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人質生活79日目

「レジナルド様、おはようございます」

「あ、ああ…もう朝か」

「シャワーを浴びますか?」

「…うむ。キリっと冷たいヤツをな!」


気合いを入れて雨を呼ぶ笛を吹いた。

朝食も食べ、準備万端だ。

シャルロッテとセーラもオービター牧場の立派な馬車で駆けつけてくれた。

馬車にプレートアーマーとレザーアーマーを積み込み、使用人たちに手を振る。

「武運を祈っていてくれ!」


使用人たちは手を振り返す。

「幸運が背骨にありますように!」

「腰が壊れてしまう事がございませんように!」

「生きて帰ってきてください!」

「敗北もまた人生ですよ!」

「レジナルド様の車いすを押せるように今から筋トレしておきます!」

「お前たち…俺が負ける前提で送り出してくれて本当にありがとうな????」


マシューが馬車の扉を閉めると、御者が馬を鞭打って号令をかける。

レジナルドが乗った馬車が先頭で、後方からオービター牧場の馬車が追いかけた。

馬が動き出すとレジナルドは早速バスケットを指さす。

「4頭立ての馬車に見合った立派なサンドイッチが詰め込まれているのだろうな?」


箱型バスケットの片側を開けると…毛の生えた庭石が顔を出した。

「モグラ!?モグラじゃないか!!」

「おやおや、ついてきちゃったみたいですね」

「バカな雨雲め!兵士の訓練場ではお前のようなモコモコは悪目立ちするぞ!」

「いじめられないか心配ですよ。バスケットはセーラさん達に渡しておきましょう」

「チッ!しょうがない、本来の目的を思い出そう。モグラの毛を払ってサンドイッチを食べるとするか…」


バスケットは空っぽだ。

「!?」

「モグラが食べてしまったのでしょう」

「食い意地の張ったヤツだ!!誰に似た!?」

「レジナルド様に」

「俺は、自分が悪い事をしても自身を許せるが、他人がやるのは許せないタチなんだ」

「甘いものがお好きですものね」

「どういう事だ?」

「自分に甘いんですよ」


――――――――――


トーラティカの王城に到着した一行は、馬車の中にミチミチにつまったシャルロッテを降ろすのに少しだけ苦労した。

兵士たちが訓練をおこなうグラウンドのような場所に通される。

集まった兵士達からささやき声が聞こえた。

シャルロッテを見て山の精霊と勘違いする兵士もいたが、中にはレジナルドを見て”思っていたよりもデブじゃないぞ”、という評価をした者も居るようだ。

「…ようこそ、レジナルド様」


グランドの中央には、もはや身分すら隠さなくなったフィリップがいた。

準備万端で待ち構えており、既にプレートアーマーを装着している。

彼の甲冑にはトーラティカ王家のシンボルが刻まれており、太陽光の元で黄金と輝く。

「お目にかかりますフィリップ王子様。ご招待いただき感謝する。もちろん感謝とは皮肉だが」


レジナルドは目線を感じ、高く高く顔を上げる。

眼球の中で反射し、彼に向けられている光を気配として感じたのだ。

「王城の中にも物見がいるようだな」

「使用人や兵士たちにあれほど見るなと言っておいたのに。ま、注目の一戦だからな、許してやろう」

「もし視線を向けさせるなら明るい場所で向けさせろ。影になっている場所から見られているのはすぐにわかるぞ」

「…ずいぶんと恥ずかしがり屋だな。まあ、恥の多い人生を送ってくれば、他人の目線が気になって仕方が無いよな?」

「もちろん視線は気にするぞ。俺は人に注目されるのが大好きなんだ。全方位にファンサするためにもステージへ登ったその瞬間に視線は把握しておく」

「ステージって、演劇でもやっていたのか?今時恥ずかしいぐらい古典趣味だな。アリディンバリスがモルリヴァールへ復帰するというのは噂じゃなかったようだ。貴族ならともかく、王族でそこまでの時間があるとは羨ましいぞ!」

「王族にとってはこの世の全てがステージじゃないか?市民の前に出れば王子ほど知名度のある役者は居ない。それに”時間がある”とは。そっくりそのままお言葉を返そう。アリディンバリスの王城にも人質は居たが、週に1度のペースでおちょくりに訪ねる程の時間的余裕は俺にはなかったからな」


