーザラメ糖に、幻覚見キノコのパウダーをひと振り、食用ポヤポヤコーンをカップの周りに乗せてくれ。円になるように」

「ホワイトチョコレート・ストローは要りませんか?」

「要る~」

「お父さま…」

「フィリップも飲み物を頼んだらどうだ?」

「過剰に糖分を摂取するとむせちゃうんですよ」

「ええっ?」

「甘すぎるものを食べたり飲んだりするとむせませんか?」


従者は頷いた。

「私は熱すぎるものや冷たすぎるものを食べるとむせます。あと、太陽を見るとくしゃみが出ます」

「ホント~?フフ…」

「フフ…」

「私は飲み物はいい。お父さまのフラットホワイトだけ頼む」


――――――――――


フィリップは素直に心情を吐露した。

父親も応える。

「先王様のお心を考えると…悲しいよね。絶対にショックを受けられると思う」

「…聞いてもいいですか?」

「いいよ、何でも聞いて。2人っきりなんだから。お母さまも居れば良かったのにね」

「クローイ叔母さまが殺されたと、おじいさまは気付くでしょう?」

「いやぁ、どうかな。クローイは今までに何度も自業自得で死にかけてきたからね。案外納得するかも」

「アハハ…確かに…」

「空中ブランコに挑戦した時のことは覚えてるか?まだフィリップが7、8歳の頃だった…」

「網の入り江でサメ馬をハーネスで繋ぎ、海を渡ろうとしたお話はそれより前でしたっけ?」

「あれは4人目の夫との結婚式での出し物だったはずだから…いや、まあ、とにかく…」


王配はカフェインの欠片も入っていないフラットホワイトをスプーンですくった。

「とにかく、先王様への報告は事故死、それも自らが招いたトラブルが原因で死んだ、というものになると思う」

「表向きは病気、実際には事故死、という事にするのですか?」

「そう。実際の実際には投獄からの餓死、凍死だけど、まさか正直に発表なんてしないからな…とはいえ、貴族の間には漏れ伝わるだろうけどね。使用人と兵士、全員に緘口令を敷けるわけないし、実際には口外禁止だけどみんなが守るとは思えない」

「王家の恥でしょうか?」

「クローイをほっといた方が恥になると思う。そして彼女を自由にさせておけば、私たちが先に殺されるだろう」

「う~ん…私も収穫祭に熱々のターキー・オイルを被って死ぬところでしたので、叔母さまには申し訳ないのですが…」

「死んでもらってよかったよ」

「悪霊は浄化できなかったようですが」

「気にすることは無い。クローイはアホだ。愚か者は悪い幽霊にはなれない。賢い者は強い怨念を持ち、邪悪な霊になり人に危害を及ぼす。でも彼女がパワーのあるゴーストになれると思うか?」

「わかります。この世に強い恨みを持っていたり、殺人などショッキングな出来事で死んでしまった場合にしか、そもそも霊になれないと聞くので。クローイ叔母さまが幽霊になったと聞いたときは驚きました。そんなにちゃんと誰かを憎んだりできたんだな、って…」

「頭の悪さ的にそのレベルだよね?」

「はい、そのレベルの認識でした…」


死んで悪霊になっても軽んじられているクローイは、まだ町で彷徨っていた。

とにかく王家や王城で働く人間に復讐したいという気持はあったが、王城は聖なる光に包まれていて、近づいただけで体が薄れる。

容易に復讐は果たせそうになかった。


――――――――――


夜。

レジナルドは夢の中だ。

「…ここは?」


なんとなく見覚えのある場所。

「モグラテンボスじゃないか…」

「よく来たな!」

転生させ女神と、隣にはトープが居る。

「強制的に連れて来られたんですが?」

「このカルタで遊ぼう」


小さなカードが100枚並べられている。

「どんなゲームですか?」

「モグラに関するポエムを100人それぞれに作らせた。読み札と取り札があって、ポエムの前半と後半に分かれている。私が読み札、つまりポエムの前半を読むから、お前は取り札、つまりポエムの後半を想像して取ってくれ」

