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人質生活77日目

乗馬インストラクターが門をくぐると、汗だくで剣を振るっているレジナルドと目が合った。


「セーラ。頼む、今日の乗馬は無しにしてほしい」

「わかっております。そしてシャルロッテですが、当日、このカントリーハウスで落ち合って一緒に王城へ向かいましょう」

「おお~~~~っ!!!!助かる…本当に助かる…」

「ただし、ケガ人が出た場合は素早く彼女を遠ざけてください」

「あっ、回復魔法も無効になるものな」

「私も物見ものみに参ります」

「なぜだ?」

「馬の専門家ですので」

「?」

「野次馬ですよ」


――――――――――


「国王様!お誕生日おめでとうございます!」


トーラティカの王城は…エントランスだけ謎にキラキラしており、一部の使用人が包帯ぐるぐる巻きという異様な光景に目をつぶれば、華やかなムードだった。

「皆、ありがとう!トーラティカ王国の独立を守り、さらなる王国の発展のため、また、国民の幸せのために、この一年も尽力することをここに誓う!」


血族である王族、貴族、使用人たちが盛大に拍手で迎える。

ゲストがエントランスからホールに移動すると、立食パーティーが始まった。

音楽家がヴァイオリンやピアノで和やかな音楽を演奏し、いつもは険しい顔の宰相も笑顔で国王の誕生日を祝う。

「フィリップ様!」


従者が小声で話しかける。

「ぬいぐるみですが、洗浄と乾燥が間に合いました」

「本当か!?あんな大きなぬいぐるみを、どうやって…」

「水魔法と火魔法と風魔法の合わせ技で洗いました。5人掛かりで作業を急がせましたので」

「良かった…」

「ただ、かかった溶解液のせいで真っ白に漂白されてしまいました」

「!?」

「成仏した先王様みたいになっちゃってるので、ここはひとつ、フィリップ様のお部屋にある人形と交換しませんか?フィリップ様のお部屋に置く人形は、また町へ行って買ってくればいいじゃありませんか」

「それは嫌だ。30分かけてお顔を厳選したぬいだぞ」

「えっ…」


そんな話をしている中、ホールの人がサーッと引いていく。

「…ク、クローイ叔母さま」


車いすに乗って登場したクローイは、全身を包帯で巻かれている。

彼女は叫んだ。

「安心して~!この治癒の包帯を巻いておけば筋肉と血管は元に戻るから!髪?髪はよくわからないわ~~~!!!」


国王が駆け寄る。

「ちょっと、もうベッドから体を起こして大丈夫なの!?」

「肺は腐っていたから丸ごと作り直してもらったし、前よりピンピンしてるぐらい!」

「肺が悪いのはタバコを10本まとめて吸ったりしているからでしょう?とにかく、お部屋に戻りなさい!」

「私抜きでパーティするなんて!あんまりでしょ!?ここに居させて~!!」


姉妹げんかが大ホールの中央で繰り広げられる。

とうとう国王命令という単語が飛び出て、クローイは自室へ戻された。

しかし、彼女が連れ戻された後も、パーティ会場の雰囲気はぎこちないままだ。

音楽家も場の空気を読み、転調が繰り返される不穏な曲を奏でる。

この音楽家はパーティ後にクビにされた。


――――――――――


アリディンバリス。

オーガスタたちは前日中に、ウォルターの荷物をすべてトランクケースやチェストに片付け、ホテルで1泊した。

「ウォルターの私物は全て持ちました。これで失礼いたします」


兵隊長は頭を下げる。

「退職金と、特別手当は彼のアリディンバリスローカル口座に振り込みました」

「”特別手当”ですか…」

「こ、言葉が見つかりません。本当に申し訳ございませんでした」

オーガスタも兵隊長に頭を下げた。

「息子が大変お世話になりました。別の親族を探して、トムソン家から人を送ります」

「…しばらく期間を置いてください。わたくし共としても心苦しく…」

「いえ、王家に仕える心は決して変わることはございません。今回のことは事故で、誰も悪くありませんでした。それでは、またお会いしましょう。兵隊長に幸運と、転生させ女神様のお恵みがありますように」