フィリップの従者が物理的に2人の間に割って入った。

「お話はこのぐらいにして。そろそろ、剣術の試合をいたしませんか?」


マシューも割って入った。

もともとフィリップとレジナルドの間にそれほど距離は無かったのに、その場所に大の大人が2人も入ってはパーソナルスペース的に気まずい。

「その前に。サンドイッチをいただけませんか?」

「!?」

「近いですよぉ!?」

「そっちが入ってきたんだろう!?」

「ああそうでした。レジナルド様は燃費が悪いので、巨人のヒザのカントリーハウスからここへ来るまででおなかが空いてしまったんです。軽くでいいので、サンドイッチを作っていただけませんか?」


ワーッハッハァ!とフィリップが大爆笑する。

「訓練場に着いてまずサンドイッチをねだるとは、どういうつもりだ?ああ自己紹介か?」

「”腹が減っては戦ができぬ”、ってな。まあ、来客に軽食のひとつも出さない王族というのも質素倹約を体現していて良いが…」

「っ!!バカなことを言うな!」


フィリップは目の前を塞ぐ従者に指示を出した。

「サンドイッチを作らせて持ってこい!!10分以内にな!!」

「真後ろにいらっしゃるんですからそんな大声を出さなくても聞こえますよ!」


レジナルドはでマシューに話しかける。

「俺はお前の後頭部に唾を飛ばして喜ぶ趣味はないし、TPOに合わせて声量を調節できる人間だからこうやって普通に話しかけている」

「他人の真後ろに立って指示を出すTPOってどいういう立ち居振る舞い、あるいは関係性の構築中なんでしょう?」

「サンドイッチとの円滑なコミュニケーションのために…」


――――――――――


「その甲冑、外しても良いぞ?」

「は?」

「厨房からサンドイッチが運ばれてきて、それを俺が食い終わるまで身軽でいておけ。じゃないと無駄に体力を奪われるだろう」

「ハハッ!日頃からトレーニングをしているんだ、立ったまま数分待つことぐらい構わないよ!」

「流石トーラティカの王子様は違うな。俺はギリギリで装備させてもらうが」

「ああそうそう、レジナルド様のためにプレートアーマーを用意させたんだ。体に合うかな?」


用意した物を合わせてみると、たいぶブカブカだ。

「これじゃ動きずらいぞ。俺が持ってきたものを使わせてもらおう」

「…ふん。そっちが持ってきたものは仕掛けがありそうで信用ならない。おい!もう一回り小さいものを用意しろ!」


結局、二回りぐらい胴回りの小さいものをレジナルドは選んだ。

「男子三日会わざれば刮目して見よ、じゃないが、少し痩せたんじゃないか?私との剣の練習試合に向け、慌てて剣の練習をしたのだろう?」

「その通り。しかし、卑怯だな」

「何が卑怯だって?」

「剣を握った事のない人間に剣で戦いを挑むとは。例えば俺があなたにアリディンバリス語のスペリングの正確さで競おうと言ったら、印象はどうだ?」

「お、王族なんだから一応のトレーニングは受けているだろう?途中で放り出したかもしれないが、それはレジナルド様の性格に起因するもので、私が卑怯だと罵られる筋合いはない。王族なら、いや、貴族ですら基本教養としての剣術を身に着けているだろうに。出来ないのなら自らを恥じろ?」

「ぐっ…確かに王族として健康面で問題が無いにもかかわらず、馬術と剣術を履修していないであろう男は俺ぐらいなものだ」

「だろ?」

「珍しい!価値がある!」

「ポジティブシンキングの精霊が憑いているのか?」


雑談?をしているとサンドイッチが運ばれて来た。

「ケチだな!7つしか作ってくれなかったのか!?」

「一般的には7食分なので十分な配慮かと」

「マシュー、お前は俺の敵なのか?味方なのか?」

「あなたの通訳でございます」


レジナルドはサンドイッチを7つ食べ、満足すると甲冑を装着させた。

装着を終えたセーラとマシューが、レジナルドの後方から離れる。

シャルロッテはモグラの入ったバスケットを抱え、不安そうにそれを見つめていた。

「ヘルメットを被る前に、剣の確認を」


兵士2人が出て、レジナルドとフィリップの両者に剣を渡す。

「同じ重さ、材質だろう」

「確認した」


そして剣を手にしたままヘルメットが被せられる。

兵士が試合のルールを説明するのを聞きながら、フィリップは小さく左手を動かした。

”回復させろ”の合図だ。

後ろで控えている兵士が、フィリップ王子に回復魔法を…魔法を………魔法をかけられない。

「!?」

フィリップはどうした早くしろ、というように体をよじった。

魔法を発動できずにいる兵士はうろたえるしかない。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「どうした?」