「へぇ、面白そうだなぁ。なんてゲーム名ですか?」

「モグラ百人一首」


――――――――――


アリディンバリスの王城で開かれている夜会。

「名前は、ロジャーと言いましたね」

「はい、バーナビー様」


バーナビーは少し離れている場所にいたソフィーも手招きで呼び寄せる。

「モルリヴァールの演劇団体の職員なんですって?」

「ええ、はじめてお目にかかります、バーナビー様」


そう挨拶されたバーナビーは、流暢なモルリヴァール語で喋りはじめた。

「!」

ソフィーもモルリヴァール語で返す。

2人は簡単に挨拶を交わした。

「…やはり本当のモルリヴァール人は違いますね。ネイティブスピーカーの優雅さ、羨ましいですよ」

「何をおっしゃいますやら!私は仕事でアリディンバリス語を使っているにもかかわらず、このようにカタコトですが。バーナビー様の淀みない発話に驚きました、まるで母国語じゃないですか」

「本当にそうだったらどれだけ良かった事か」


興奮してロジャーは拍手した。

「やはり、王族の方ともなると教養を広く学ばれていらっしゃるんですね!隣国の言葉が話せるなんて凄いです!」

「ありがとうございますロジャーさん。でも、あなたも城下町の劇団ではなく、今はモルリヴァールの演劇団体に所属しているのでしょう?モルリヴァール語を練習されているのでは?」

「ええ。ありがたいことに両方の団体に所属させていただいてはいるのですが…言葉の方は、まだ手を付けていなくて…」

「それはいけませんね。言葉もそうですが、やはり演劇も音楽も文学も何もかも、モルリヴァールのものが一番素晴らしいんです。私たちが住んでいる場所は数百年前にはモルリヴァールだったのですし、元居た場所に帰る努力をしませんと」

「?」

「モルリヴァールを褒めていただいて光栄です。かつての栄光は失われましたが、それでも音楽と演劇の都として、この世界の中央にあり続けますので」


ソフィーはまんざらでもない様子で照れた。

バーナビーはそれを見てニコニコしているので、ロジャーも合わせて笑っておく。

「おっと、近くで見ても本人そっくりだな」


ブレンダンの登場だ。

ソフィーは挨拶しながら第一王子のアウトフィットを舐めるように見た。

黒の生地に黒の刺繍が美しく浮き、会場の灯りが揺らめくたびに、様々な方向に刺された糸が光を小さく反射してチラチラと光る。

ソフィーはその美しさをカネで数えた。

100万ゴールド、200万ゴールド…いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

ロジャーをこの王城にねじ込めることが出来れば、マネージャーである自分も後ろをついて歩けるだろう。

そうすれば城の備品や、運良く第一王子が所有するジュエリーぐらいは盗めるかもしれない、と、妄想が広がる。

「ああ、レジナルド。我が弟よ」

「お、おやめください第一王子様」

「何だ、ジョークのわからないヤツめ。こういう時は、お兄さまと返すんだ。ほら、言ってみろ」

「…お、お兄さま…」

「ワハハ!」


その後、散々いじるだけいじっておいてブレンダンは挨拶もせず去っていった。

仲が良い同年代の貴族を見つけたようで、そちらへ歩いていく。

後ろについている従者2人が礼をしただけマシだ。

「…ふぅ。ブレンダン様には、当然私は良く思われていないのでしょう」


バーナビーは首をかしげる。

「ええっ?気に入られているじゃないですか。嫌いな人をあんなふうに構ったりしませんよ」

ソフィーもクスクス笑う。

「髪の毛まで引っ張って染めている事を確認するぐらいですから。興味がおありなのでしょう」

「ハハハ!余りにも外見が似ていると気味が悪いですからね。ある程度、似せるための工夫をしていると分かって、ブレンダン様もホッとされたのでしょう。ところで…」


バーナビーはロジャーとソフィーの顔を見た。

「演劇に興味があるんです。この場だけでなく、後日、あらためてお話しできませんか?」

「!!」


ソフィーとロジャーは心の中でお祝いのクラッカーを鳴らした。

王族とのコネクションの取っ掛かりを掴むことができたのだ。

「夜会にはロジャーさんとお話したい貴族が大勢いらっしゃるので、私はここで失礼させていただきます。後日、従者から手紙が届くと思いますので」

「え、ええ、本当に…このような機会を与えて下さりありがとうございます!ウフフ…」


ロジャーも震えていた。

舞踏会で人々を笑わせる道化として、ではなく、ひとりの演者として王城に呼ばれたのだ。

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