兵隊長は無言で頭を下げ続ける。

彼女は振り返らず、馬車へ向かった。


馬車が走り出して数十分。

荷物を積んだ1台が先を走り、その後ろにはオーガスタと侍女2人が乗っていた。

疲労からか、侍女たちはウトウトと頭を揺らす。

「スターレイクスまで1週間かかる長旅なんだから。あなた達は休める時に休んで」

「よろしいですか?」

「ええ。馬車の中で寝ておかないと体力が持たないじゃない。また宿屋へ着いたら、部屋に荷物を運び入れなきゃならないんだし」

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

「…」

「…」

侍女たちが眠ったのを確認すると、オーガスタはこっそり、例の日記を取り出した。

読めば読むほど、息子の真の姿が見えてくる。

「”仲間を作ればいい””小さなモノなら防具の中に隠せる””わざわざ侵入する必要は無い。見張りの時間を終えたら、そのままスムーズに””仕事””をして、出てくればいい。同僚は買収済み””あのクソデブは貴族が治めた税金で、趣味の骨董品を買い集めていた。ちょっとぐらいおこぼれに預かっても罰は当たらないだろう。それどころか俺は正義の執行人かも知れない。トーラティカから帰ってくる頃にはアイツの部屋は空っぽだ”」


オーガスタの目からはポロポロと涙がこぼれた。

少しヤンチャな末っ子だとは思っていたが、姉2人と共にすくすく育ってくれていると安心していたのに、まさか遠い王都で、こんな乱れた人間になっているとは思いもしなかったのだ。

「(誰にも知られなかったであろう事だけが幸いだけど…だけど………)」


何か引っかかることがある。

家では散らかし放題で、従者が居ないと半日で部屋が荒れるようなだらしない所がウォルターにはあった。

兵隊として王城警備を経験すれば、自分で自分の部屋を片付けなければならないので、ある程度の生活力は身につくだろうと期待していたのだが…。

「(綺麗すぎた…床にモノが落ちて無くて…あの子の部屋なら、もっと散らかっていてもおかしくなかった…)」


よくよく思い出してみる。

何も載っていないライティングデスク。

母親が知っているウォルターなら絶対にあり得ない。

「(………誰か、が、片付けた?)」


誰かは見当がつく。

兵隊長か部隊長、軍の宿舎の管理人だろう。

「(この日記は見つからなかっただけで、本当はもっと具体的な計画書のようなものがあったのかも…だとしたらウォルターの犯罪が国にバレて…いや、そうじゃない!)」


オーガスタは叫びそうになって口を押えた。

「(”証拠品”があったんだ…)」


日記をもう一度読み返す。

かなり前から盗んだ品を売って換金し、使用人たちと分けていたという記述がある。

「(デブと書いてあるし、レジナルド様のお部屋から盗んだに違いない…そんな…)」


不自然な死ではなかった。

「(ゴーレムドラゴンに飲まれて死んだなんて、嘘?本当は…本当は………王族の所有物を盗み、その証拠品が見つかったか、換金した証拠があった。そして裁判にかけられるまでも無くその場で処刑…された?)」


だとしたら、ある意味、家の名誉を軍が守ってくれたことになる。

王家にも漏らさず、内々でこのトラブルを”処理”してくれたので、トムソン家は恥をかかずに済んだ。

「うっ…ううっ、くっ…!」


声を殺して泣いているつもりでも、侍女たちが目を覚ましてしまった。

「オーガスタ様、申し訳ございません」

「お苦しい思いをされている中、私たちはオーガスタ様のお気持ちも考えずに眠ってしまって…」

「違う、違うの…違う…の………」


彼女たちには言えない。

領主である父だけには、帰ったらこっそり打ち明けようと心に誓った。


――――――――――


「うお~~~っ!!!!疲れた!もう動けないぞ!」

「自身に回復魔法をおかけください」


パアア…と、レジナルドの体が薄っすら光る。

「どうです、魔力も残り僅かでしょう?」

「いや、まだ元気だ」

「…今日だけでもう5回ほど回復魔法を使われておりますが、まだ魔力が尽きないとは…?」

「とにかくもう一戦、頼む!」


トーラティカのカントリーハウスでまともにロングソードを扱えるのはマシューだけだ。

正確には、まともに扱える部類なのか怪しいゾーンではあるが、基本の動きはできる。

というか逆に、40歳の中年貴族らしい緩慢な身のこなしが初心者であるレジナルドには丁度良かった。

「おい!後方腕組み執事づらしているそこの男!」

「執事面ではなく実際に執事です」

「アドバイスをしろ!」


ハインリヒのメガネが光った。

「基本の動作を身に付けましょう。蹴られたくなければ絶対に間合いを詰めず、ブレードかクロスガードで相手のブレードを受け止め、弾き飛ばしてください。反動をつけて弾き飛ばし、相手に次の動作をさせないことです」