回復魔法が主人にかけられていないと従者は気付いた。

機転をを利かせ、城に走り込む。

魔法使いを秒で連れてきて…はくれない。

誰かを呼ぶのには数分かかるだろう。

「い、いや…兵士たちが近すぎると思わないか?」

「確かにな。戦えば動きもするだろうし。おい!もう少し離れてくれ!」


兵士が後ろへ押し合いへし合いしながら後退する中、魔法使いが駆けてきた。

「(いいぞ!)」


フィリップは視界が悪いヘルメットのスリットの間から魔法使いを横目で捕えた。

ようやく、彼に回復魔法がかけられ…かけられ………魔法がかけられない。

「何をやっているんだ~~~~っ!?!?!?」

「???????」

「あっ、いや…」

「情緒が不安定か?日光を浴びて、水を飲んで、庭を散歩して、軽いマッサージを受けろ?」

「い、いや違くて…」

「まだ何もしていないのに、いきなり何をやっているんだと怒鳴る相手と戦うのは不安だ!おい、さっきのルール説明は聞いていたな?審判から見て、相手を”行動不能の状態にした方が勝ち”というルールだぞ?実際に行動不能にするのではなく、戦場なら死んでいる、というシチュエーションに持って行くだけだぞ?審判!審判!?」


審判役の兵士が緊張の汗を拭きながら、首を振った。

「い、今のは試合前の雄叫びです…ええ、そうに違いございません」

「トーラティカの文化だったのか。それはすまない」

「…っ!!」


秋の柔らかい日差しとはいえ、立ちっぱなし、それもプレートアーマーをつけっぱなしでは体力が削られるというものだ。

フィリップは準備万端にするため、開戦直前に自分だけ回復魔法をかけてもらおうと企んでいたのだが…。

「それでは、両者、剣を構えてください!」


審判の掛け声でフィリップとレジナルドは剣をギュっと握り直す。

「開始!」


フィリップは様子見をするつもりだったが、どうやらそれは相手も同じことだった。

左右にじりじりと動きながら、合間を前後に詰めては戻し、を繰り返している。

「(なんだ、本当に無謀なヤツならいきなり飛び掛かってくるかと思ったが。そうじゃないなら、正攻法で行くぞ!)」


フィリップは相手に近づき、剣を振り下ろす。

対処するレジナルドは、無理にクロスガードで受け止めようとせず、素早く後ずさりして剣先がボディに当たらないならそのまま左右に逃げた。

「(おや…思ったよりもいい動きだな)」


フィリップが追撃していないのもあるが、ブレードとブレードは弾き合い、その場その場で攻撃の流れが途切れる。

レジナルドは焦っていた。

「(マシューが中年すぎたのか、手加減してくれていたのかは知らんが、まるで別の武器のように剣がヒラヒラと舞ってるじゃないか…!?)」


思わず口に出る。

「待ってくれ!俺は初心者なんだ!弾かれてすぐにブレードを返されたら、処理の仕方を知らないから困ってしまう!」

「だろうな!」

ようやくキン、キン!と連続で音が鳴る。

「完全に遊んでるだろ!」

「ハハハ!!」


周囲の兵士達からは笑い声が上がった。

余りにも実力差がありするぎるため稽古をつけているような動きになっている。

元より王子の勝利を確信していたのだろうが、それがなおさら笑いと歓声を誘っていた。

「ほら、次は、右から!もう一度右から!」

「勘弁してくれ!!胸に一突きを入れて勝てばいいじゃないか!」

「そんなのつまらないよなぁ!?」


そう言うと急に距離を詰めてきた。

咄嗟の事でレジナルドは対応できずに慌てふためく。

フィリップは暗い甲冑の中で笑った。

高く上げた足で胸を蹴り、相手を無様に転倒させる。

…つもりが。

「!?」

レジナルドは素早く剣を捨て、フィリップの足を掴んだ。