「聞いたかマシュー!本当の知的キャラはこういう時に自然にメガネのレンズが光るんだ!」

「いいえ、ハインリヒさんのメガネはフレームだけの伊達メガネなのでレンズはございません」

「じゃあ何が光ったんだ?」

「単に知性が光ったのでしょう」

「そっちの方が凄いな?」


――――――――――


アリディンバリスでは、トーラティカの先王の部屋に第一王子が訪れていた。

「どうも、お時間いただきありがとうございます」

「ようこそブレンダン様。演者たちの劇を他の人質と一緒に見る予定だったんだ。参加できなくて残念ではあるが、まあ、演者はアリディンバリス王城のお抱えの人材だしな。王子様に文句を言うわけにもいくまい」


ピキッとブレンダンの口角が持ち上がる。

口の減らないジジイだなという本音はさて置き。

「急なご提案ですが。帰る気は無いでしょうか?」

「どこへ?」

「トーラティカへですよ」


先王の目に眉が寄る。

「どういう意味ですかな?私は人質だ」

「どうって、わかりませんか?心が無い人だ。私は弟のこと思っているんです」

「…」

「あなたは親族全員を納得させてここへ来られたのでしょうが、レジナルドはまだ成人したばかりの、私たちのかわいい第二王子です。ワガママな性格からいっても、遠い異国の地で満足にやれているとは思えません」

「それは…」

「ですから、帰りませんか?」

「…いや、戻ることは絶対にできない。しかし…」

「レジナルドは人の手を煩わせてばかりの問題児でした。ですが、トラブルメーカーがいざ居なくなってみると、それはそれで寂しさを感じてしまい。精神年齢が幼いあいつが、周囲に迷惑をかけていないのかも心配ですし。騒ぎと混乱の寵児なんです」


先王は内心ギクリとしていた。

トーラティカに置いてきた娘、クローイを思い出す。

「出来の悪い家族を人質として送ったのは間違いでした。もっとしっかりしたいとこが居るにも関わらず」

「…そのいとこは何と言っている?」

「!」

「私が帰る事は絶対に無いが、そちらの人質を変えることなら可能だろう。私から一筆書いて、後は両国の議会で承認されれば問題はないはずだ」

「!!!!!!!!!!!」


ブレンダンは脳内で高速ガッツポーズを決めまくった。

余りに高速で繰り返したので、傍目には停止して見えるほどだ。

嬉しさが限界突破し、処理落ちでブレンダン本人の動きもカクカクしている。


――――――――――


「もういいでしょう」


トーラティカのカントリーハウスでは、執事がジャケットを脱ぎ、ベストとシャツだけになった。

マシューは気絶するように芝生に倒れ込んでいる。

「私の番です」

「いや、マシューを回復魔法で回復させれば済む」

「魔力はご自身の体力を回復させるのに取っておくんですよ。それより、剣を捨てる練習をしましょう」

「えっ!?」

「相手のブレードを脇に挟んで、両手剣をどうやって持つんですか?」

「それは確かに。ギュっとグリップを握る練習をしてばかりじゃ、いざという時に手を離せないだろうしな」

「では早速。向かってきてください!」

「おうっ!!」


レジナルドはハインリヒに向かって走った。

相手の剣のブレードを脇に挟み、動かなくしたうえで自分の剣を捨てる。

「…って、捨ててどうするんだ?その後は?俺は素手になるんだぞ?」

「殴ってください」

「!?」

「私を殴ってください」

「そ、そんなことできない!」

「できない事だからこそ練習するんですよ」

「ポジティブに言うな!」

「暴力でしか解決できない問題もあるんです」

「それってどんな問題だ?」

「暴力でしか解決できない問題というのは、解決方法が暴力しかない問題のことをさします」

「うむ?」

「天性の素質があるエリート暴力人間を除き、ほとんどの人畜無害なレミング共は、他人を殴ること、蹴ることに抵抗を感じるんですよ。しかし、覚悟を決めたならそれは許されません。徹底的に訓練して、己の中にあるリミッターを解除する感覚を脳に覚えさせましょう。四則計算と同じですよ。反復練習で、呼吸をするように他人との距離を詰め、攻撃のために体を使えるようになるんです。できた時には最高の快感を覚えますよ!」