そして当然姿勢を低くして、相手の足を掴んだままタックルをかます。

アーマーとアーマーがぶつかってガシャン!と音がする。

「うぐっ!?」


フィリップは剣を掴んではいたが、建て直すためには自由な両手が必要だと判断して剣を捨てた。

レジナルドは倒れた相手のもう片足も取り、両脇に足を挟んだような体制を作る。

「!?」


こうなれば道はひとつ。

レジナルドはフィリップの下半身を持ち上げ、その場でバタバタと回転し出した。

「!!!???!?!?」


甲冑を付けたフィリップのウエイトは100kg近くなっているはずだが、遠心力の力を借りてその体を浮かせ、グルングルンと振り回す。

本来なら体をよじってバランスを崩させたり、上体を丸めて相手の手に掴まり、回転を阻止しなければならないが、胴体に装着されたプレートアーマーがフィリップの前屈を阻んだ。

充分に加速し、もうこれ以上無理!という所で手が離される。

フィリップは一瞬だけ空を舞い、地面に叩きつけられた。

兵士たちは”うわっ!!”という渋い表情で目線を逸らす。

審判が、もういいでしょう!もういいでしょう!終わりとします!と叫んでいるのが聞こえたが、フィリップはなんとか体を横に転がし、立ち上がろうとしている。

「ま…、ま、まだだ!まだ、戦え…る…」


フィリップの狭い視界に映ったのは、剣を拾ったレジナルドの姿だった。

「王子様、相手が剣を拾ってしまいました…もうよろしいでしょう」

「そ、そんぁ…」


丸腰で転がっているフィリップと、目を回してふらつきながらも何とか剣を拾い立っているレジナルド。

正に”戦場なら死んでいる状況”だ。

「こ…この勝負…」

「審判、声が小さいぞ!」

「この勝負、レジナルド様の勝ちです!」


マシューの拍手だけが場に響いた。

フィリップの元に魔法使いや兵士、従者が駆け寄る。

セーラが短く言う。

「シャルロッテ!」

「はい!」

私たちはこれにて失礼いたします!と叫びながら、セーラたちはダッシュでその場を走り去った。

「…あっ、回復魔法が使えるようになりました!」


フィリップは装備を外されながら、地面に横にされて看病されていた。

「うっ…背中を打った…」

「大きく息を吸って、吐いてください。呼吸は苦しいですか?胸や背が痛みますか」

「いや、だいぶ楽になった…」


上体が起こされ、回復ポーションを飲まされる。

それを横目で見ながらレジナルドは全ての装備をガシャガシャと地面に落とした。

「大丈夫か?」

「…なぜ指を振っている?」

「何本に見える?」

「2本」

「勝利のピースサインだ」

「おい!!!!!!!投獄しろ!!!!!!!」

「他国の人質ですよ!!フィリップ様、とにかく城へお戻りください」

「クソっ!こんなはずじゃ…ちょっと油断しただけなのに…も、もう一度やれば圧勝できる!」

「勝負は勝負だろう!」

「チッ、甘く出れば付け上がりやがって…!」


回復魔法で元気を取り戻したフィリップはレジナルドに向かっていく。

「こんなお遊びの試合で勝ったと思うなよ!」

「じゃあ負けたと思っておこう。往生際の悪さ選手権一回戦敗退だ。おっと、トーラティカの王子様はシード枠だったか?」


フィリップはキレた。

キャンキャン吠えていた先程までとは違い、低音でレジナルドを脅す。

「立場を弁えろよ?人質という身分だからって、そうやって王族を侮辱して、ただで済むと思うか?」

「………フィリップ様のおっしゃる通りだ。手加減してくださったにもかかわらず、俺は調子に乗ってしまったようだな。これは接待試合のようなものだ。このあと100戦しても、フィリップ様が100勝されるだろう。だよなマシュー?」