「お前な、カウンセリングを受けろ?」


――――――――――


「いっ…たぁああ!!!!痛いっ!」


レジナルドの手の甲、握りこぶしの出っ張った部分の皮が剥けてしまった。

「もう中手骨ちゅうしゅこつを鍛えている時間もございません。即回復魔法、これです」

「っく、クソ!絶対にフィリップに負けたくない!」


レジナルドの手が光る。

乾燥した血が付着しているものの、剥がれた皮膚は元通りだ。

「殴るコツは掴めましたね?」

「頬骨に当たると痛い。痛いというか、こっちのこぶしがやられる」

「素晴らしい。脳を揺らすためにもアゴを狙いましょう。口はいけません。相手の歯で拳が傷つきます」

「怖いなぁ~?」


ハインリヒの顔がパッと光る。

「レジナルド様!私に回復魔法は使わないでください!歯が生えてきたじゃございませんか!」

「ぬ、抜けたままだと日常生活に支障が出るだろ!?それに、殴られたらシンプルに痛いじゃないか。別にお前に痛い思いをして欲しいわけじゃないんだ」

「魔力を無駄にしませんように。あと、痛いですが痛みに強いので大丈夫です。むしろアドレナリンが出てワクワクしてくるので、一種の快楽とも言えましょう。ですから私は殴られっぱなしのほうがいいんです」

「怖い」

「まだ他人を殴ることにためらいがあるんですか?」

「お前が人として怖い」


レジナルドにもある種の”才能”があった。

アリディンバリスでゴロツキがたまり場にしている酒場に乗り込み、体ひとつで暴れたり、チェアを持ち上げて投げ、相手を怯ませたりと、戦うことを恐れない本能を持っていた。

従者や兵士が活躍してくれた場も多かったが、それでも敵に向かい、揉みくちゃになりながら騒ぐことに恐怖はなかった。

レジナルドは上半身を低くし、ハインリヒの腰を掴む。

「うおっ………!?」


100kg近いハインリヒを担ぎ上げ、剣を手から離させる。

そして勢いをつけ、相手の体を地面に叩きつけた。

「…っふ!!!!!!」


間髪入れず相手の胸を踏み、起き上がれないように体重をかけた。

上半身を起こさせないためには、腹ではなく胸、何なら鎖骨のあたりを踏むのがコツだ。

「………いいでしょう!しかし潰すなら利き手です」

「王子の指をひしゃげさせて、俺の立場はどうなる?」

「確かに」


――――――――――


レジナルドはすさんだ顔で夕食を食べている。

マシューが心配した。

「流石に魔力切れですか?」


レジナルドは指を伸ばした。

マシューの皿に乗ったキラキラコーンのキッシュを、直火で温める。

「おやめください、テーブルクロスが焦げますでしょう」

「すまんな。ところで、俺は元気いっぱいだ」

「…」

「お前の事は回復させてやったが?」

「…お付き合いしましょう。宰相にスニッチしても何も変わらないなら、直接王子様にわからせるしかありません」

「わからせモノだとすると若干話が違ってくるなぁ…?」


――――――――――


アリディンバリスの劇場は今日も客でいっぱいだった。

ケガから完全に回復したロジャーは大活躍だ。

飛んで跳ねて踊って歌って、舞台の端から端まで移動して、動けるデブの名誉をほしいままにしている。

拍手喝采の最中、天井近くに作られた小部屋で、脚本家が支配人に次の演劇の脚本を見せていた。

「地下のモグラ帝国の守護者となった主人公は、最大の敵であるワンハンドレッド・ヘッズ・アースワームを封印し死ぬ。モグラ文明において神話的存在となった主人公は500年後に転生するが、そこは魔法の力が衰え、威張って私腹を肥やすだけのモグラが王を名乗る、腐敗した地下世界だった。高貴なるモグラの精神を取り戻すべく、呪われた邪悪な力を持つ冠と王笏を捨てるための旅が今、はじまる………」