「当然です。海と山の支配者、我が偉大なるトーラティカ国王様の息子である王子様は、1000戦すれば1000勝、10000戦すれば10000勝いたします」

「ああ。当然の事だ。これは通常通りの試合ではなく、親善試合のようなもので、そこで俺に花を持たせてくれた。だから…この戦いの勝者は当然フィリップ様だ!」


周囲に向かって腕を上下に振り、盛り上がるようにハンドサインで促す。

「トーラティカの真の勇者である王子様に拍手を!」


兵士たちは全力で拍手し、その場の空気を良いほうに変えた。

フィリップも、どうしていいか迷いつつ拳を上げて応える。

「フン…分別がつく人間だったようだな。腐っても王族だ」


レジナルドは無言のまま、握手の仕草で手を差し出した。

フィリップも手を出す。

「ハハハ。見直したぞレジナルド様」


広げられた手のひらが近づいたとき…。

レジナルドはその手をチョキに変えた。

「勝負に負けてもじゃんけんには勝った!じゃあぁなぁ~~~!!」


ダッシュでその場から逃げ出す。

マシューもええっ!?と驚きながら後を追った。

握手のために手を差し出したフィリップはそのまま固まっている。


――――――――――


「ワ~~~~ッハッハッハァ!!!!」

「最低ですよ」


走る馬車の中でレジナルドは爆笑していた。

「あいつの剣技は本物だ。その気になれば、試合開始と同時に俺の剣をはね飛ばせただろうに。あれだけの熟練者から一勝をもぎ取れたことは、俺の人生において最大の幸運だろうな」

「…ハァ。なんだか、色々な方向にガッカリしちゃいましたよ」

「おお、俺というどうしようもない存在にまだ希望を持っていたが、それが今日失望に変わったのか?」

「いえ、レジナルド様は悪い意味でいつも通りのクソガキだったのですが、フィリップ様のあのご様子…なんだか、道理を弁えた人間の物言いとは思えませんでした」

「試合に負けて悔しいのは判る」

「悔しいって、子供じゃないんですよ?まさかあそこまでの負け惜しみを、兵士たちの目の前で…」

「いやぁ、俺も自分の人生において敗北を素直に認めた事なんて一度も無いぞ」

「あなたとは違うんですよ。あの人はトーラティカの王子様なんです」

「…最後まで抵抗する姿勢も王には必要だ。負けん気が強いのは美徳だぞ?」

「しかし騎士道に反します」

「負けは負け、か?」

「当然でしょう。正直…見苦しかったですよ。愛する国の王子にかける言葉ではないでしょうが、私のイメージの中では、もっと立派な人間だったので…。失望した面もございます。今日の勝負だけでなく、そもそも剣技の素人のレジナルド様に、相談や提案も無く急に試合を申し込むなど…」

「そう落ち込むな」

「…」

「ところでなぁ~?」

「もう少し静かに落ち込ませてくださいよ」

「勝利の祝いにプレゼントをくれ」

「絶対にあげません。何を言わんとしているのか丸わかりです」

「連れないヤツだなぁ、ほんの少しでいいんだ、サンドマンのスリープサンドを分けてくれ!頼む!!」

「あれは睡魔が私に接触してきて、それで渡してくれたものなんです。子供の頃、森の周囲を探索していたら小人がいて」

「凄いな!」

「私を貴族と知って、この森を切り開かないでくれと」

「妖精も交渉するんだなぁ…」

「もちろん兄と姉、両親と祖父母、親族みんなにその事を伝え、森は今もそのままです」

「いい話だ。確かに俺はバー家の領地の森を守っているわけじゃないから、その砂を分けては貰えないな」

「ええ。私も本当に困った時にしか眠気の砂は使いませんよ」

「あのな、カントリーハウスの傍に広大な森があるだろう」

「やめてください?」

「斧を持ってあそこをうろつくんだ。で、眠りの精が出てきたら…」

「成人してたら睡魔は見えませんよ」

「チッ!!!!」


屋敷に戻ると、庭で盛大なパーティの準備がされていた。

先に帰っていたシャルロッテとセーラが勝利を伝えてくれたらしい。

「トーラティカの王子を倒してきたんだぞ。不敬罪に当たらないか?」


ベヴァリーは微笑む。

「何をおっしゃるのやら。これは”厩舎&庭師小屋&鳥小屋の完成記念祝賀パーティー”ですよ!」

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