「それって2時間の尺に納まるか?」

「実際の見どころは教養のひけらかしシーン、古代の強力な魔法で荒廃した無人都市を吹っ飛ばすシーンなので40分持つかも怪しいです」

「それでいこう!!」


なんだかんだ転職を思いとどまっている脚本家は、原稿に”OK”とメモをする。

「それで…ロジャーはこのまま主役に据えて、主演を務めてもらいましょう」

「待て、実は考えがあるんだ。この前の夜会でロジャーが大人気だった話は知ってるだろう?」

「もちろんです。新聞でも読みました」

「それがなんと、次の夜会にも呼ばれたんだ!道化は数居れど、ロジャーのようにスター性を持った演者はなかなか居ない。ここはひとつ、代役を探して二馬力で主演をやらせようじゃないか。ロジャーは貴族や王族とのコネクション作りに役立つ。国でイベントがあれば、そっちを優先させるつもりだ」

「つ、ついにボロ小屋から出発したこの劇団が!王家に認められたなんて!!」

「ああ。とんとん拍子で話が進んでいてな。もうモルリヴァールの劇団にも所属させたし、ソフィーとかいうマネージャーも付いている。この箔は大切にしないとな。さらにその上で、王家のお墨付きが付いたなら…この劇団はアリディンバリスで一番を名乗れる!」

「市民は権威に弱いですからね。モルリヴァールとアリディンバリス王家、2つの名誉が得られれば、それより上は無いですよ!!」


――――――――――


トーラティカのカントリーハウス。

もう夜だというのに馬車がやってきた。

「誰だ!?」


外で訓練していたレジナルドは手を止め、剣を置いた。

馬車から、どこかで見た顔の中年男性が飛び出してくる。

「お待たせしました!お世話になっております、雑貨屋ですよ」

「…この巨人のヒザには、関係者以外近づけないように魔法が張られていると聞いたが?」

「今って工事関係者が出入りしていますでしょう?結界が解かれているんです」

「そんなガバいセキュリティシステムで大丈夫なのか????」

「現実世界でも実際に工場・ビル内などで大規模な改修がある際には、人の出入りに対応するため警備システムを停止し、その結果、盗難、破損、部外者の不法侵入などのトラブルが起こることはしばしばございます」

「何の話だ?」

「私は部外者で不法侵入しております」

「出てけ?」


馬車から大きな荷物が降ろされる。

「レジナルド様のお体に合う、といいな、という防具、甲冑です」

「!?」


マシューも驚いて甲冑を触る。

「た、高かったでしょう!革の防具がひと揃え50万ゴールド、プレートアーマーの方は…お値段が青天井なので何とも」

「貴族や王族が作られるオーダー品ならそうでしょうが、既製品ならそれほどしませんよ」


レジナルドは不可解そうに雑貨屋を見る。

「なぜこんな事を?」

「セーラ様からの言いつけです。防具とひとくちにいっても、革の防具とプレートアーマーがございますからね。王城できちんと対決するならプレートアーマーを身に着ける可能性も高いので、どちらも買ってきました。王都のちゃんとした店で買いましたから、レシートがあれば返品も受け付けてくださいますよ。初期不良の交換は1週間を目安にお願いいたします」

「体のサイズはどうやって知ったんだ?」

「仕立て屋を訪ねました。カントリーハウスへの行き来が許可されており、実際にレジナルド様のお体を測った数字を持っていると聞いたので」

「…そうか。カネを立て替えてくれてありがとう。なんとか支払いたいが生憎人質の身で、すぐには出せない」

「これはレジナルド様のゴールドで購入しました」

「?」

「ミニ馬車キットの売り上げの1%はレジナルド様のものですから。取っておいたゴールドから支払いましたよ」

「きょ、教会に寄付しろと頼んじゃないか!!」

「それに、ここで恩を売っておけば、”光る!回る!音が出る!魔法剣オモチャ”の販売権をウチの店にくださるかも知れませんしね」

「…ありがとう。いくらでも作って売ってくれ!!」


本来なら真っ暗な夜。

ビルは光魔法のライトで庭を照らした。

ハインリヒとマシューが協力して、レジナルドにプレートアーマーを装着していく。

マシューがボヤいた。

「…これって通訳の仕事なんですかねぇ!?」


執事が笑う。

「乗り掛かった舟ですよ」


全身を甲冑で覆うと、やはり動き辛い。

動き辛いのは動き辛いのだが…。

「…不思議だ。それほど重く感じないな?」

「レジナルド様はつい最近まで、ご自前のファットアーマーを装着されていたではございませんか」

「何という事だ!というか、痩せた重量を考えるとワンチャンプレートアーマーの方が軽い説まであるぞ!?」


レジナルドは月に吠えた。

「秋の夜長を、まさかこんな風情さとは真逆のケンカの練習という野暮の極みで過ごそうとは!」

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